夏休みと言えばプール!冬でも温水プールがありますが、プール事故が増えるのは、やはり夏。水の事故は怖いもので、亡くなってしまう方もいます。溺れたり、怪我をしたりしてしまった場合、損害賠償を請求することはできるのでしょうか?以下、解説します。

プールで溺れたのに気付いてもらえず……監視員に損害賠償請求できる?

遊泳用プールをはじめとして、プール等施設の安全基準については国土交通省および文部科学省から「プールの安全標準指針」が定められています。これには、施設の安全基準について、監視員や救護員などの基準についても定められています。

プール施設での事故については、この安全標準指針における監視員等の基準を満たしていないなどの事情がある場合、裁判において施設側の過失を認める可能性が高くなり、その場合は施設側に対して損害賠償等を請求できる可能性が高くなります。

プールの安全標準指針において、プールの監視員等について以下の内容が定められています。

3-4 日常の点検及び監視より抜粋

監視、利用指導及び緊急時の対応のため、監視員の適切な配置を行うとともに、プール内で起こる事故の原因や防止策、事故が発生した場合の対応方法等について十分な知識を持って業務にあたらせることが必要である。

3-5 緊急時への対応より抜粋

人身事故が起きた場合は、傷病者の救助・救護を迅速に行うとともに、速やかに消防等の関係機関及び関係者に連絡することが必要である。

3-6 監視員等の教育・訓練より抜粋

プールの設置管理者及びプール管理業務の受託者(請負者を含む)は、安全管理に携わる全ての従事者に対し、プールの構造設備及び維持管理、事故防止対策、事故発生等緊急時の措置と救護等に関し、就業前に十分な教育及び訓練を行うことが必要である。

プールの安全標準指針(PDF)から引用

溺れたことが原因で後遺障害が残った場合

プール施設での事故における損害賠償については「交通事故における損害賠償責任」の内容が適用されることが多いです。仮にプール施設で溺れてしまい、それが原因で後遺障害が残ってしまった場合においても、監視員やプール施設側に過失が認められれば、交通事故における同様の症状が発生した場合と同程度の損害賠償を請求できる可能性があります。

プールで溺死してしまった場合

プールで溺れてしまい、溺死した場合においても、監視員や施設側に過失が認められればその過失の度合いに応じて交通死亡事故の場合と同程度の損害賠償を請求できる可能性があります。

プールの排水口に吸い込まれておぼれた。損害賠償は請求できる?

プールの事故は「溺れる」こと以外にもさまざまな原因で事故等が発生する可能性が考えられます。例えば「排水口」に関する事故です。

プールにおける事故の損害賠償責任が交通事故のそれに準拠する以上、損害賠償責任を問うには施設側の過失を問う必要があります。その際に、裁判において参照するのが前述の「プールの安全標準指針」です。これによると、プールの排水口については以下の基準が定められています。

2-2 排(環)水口

吸い込み事故を未然に防止するため、排(環)水口の蓋等をネジ、ボルト等で固定させるとともに、配管の取り付け口には吸い込み防止金具等を設置する等、二重構造の安全対策を施すことが必要である。

排(環)水口の蓋等、それらを固定しているネジ、ボルト等は、接触によるけがを防止できる仕様とすることや、蓋等の穴や隙間は、子どもが手足を引き込まれないような大きさとする等、材料の形状、寸法、材質、工法等についても十分な配慮が必要である。

3-3 プール使用期間前後の点検より抜粋

プールの使用期間前には、清掃を行うとともに、点検チェックシートを用いて施設の点検・整備を確実に行うことが必要である。

特に排(環)水口については、水を抜いた状態で、蓋等が正常な位置に堅固に固定されていること、それらを固定しているネジ、ボルト等に腐食、変形、欠落、ゆるみ等がないこと、配管の取り付け口に吸い込み防止金具等が取り付けられていること等を確認し、異常が発見された場合は直ちに設置管理者に報告するとともに、プール使用期間前に修理を施すことが必要である。

また、使用期間終了後にも、排(環)水口の蓋等やそれらを固定しているネジ、ボルト等に異常がないことを確認して、次の使用に備えることが望ましい。

指標においては、排水口に関する内容について「二重構造の安全対策 」と「仕様、工法への配慮 」を中心に規定しています。特に後者「仕様、工法への配慮 」については多くの内容が規定されています。これらを満たしていない、あるいは何らかの問題があったと認められれば、施設側の過失であると認められる可能性が高くなります。

プールで転倒して怪我をした。損害賠償は請求できる?

