無線LAN、便利ですよね。カフェや駅などでもWi-Fi接続可能になっているところをよく見かけます。一般家庭でも使っている方が多いのではないでしょうか。

家庭ではパスワードをかけていることが多いと思いますが、中にはパスワードなしで使えてしまう無線LANポイントも…。それらに接続することに問題はないのでしょうか?Wi-Fiにただ乗りさせた結果犯罪に巻き込まれてしまったらどうなってしまうのでしょうか。ただ乗りした側、ただ乗りされた側に分けて、詳しく見ていきたいと思います。

Wi-Fiにただ乗りした場合

パスワードのかかっていないWi-Fiに接続!犯罪になる?

接続すること自体の犯罪性

他人のWi-Fi無断で接続する行為は、インターネットの利用権の盗用ともいえます。刑法において有体物(電気を含む)を権利者に無断で使用することは窃盗罪等を構成することがありますが、インターネットの利用のような役務の無断利用は、刑法上の財物に該当せず、刑法上の窃盗罪等の財産に対する罪では処罰されません。

さらに、インターネットの利用により真実の権利者の利用を妨げたのではない限り、刑法上の業務妨害罪も成立しません。また、パスワード自体がかかっていない以上、真実の権利者のIDやパスワードを利用したという行為が介在していない以上、不正アクセス禁止法に抵触することもありません。

以上により、Wi-Fiを接続すること自体については何らの犯罪も構成しません。

持ち主の利用を妨害、または不能にした場合

まず、持ち主(真実の権利者)が、Wi-Fiを仕事で使用している場合を想定します。

持ち主がこのような無断利用を知らないことに乗じて、Wi-Fiの無断使用を行い、その結果、大量の通信により速度制限を課し、又はプロバイダーから使用停止処分がなされることにより持ち主のWi-Fiの利用が妨げられたという場合には、偽計業務妨害罪(刑法233条、3年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑。)が成立する可能性があります。

Wi-Fi上で通信されているメール等を盗み見た場合

まず、Wi-Fiに接続すること自体は何の罪にもなりません。そして、Wi-Fi上で通信されている真実の権利者のメールを解析する行為についても、その行為にIDやパスワードが必要であり、そのID及びパスワードを窃取したという事情がない限りは、この点についても犯罪は成立しないことになります。

Wi-Fiが突然使えなくなって、持ち主の家に怒鳴り込んだ!犯罪になる?

他人のWi-Fiを無断で使用していた者が、突然Wi-Fiが使えなくなったことにより、他人に対し暴言を吐く、設定を戻せと怒鳴る、何度も家に訪問するなどの行為を行った場合、どのような罪が成立するでしょうか。

まず、他人に対し暴言を吐く行為は、侮辱罪(刑法231条、拘留または科料。)や名誉毀損罪(刑法230条、3年以下の懲役刑若しくは禁固刑又は50万円以下の罰金刑。)を構成します。

次に設定を戻せと怒鳴る行為は、このような者にWi-Fiの設定を戻して使用させる義務を権利者が負うはずもないことから、脅迫により義務のないことを行わせようとしているので、強要罪(刑法223条1項、3年以下の懲役刑。)が成立します。

そして、このために何度も家に訪問する行為は、家人としては迷惑であり退去を希望するでしょうから、家人から退去を求められたにも関わらず、退去しなかったということで、不退去罪(刑法130条後段、3年以下の懲役刑又は10万円以下の罰金刑。)が成立します。

なお、これらの行為を行ったことが、従前は使えたWi-Fiを使う目的であったとしても、正当行為(刑法35条)その他違法性を阻却する事由は認められないので、そのような目的を有していることが犯罪の成立を妨げることにはなりません。

Wi-Fiのパスワードを発見。持ち主の許可を取らずに接続したら犯罪になる?

