今は刑事事件のニュースがすぐにネット上にあがるので、被害者や加害者の名前を簡単に知ることもできます。自分のサイトやブログに加害者の実名を添えて事件の記事を載せたときに、サイト制作者が名誉棄損で訴えられたり、逮捕されたりすることがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

そもそも名誉棄損とは何?

名誉毀損とは、人の名誉を傷つける行為のことです。

刑法では、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。

「公然」とは、不特定または多数の人が認識できる状態をいいます。

「事実」は、人の社会的評価を低下させる具体的な事実をいいます。具体的な事実を摘示せず、人の社会的地位を軽蔑する価値判断を表示した場合には、名誉毀損罪ではなく、侮辱罪が成立することになります。

条文からも明らかなとおり、「事実」が真実かどうかは問われていないため、たとえ真実であっても名誉毀損罪が成立することがあります。

「名誉」とは人の外部的名誉、いいかえれば社会的評価のことをいいます。

ただし、名誉毀損には公共の利害に関する場合の例外があり、

①名誉毀損行為が公共の利害に関する事実にかかり

②その目的が専ら公益を図ることに遭ったと認められる場合で

③事実が真実であることが証明されたとき

は、これを罰しないと定められています。

どの程度の誹謗中傷が名誉棄損になるのか?

どの程度であれば人の社会的評価を低下させるといえるかは非常にあいまいで、明確な基準を定めることは難しいでしょう。

過去の裁判例の集積から、新聞、雑誌、テレビなどマスメディアの報道については、「一般読者(一般視聴者)の普通の注意と読み方(視聴の仕方)」を基準に判断されていると考えられるので、一定の参考にはなりますが、最終的には個別の事案ごとに判断するしかないでしょう。

マスメディアの報道だけでなく、個人による悪口やインターネット上のいじめなども名誉毀損に該当する場合があります。

インターネットの普及により誰でも簡単に情報を発信できるようになりましたし、特に近時はSNSの発達により情報が無関係の第三者にまで瞬時に拡散されるようになりましたので、インターネット上の名誉毀損に該当しうる行為は増加していると言っていいでしょう。

名誉棄損は民事事件か刑事事件か?

1.で刑事上の名誉毀損について説明しましたが、名誉毀損は刑事事件になるだけではなく、民事事件にもなります。

具体的にいうと、名誉毀損は不法行為の一類型にあたります。

不法行為とは、故意または過失によって他人の権利、利益を侵害する行為のことで、不法行為を行った者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います。

したがって、名誉を毀損された者は、加害者に対して損害賠償請求をすることが可能です。

また、名誉毀損については、被害者は、損害賠償に代えて、または損害賠償請求と同時に、名誉を回復するのに適当な処分(訂正、謝罪広告など)を求めることがでるとされています。

逮捕され実刑を受けた容疑者の実名を勝手にサイトに載せるのは罪になるの?

過去に逮捕され実刑判決を受けたことがあるという事実は、人の社会的評価を低下させるものといえますので、たとえ事実であっても名誉毀損罪が成立する可能性があります。

実際に処罰されるかどうかは、1.で説明した公共の利害に関する例外の3つの要件を満たすかによります。

なお、起訴されていない人の犯罪行為については、公共の利害に関する事実とみなす(1.の①の要件を満たしたものとする)という規定がありますが、質問のケースではすでに起訴されていますから、通常通りに3つの要件を満たす必要があります。

逮捕されても無罪が確定した者の実名を勝手にサイトに載せるのは罪になるの?

繰り返しになりますが、名誉毀損は、人の社会的評価を低下させる行為をいいます。

犯罪の嫌疑を受け、逮捕されたが、裁判で無罪になった場合、一連の経過を正確に記載すれば、必ずしも人の社会的評価を低下させるとはいえないので、名誉毀損にはあたらないと考えられます。

他方で、後に無罪になったにもかかわらず、逮捕された情報だけを記載すると、4.と同様に名誉毀損の問題が生じる可能性があります。

いじめで被害者を自殺に追いやった生徒の実名をサイトに載せるのは罪になるの?

