器物損壊罪で逮捕された場合、どれくらいの刑の重さになるのでしょうか。器物損壊罪で逮捕された場合の流れについても詳しく見ていきましょう。

器物損壊罪とは

器物損壊とは、他人の物を損壊または傷害することをいいます。傷害は、「他人の物」が動物である場合の用語です。ここでいう損壊とは、物理的に壊すことだけではなく、物の効用を害する一切の行為を含むとされています。そのため、たとえば飲食用のすき焼き鍋やとっくりに放尿した行為が器物損壊にあたると判断した裁判例があります。

器物損壊罪を犯したものは、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処すると定められています。

器物破損罪で逮捕されたら

器物破損罪で逮捕された場合の流れ

警察に逮捕された場合、48時間以内に検察官に送致されるか、送致されずに釈放されるかのいずれかになります。

検察官に送致された場合、検察官は、身柄拘束の必要があるかを検討し、送致から24時間以内に勾留請求するか、釈放するかのいずれかを選ばなければなりません。

検察官が勾留請求をした場合、裁判所が逃亡や証拠隠滅のおそれがあるか否かを検討し、勾留をするかしないかを決めます。

勾留を認める場合、原則としてそこから10日間、身柄拘束が続くことになり、その間、警察や検察から取り調べを受けることになります。

壊したものが公共物か私有物かで罪の違いはあるの?

器物損壊罪でいう「他人の物」とは、公用文書、私用文書、他人の建造物または線、以外の全てのものをいいます。

したがって、対象が公共物であっても私有物であっても器物損壊罪が成立することになります。

物を壊して逃げた場合はさらに刑が重くなるの?

逃げたこと自体で直ちに刑が重くなるとはいえません(もちろん、逃げなかった場合と比べて検察官や裁判官の印象は悪くなりますが)。

ただし、自動車等で他人の物を壊して逃げた場合(いわゆる当て逃げ)、逃げたことで警察への報告義務違反など別の罪を犯したことになり、結果的に処分が重くなることはありえます。

物を壊して隠した場合はさらに刑が重くなるの?

損壊を物理的な意味に限定せず、広く物の効用を害する行為ととらえると、損壊には物を隠匿する行為も含まれることになります。

もっとも、最初に物を壊した時点で器物損壊罪が成立するので、その後に隠しても別途器物損壊罪が成立するわけではありません。

ですから、さらに刑が重くなるとはいえません。

お酒の酔いの勢いで物を壊しても器物破損罪になるの?

単に酔っていたというだけでは、器物損壊の責任をまぬかれることはできませんが、刑法は心神喪失者(是非の弁別能力または行動を制御する能力を欠く状態)の行為は罰しないと定めているため、泥酔して心神喪失状態で物を壊してしまった場合には、処罰はないということになります。

とはいえ、泥酔してしまい、後日その間のことを記憶していなかったとしても、人の物を盗ってはいけないとか、人に暴力を加えてはいけないといったことがわからなくなるまで酔うことは稀ですので、簡単には心神喪失と認められません。

また、たとえば酒癖が悪く、酒を飲むと暴力をふるってしまう人が、酩酊状態を利用して他人に暴力を振るおうと考えて飲酒し、意図した通り酩酊して心神喪失状態になり、他人に暴力をふるったような場合には、心神喪失者は罰しないとの刑法の規定は適用されないとされています。

この理論は、器物損壊罪にもあてはまりますので、このような事情があれば、心神喪失状態で物を壊した場合でも器物損壊罪で処罰されることになるでしょう。

故意ではなく物を壊した場合も器物破損罪になるの?

刑法は、原則として故意(罪を犯す意思)があった場合のみを処罰することとされており、過失(不注意)で他人の権利等を侵害した場合には、過失犯を処罰する規定のない限り、犯罪は成立しません。

他人の物を壊す行為については過失犯を処罰する規定がないので、故意がなければ原則通り犯罪が成立することはありません。

ただし、自動車等の運転者が不注意により他人の建造物を損壊した場合には、道路交通法で特別に定められた運転過失建造物損壊罪に該当し、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

なお、これは刑事上の責任の話で、故意ではなく過失で他人の物を壊した場合でも民事上の責任(損害賠償義務)を負うことには変わりありません。

壊そうとして実際は壊れなかった場合も器物破損罪になるの?

他人の物を壊そうとしたが壊れなかった場合、他人の物を「損壊した」とはいえません。

この場合のように、犯罪の実行行為に着手したが、結果が発生しなかった場合を未遂といいます(結果が発生した場合は既遂といいます)。

未遂犯は、未遂を処罰する特別の規定がない限り、処罰されることはありません。

器物損壊罪については、未遂を処罰する規定がないので、物を壊そうとしたが結果的に壊れなかった場合には、処罰されることはありません。

自分の子供(未就学児)が壊した行為も器物破損罪になるの?