プールでは、さまざまな理由から怪我をしてしまうリスクが存在します。例えば「プールサイドでの転倒」です。プールの安全標準指針では、以下のように規定しています。

2-1 プール全体

プールは、利用者が安全かつ快適に利用できる施設でなければならないため、救命具の設置や、プールサイド等での事故防止対策を行うことが必要である。施設の設置目的や規模、利用の実態等を踏まえ必要に応じ、監視室、救護室、医務室、放送設備、看板・標識類等を備えておくことが望ましい。

施設側は、プールで起こり得る事故を防止することや、いざという時の救命措置に必要な設備を用意しておく必要があると規定しています。例えばプールサイドの場合、プールの安全標準指針の解説によれば「十分な広さ」「水に濡れた状態でも滑りにくい舗装材を使用」などの条件が記載されています。また、危険回避や警告のための看板の設置が必要であるとも記載されています。

仮に、施設の実情がプールの安全標準指針に記載されている内容と異なる場合(例えば舗装材の選定に問題がある、転倒や危険行為に関する注意喚起の看板等が設置されていない等)であれば、それを理由とした怪我であると認められれば損害賠償請求できる可能性があると考えられます。

また、「更衣室」などの場所においても、何らかの問題が発生している状態で注意喚起を怠るなど怪我の原因として施設側の過失等が認められれば、怪我をした際に損害賠償請求できる可能性があります。

ウォータースライダー上の事故、損害賠償を請求したいのだけど……?

プールの中には「ウォータースライダー」が設置されているところもあります。スピード感があって楽しいものですが、そのスピードゆえに事故が発生する可能性も否定できません。

「日本ウォータースライド安全協会」によると、ウォータースライダーの設置や維持保全に関しては「建築基準法」の適用を受けるとされています(一部除く)。建築基準法の適用により、ウォータースライダーの所有者は確認申請と完了検査、および維持保全に関する義務が生じるのです。

監視員のミスで他の客と衝突!

まずは「監視員のミス」によって他の客と接触事故を起こした場合です。この場合、監視員のミスという施設側の過失が認められる要素が強いため、損害賠償を請求できる可能性は十分に考えられます。ただし、被害者側にも過失があるのであれば、請求通りに損害賠償の支払いが認められるかどうかは難しくなるでしょう。

この事故の場合も、交通事故における損害賠償請求の事例が参考にされることが多いです。通院期間や発生している症状、過失割合などによって請求できる金額は増減します。

監視員の指導は正しかったけど…壁に激突。設計ミスが疑われる場合

次に「監視員の指導に問題が無かった場合」の事故についてです。考えられる原因としては「ウォータースライダーの設計にミスがある」など、ウォータースライダーに何らかの問題が生じてる場合が考えられます。

この場合、設計ミスなどウオータースライダーに問題があると証明できる場合においては、被害者は建造物(ウォータースライダー)の所有者に対して損害賠償を請求できるとされています。なお、当該建築物の所有者は管理者や設置者などの他の関係者が当該事故の原因について責任を負うべきであると証明できる場合において、求償権を有するとされています。

いずれにしても、利用者(占有者)の利用状況等に問題が無いのであれば、ひとまず建造物の所有者に対して損害賠償請求ができる可能性は十分に考えられるでしょう。

まとめ

プールでは、さまざまな理由で怪我や死亡事故が発生する可能性があります。怪我の原因が施設側の過失によるものであると認められれば、損害賠償請求できる可能性があり、交通事故における損害賠償請求が参考にされる可能性が高いです。ただし、一口に事故といっても状況はさまざまですから、常に損害賠償請求が認められるとは限りません。できるだけプールの安全標準指針やプールでの事故に詳しい弁護士に相談し、必要であれば依頼をすることをおすすめします。