アクセスする行為自体の違法性

この場合には、パスワードの持ち主の許可を得ずにWi-Fiに当該パスワードを入力していることから、不正アクセス禁止法第2条第4項第1号の不正アクセス行為に該当し、同法第3条により処罰されます(3年以下の懲役又は100万円以下の罰金刑です。同法第11条。)

パスワードが書かれた紙等を領得する行為の違法性

まず、この場合は不正アクセスの目的で、パスワードを取得したと評価できますので、不正アクセス禁止法第4条1項により処罰されます(一年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金、同法第12条第1号。)。

さらに、当該紙片は、単なる「紙切れ」ではなく、Wi-Fiにアクセスするための情報が規定されている財産的な価値の高い情報が化体された紙片ですので、これの紙を領得した行為は財物を窃取したとして窃盗罪を構成します(刑法235条、10年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑。)。

パスワードを解析してWi-Fiに接続したらどうなる?

不正アクセス禁止法第4条1項で他人のパスワード等の識別記号を不正に取得する行為が禁止されているところ、同項の「取得」とは、識別記号を自己の支配下に置く行為をいい、パスワードを解析して、当該パスワードを知得する行為も含まれるので、当該行為は、同項禁止されている他人の識別記号の不正取得罪で処罰されます。

さらに、当該パスワードを用いてWi-Fiに接続した場合には、同法第3条の不正アクセス罪に該当します。

飲食店が提供しているWi-Fi、商品を買わずに接続したら罪になる?

飲食店が、ID及びパスワードを公開しているのは、飲食店での飲食提供のサービスの一環として、Wi-Fiの利用を許可していると考えるのが常識的です。当該飲食店を利用する意思のない者に対しては、許可しないというのが当該飲食店の合理的な意思と考えられます。

そうすると、このような者が、店外から当該IDとパスワードを利用してWi-Fiを用いてインターネットに接続する行為は、不正アクセス禁止法第3条の不正アクセス禁止罪に該当する可能性が高いです。とはいえ、実際にこれで摘発されることになるかについては、飲食店を利用する意思がないことの証明が困難であるため、摘発も困難なものになることが予想されます。

Wi-Fiにただ乗りされた場合

ただ乗りした人が犯罪予告や違法ダウンロードをしていたら、Wi-Fiの持ち主が罪に問われるの?

犯罪等の予告をすることは、人の生命、身体又は財産等に対する害悪の告知として脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役刑又は30万円以下の罰金刑。)を構成します。そして、動画又は音楽の違法ダウンロードを行うことは、著作権法第119条第3項に違反し、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処せられます。

しかし、「ただ乗り」した人がこのような行為をしただけであって、権利者は関与していない場合には、権利者にはこれらの罪は成立しません。その処罰される行為を行っていないからです。

さらに「ただ乗り」した人と権利者には共謀は認められないため、これらの罪の共同正犯(刑法60条)は成立しないからです。

Wi-Fiのただ乗りに気づいて通信データを覗き見た。犯罪になる?

端末の通信データを見ることの違法性

Wi-Fiのただ乗りに気づいて端末の通信データを確認する行為は、「ただ乗り」をしている者のIDやパスワードを利用しているわけではありませんので、不正アクセス罪に該当することはありません。その他罪にも該当することはないので、何の罪にも問われることはないでしょう。

「ただ乗り」をした者のIDとパスワードでアクセスした行為の違法性

では、「ただ乗り」としている者のIDとパスワードを取得して、サイトにアクセスした場合には、どうでしょうか。

この場合には、「ただ乗り」している者の承諾を得ずに、その者のIDとパスワードを用いてサイトにアクセスしているので、IDとパスワードを取得した時点で、不正アクセス禁止法第4条の識別符合不正取得罪が成立し、これらを用いてサイトにアクセスした時点で同法第3条の不正アクセス罪が成立しますので、ご注意ください。

まとめ

以上のとおり不正アクセス罪等の構成要件該当性はかなり法律的に高度な判断が必要となり、個別の事案に対する検討は、法律の専門家である弁護士の助力を受けることを強くお勧めします。