刑法41条は、「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めています。

したがって、未就学児が他人の物を壊した場合、形式的には器物損壊罪にあたりますが、処罰されることはありません。

また、刑法は個人の責任を問うものですから、未就学児の親が罪に問われることもありません。

もっとも、親が善悪の区別のつかない未就学児に対し、他人の物を壊すよう指示し、未就学児が他人の物を壊したような場合、親が未就学児を道具のように扱って自身の犯罪を遂行したととらえることができるので、親に器物損壊罪が成立する余地があります(間接正犯と言います)。

自分のペット(犬や猫など)が壊した行為も器物破損罪になるの?

刑法は、原則として人(特別な規定がある場合には法人も)の行為を処罰するものです。

したがって、ペットが他人の物を壊したことを直接罰することはできません。

仮にペットの管理が十分でなかったとしても、さきほどご説明した通り、過失の器物損壊を処罰する規定がないため、飼い主が処罰されることもありません。

ただし、5.で説明した間接正犯の理論は、ペットの場合にもあてはまります。

つまり、飼い主がペットを道具として他人の物を壊したと評価できる場合には、飼い主に器物損壊罪が成立する余地があります。

なお、民法では動物の占有者の損害賠償責任が定められていますので、飼い主に過失がある場合には、民事上の損害賠償義務を負うことになります。

身内の物を壊しても器物破損罪になるの?

刑法では、一部の犯罪について、親族間で行われた場合の特例を定めています。

たとえば、窃盗罪は、配偶者、直系血族または同居の親族の間で行われた場合には刑が免除され、その他の親族の間で行われた場合には、告訴がなければ起訴することができないと定められています。

ところが、器物損壊罪には、このような特別の定めがありません。

したがって、身内の物を壊しても器物損壊罪が成立します。

もっとも、器物損壊罪は、身内に限らず親告罪(告訴がなければ起訴することができない)とされていますので、身内からの告訴がなければ処罰されることはありません。

器物破損罪で逮捕されたらすぐ刑務所行きなの?

逮捕された被疑者がすべて刑務所に行くわけではありません。

器物損壊罪は、比較的法定刑の軽い犯罪ですから、前科等がない限り、不起訴(起訴猶予)といって何の処分もなしで終わるか、略式命令という簡易な手続で罰金刑になることがほとんどです。

器物損壊で刑務所に行くのは、前科が多数あるなど、限られた場合だけといえるしょう。

なお、器物損壊罪についての逮捕は、現行犯逮捕に限られず、証拠がある場合には、逮捕状による通常逮捕も可能ですので、犯行から時間が経過してから通常逮捕される可能性はあります。

器物破損罪で逮捕されてもすぐ釈放されることは可能か?

器物破損罪で逮捕された場合の流れで紹介したとおり、警察は被疑者を逮捕した場合、48時間以内に検察庁に送致するか、釈放しなければなりません。

器物損壊罪のような比較的軽微な犯罪の場合、逮捕されたとしても、被疑者が自白(罪を認める)していれば、検察官に送致されずに釈放されることも多いのです。

ですから、実際に器物損壊をしてしまった場合には、素直に認めて反省の態度を示すことが、釈放への近道と言えるでしょう。

また、さきほども触れたとおり、器物損壊罪は親告罪ですので、示談をして告訴をしないことを約束してもらうか、すでにした告訴を取り下げてもらうことができれば、それ以上捜査が継続されることなく、釈放されます。

器物破損で逮捕されたら弁償しないといけないの?

器物損壊罪で逮捕された場合、弁償しないといけないということはありません。

そもそも、弁償とは民事上の損害賠償のことであり、民事上の賠償責任と刑事上の責任(刑罰)とは別問題ですから、弁償をしなければ必ず刑罰を受けるというわけではないのです。

先ほどもご説明したとおり、器物損壊罪はもともと法定刑が軽い犯罪ですから、被害者の損害が軽微な場合には、弁償をしなくても勾留されることなく釈放されたり、処罰されなかったりすることはありえます。

ただし、確実にそうなるとは言えませんし、仮に刑事上の責任をおわずに済んだとしても民事上の責任は依然として残ります。

したがって、可能であれば被害弁償の努力をした方がいいでしょう。

まとめ

今回は器物損壊罪について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

器物損壊罪のような親告罪は、仮に逮捕されたとしても速やかに示談を成立させることにより早期に身柄を解放し、処罰を免れることができます。

そのためには、刑事事件に詳しく、被害者との示談交渉の経験も豊富な弁護士に相談・依頼をするといいでしょう。