泥酔して道路で寝てしまった人に気づかず、車でひいてしまう死亡事故が起きています。もし道で寝ている人に気付かずに、車でひいて死亡させてしまった場合、逮捕されることはあるのか、詳しく見ていきましょう。

夜道で泥酔した人が寝ているとなかなか気づきにくい

夜は道が暗く、道路で寝ている人を認識するのは難しいです。道路で寝ている人を認識し、かつ轢かずに自動車を止めるためには、ハイビーム(車のヘッドライトを上向きにすること)で運転することが必要となってきます。車のヘッドライトはロービーム(車のヘッドライトを下向きにすること)では前方約40メートルまでしか照らしませんが、ハイビームであれば前方約100メートルまで照らすことができます。皆さんにはあまり知られていないことかもしれませんが、夜間の運転においてはハイビームが基本となっているので、夜間の運転の際は、できるだけハイビームで運転するように心がけましょう。

道の真ん中で寝ている人に気づかずひいてしまった場合は罪になるのか

道の真ん中で寝ている人に気づかずにその人を轢いてしまった場合、過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)の成否が問題となります。同罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。」と規定しており、人を轢いてしまったことについて運転上必要な注意を怠ったこと、すなわち過失が存在することが要求されています。

では、道の真ん中で寝ている人を轢いてしまった場合、運転者に過失があるといえるのでしょうか。過失とは、結果回避義務違反(人を轢くという結果を回避する義務)を指します。夜間の場合、暗い中運転しなければならないため、人が道路に進入していないかどうか特に注意しなければなりませんし、道路に人が進入しているかもしれないと予見することも可能であるため、一般的に運転手には「人を轢くという結果を回避する義務」があるといえます。そのため、日夜に限らず、道の真ん中で寝ている人を轢いてしまった場合は、運転者に過失があると判断されることになるでしょう(もちろん、特殊な状況によっては、上記義務を課すことはできないとして、過失が認められない場合もあり得ます)。

前の車がひいた人を自分の車でさらにひいてしまった場合

前方の車が轢いてしまった人を自分も轢いてしまった場合、絶対に過失運転致死傷罪が成立しないとは断定できませんが、過失があると判断されるケースは少ないでしょう。この場合、前方の車が轢いてから自車が轢いてしまうまでの時間的・距離的スパンが短いことがほとんどだと思われますので、前方車が人を轢いてしまった後に自車側が道路に寝ている人を視認し、かつ轢かずに自動車を止める余裕はないはずです(前方車に轢かれた人が目の前に突然現れるかもしれないと予見することは難しでしょう)。そうであれば、後方車である自車側に「人を轢くという結果を回避する義務」を課すことはできないといえ、過失がないと判断されるでしょう。

泥酔して路上で寝ている人に罪はないのか

道路における往来を妨害する犯罪として、往来妨害罪(刑法第124条題1項)があります。同条は「陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定しており、道路などの陸路を妨害すれば同罪が成立することになります。また、道路法第43条第2号は「みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」を禁止しており、これに反すれば「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」に処されることになります(同法第102条第3号)。

もっとも、「泥酔している人が道路で寝てしまう行為のみでは上記罪にあたらない」とか、「泥酔していることから責任能力がない」というような判断がなされ、犯罪として成立しないと考えることも可能です。また、上記犯罪にあたる行為であるとしても、相当悪質でない限りは、警察官による注意等で済んでしまうことがほとんどだと思われます。

自殺目的で道路に飛び出して来た人をひいて死なせてしまった場合は罪になるのか

自殺目的で道路に飛び出してきた人を轢いてしまった場合でも、前記の通り人が進入してくるかもしれないとの予見は可能であるため、過失は肯定されることになるでしょう。もっとも、過失が認められたとしても、運転者の行為について違法性がないと判断され、結局犯罪として成立しないことになるでしょう(そもそも、このような特殊なケースにおいては、検察官が起訴せずに終わることの方が多いと思われます)。

まとめ

昔から、交通事故はどのような場合であれ運転者側が悪いことになってしまうと言われていますが、運転者としてもどんなに注意していても避けられない事故はあるはずです。そのような場合にまで罪に問われることになれば、怖くて運転することができなくなってしまいます。歩行者側にも、交通マナーを守ってもらう必要があるでしょう。

そうはいっても、交通事故を起こしてしまうことはあるでしょう。そのような場合は、落ち着いて被害者の救護をし、後々のために警察にきちんと現場検証等をしてもらい、早い段階から交通事故に詳しい弁護士に今後の対応について相談するべきでしょう。