エレベーターのドアに挟まれて死亡するなど、悲惨な事故がニュースになることがあるエレベーター。実際に事故に遭った際、怪我だけでは済まないような事例も過去にありました。実際に起きてしまった場合、どこに責任を求められるのでしょうか。今回はエレベーター事故で死亡してしまった場合の損害賠償について解説します。

エレベーターの事故で死亡したら損害賠償を請求できる?

エレベーターに挟まれてしまった等の事故によって死亡した場合、挟まれてしまった人がエレベーターを誤って操作してしまった等は自分で引き起こした事故ですから、誰かに損害賠償の請求をすることはできません。エレベーター自体に欠陥等があった場合や、エレベーターの保守・管理が適切に行われていなかったことが原因でエレベーターが誤作動したような場合等には、損害賠償の請求をすることができます。

損害賠償を請求できるのは誰?

エレベーターの事故で人が死亡した場合に、死亡した方の遺族が、損害賠償請求を行うことができるのは言うまでもありません。また、建物の所有者は、民法上の工作物責任を負っています(民法717条1項)。

工作物責任は無過失責任ですから、建物の所有者は、所有者に過失があったかどうかにかかわらず、工作物の「瑕疵」が原因で起こった損害については損害賠償義務を負っています。エレベーターも工作物の一つですから、エレベーターの「瑕疵」、つまり「欠陥」が原因で事故が起きて人が死亡したときは、建物の所有者が、死亡した人の遺族に対して損害を賠償しなければなりません。

所有者が被害者に対して損害賠償した場合、瑕疵の原因が所有者以外にあるときは、所有者はその瑕疵の原因をつくった者(例えばエレベーターのメーカーや保守管理を委託している業者)に対し、被害者に支払った損害を「求償」することができます(民法717条3項)。ただ、この場合、「求償」できるのは、原則として被害者に対して支払った金額に限られますし、それ以外にメーカーや管理業者に請求できるのは欠陥の修理費等にとどまり、エレベーター事故が起こったことでその建物の評判が悪くなったことに伴う資産価値の減少等の損害は認められない可能性が高いといえます(これは、裁判では、「欠陥」が修繕されていれば、資産価値には影響を及ぼさないと判断される傾向にあるからです)。

ただ、エレベーターの所有者がホテルや百貨店等の場合、資産価値の減少そのものではないですが、事故が原因で客足が遠のいたことによる損害については認められる可能性がないとはいえません。ただし、客足が遠のいた原因が、エレベーターの事故によるものかどうかの判断は難しく、これを証明するのは困難である場合が多いといえます。

損害賠償を請求する先はどこ?

まず、前述のように、建物の所有者は、エレベーターに欠陥があったことが原因で人が死亡した場合、過失の有無の関係なく損害賠償の責任を負います(マンションのエレベーターで事故があればオーナーが所有者として責任を負いますし、市役所のエレベーターで事故であれば市が責任を負うことになります)。

また、エレベーターの欠陥が、製造上のものである場合は、製造業者であるメーカーも損害賠償の責任を負います。

さらに、その欠陥が、保守点検が適切に行われなかったことに原因がある場合は、保守点検を適切に行わなかった業者も損害賠償の責任を負います。

なお、エレベーターの保守点検は、建築基準法に基づき、建物の管理者が、月1回の保守点検と年1回の定期検査を行う義務を負っています。仮に、この保守点検や定期検査を行うこと自体を怠っていた場合は、建物の管理者(ショッピングセンターであればその運営主体、鉄道の駅であれば鉄道会社、マンションであれば管理組合等)が損害賠償の責任を負う場合もあります。

まとめ

エレベーターの事故で人が死亡した場合、その原因によって、誰に損害賠償を行うことができるかが変わってきます。ただ、誤作動の原因が、製造上のものなのか保守点検上のものなのかを判断するのは容易ではなく、また、それを裁判等で証明するのも一般の方には困難と言わざるを得ません。また、損害といっても、いくら請求できるのかという点についても、専門知識が必要です。ですから、エレベーターの事故に遭ってしまった場合は、裁判を起こすかどうかにかかわらず、一度弁護士に相談をしてみられるとよいでしょう。