いじめ行為の具体的な内容を明らかにしたうえで被害者を自殺に追いやったと記載すれば、人の社会的評価を低下させるといえますので、名誉毀損にあたる可能性があります。

これまでの事例と同様、処罰されるかどうかは、公共の利害に関する例外にあたるかが問題となります。

加害者が逮捕されたかどうかは名誉毀損の成立を直接的に左右するわけではありませんが、その後の少年審判、刑事裁判でいじめ行為の内容が認定されれば、真実性を証明しやすくなるとはいえるでしょう。

なお、これまでの議論は、いじめの加害者が訴えた場合の理論的な説明で、実際にいじめの加害者がそこまでするかは別問題です。

刑事事件の名誉毀損は親告罪(被害者の告訴がなければ起訴できない事件)ですから、いじめの加害者が積極的に動かなければ、捜査の対象となることはないでしょう。

実名を載せられた加害者は名前を消すよう要求できるのか?

名誉毀損やプライバシー権侵害にあたる記載をされた加害者は、サイトの管理者に対して、削除依頼をすることができます。

管理者は、指摘された記載が名誉毀損、プライバシー侵害にあたるかを検討し、あたると判断すれば、その記載を削除する必要があります。

実際に削除に応じてもらえるかどうかは、事件の性質や内容、事件から経過した時間の長さなど、様々な事情によって決められます。

逮捕間もないころの削除依頼は難しく、軽微な犯罪で処罰を受けたにかかわらず、事件から相当期間経過した後に情報が載せられているような場合には、削除に応じてもらいやすいといえるでしょう。

全く関係のない人の名前・嘘の情報を流したら罪になるのか?

これまでご説明したとおり、名誉毀損は摘示した具体的事実が真実かどうかは問われませんので、情報の内容が人の社会的評価を低下させるようなものであれば、名誉毀損が成立する可能性があります。

内容が真実ではないので、公共の利害に関する例外にもあたらないでしょう。

嘘の情報を信じた人が、自分のサイトにその情報(実名)を掲載したら罪になるのか?

情報の内容が人の社会的評価を低下させるようなものであれば名誉毀損が成立する可能性があることは先ほどの事例と同様です。

また、真実ではないのですから、公共の利害に関する例外にも当たらないようにも思えますが、先ほどと違い、情報の発信者は真実であると信じています。

このような場合(真実性の錯誤といいます)、最高裁は、真実であることの証明ができなくても、行為者が真実であると誤って信じ、その誤って信じたことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときは、名誉毀損が成立しないとしています。

したがって、単に人の話を鵜呑みにしただけでは名誉毀損が成立しますが、きちんとした資料等により真実と信じた場合には、名誉毀損に当たらない可能性があります。

名誉棄損で訴えられたら反論するのは難しいのか?

名誉毀損で訴えられた場合、「公然」と「事実を摘示」して人の名誉を「毀損」したかという名誉毀損が成立するための要件に対する反論や、仮に名誉毀損にあたるとしても公共の利害に関するもので例外的に処罰を免れるための3つの要件の主張が必要になります。

個人でこのような主張、反論を適切に行うのはなかなか難しいでしょう。

また、6.で記載したとおり、刑事の名誉毀損は親告罪ですから、仮に名誉毀損が成立するとしても、すみやかに被害者と示談ができればそれ以上捜査を受けることはありません。

このようにみると、名誉毀損で訴えられた場合には、早めに弁護士に相談した方がいいといえるでしょう。

まとめ

このように、事実であっても名誉毀損罪が成立すること、インターネットを通じて誰でも簡単に情報を発信することができるようになったことなどから、気付かないうちに名誉毀損に当たる行為をしてしまうおそれは十分にあり、素人考えで安易に「この程度の書き込みは問題ないだろう」と判断するのは危険です。

法律問題で迷ったときは、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。