教習所の近くに住んでいると、教習中のプレートを付けた車を良く見かけますよね。中には、これから路上に出る人や、今まさに路上教習を受けている人、もうすぐ卒業検定の人もいることでしょう。
教習中、助手席では教官が運転を見守ってくれるのですが、それでも事故を防げなかったり、もらい事故に遭ってしまう事もあります。
この記事では、教習車の事故について解説します。

教習所内での事故の場合

教習所内で練習中、後ろの車がアクセルとブレーキを踏み間違えたのか追突してきました。教官のブレーキも間に合わなかったようです。
お互い仮免も取れていないのですが、この場合どうなるのでしょうか?

教習所内は道路上の事故と同じか

道路とは、道路交通法で道路法の規定により敷設される自動車又は一般交通用に供される場所と定義され、教習所内は一般交通の用に供されることはないので、道路に該当しません。したがって、教習所内は道路交通法の適用がありません。交通事故の類型として考えた場合、むしろ近いのは駐車場内の交通事故です。そして、裁判例において、駐車場内の事故においては、道路交通法の適用自体はないものの過失の考え方については準用されています。したがって、教習所内の交通事故も道路交通法自体の適用はないものの、その考え方が準用されることになります。

無免許運転として過失が加重されるのか

上記のとおり教習所内は「道路」ではありません。そして、無免許運転とは道路において自動車を免許を受けずに運転することです。したがって、教習所内で仮免許も持たずに自動車を運転したとしても道路交通法上の無免許運転に該当しません。したがって、そのこと自体は、過失の考慮において無免許運転として斟酌されることはありません。

教官(自動車教習所)も加害者に含めることはできるのか

自動車運転所の教官は、自ら自動車等を運転する場合にあっても、また、教習生運転の自動車に同乗している場合にあっても、「交通の方法に関する教則」(昭和53年国家公安委員会告示第3号)に則り、「他者(車)との共存、思いやりの精神に基づき、自ら道路交通法規を遵守するはもとより、教習生に対し道路交通法規を遵守して運転するよう指導しなければならないが、単に自ら道路交通法規に忠実であるだけでは足らず、常に、運転技能に習熟せず、学科も十分習得していない教習生が運転する他車が走行していることに留意し、道路交通法規に従わないで走行する車両のあることをも予想し、他車の動静に十分な注意を払い、急ブレーキ等咄嗟の措置を怠らないようにして事故の発生を未然に防止する義務があるといわなければならない。」とされています(東京高等裁判所平成2年11月26日判決)。

したがって、教官(教官を雇用している自動車運転教習所も含まれます。)は、被害者である教習生に対しても、上記のような配慮義務を尽くす必要がありますので、当該教官が同乗している教習車が教習所内で他の教習生の運転する車両に追突し、当該他の教習生に怪我を負わせたような場合には、教官も運転車に連帯して責任を負うことになります。

過失割合

教習所はいわば一般の道路のミニチュアであり、しかも一般の道路に備え付けられている信号や標識及び道路標示がそのまま敷設されています。そして、教習所での車両の運転は一般の道路に近い動きをするのが通常です。そうであるとすると、教習所内での交通事故は駐車場内の交通事故によりも一般の道路に近い過失割合で判定されることになるのではないでしょうか。

教習所内の事故まとめ

本件では、車両を運転していた教習生及び当該車両に同乗していた教官は、連帯して他の教習生に対し民事上の責任を負うことになります。そして過失割合は一般の道路に近い割合で適用されることになります。

路上教習中・卒業検定中の事故の場合

仮免許中の路上運転は無免許運転になるの?

道路交通法87条に基づき仮免許も運転免許の一種ですので、仮免許中の運転は教官の同乗その他道路交通法に要件を具備している限りは無免許運転とはなりません。

仮免許であることは過失割合に影響するの?

仮免許で運転する場合、仮免許であることの表示がなされています。周囲の車両が仮免許運転車に対し配慮することが求められます。そうすると、仮免許であることを理由に過失割合が加重されることはないと考えられます。

ただし、仮免許者は正式な運転免許とは異なり、一般的に正式な運転免許を所持している人と比べて運転技量は未熟であるといえますので、その運転技能では対応できないような高度な運転技量を要する運転を行ったのであれば、過失割合は加重される方向に傾くものと考えられます。

仮免許でも点数を引かれるの?

運転者に違反があるときは通常の運転免許と同様に点数が引かれ、反則金を納付することになります。

加害者は運転者のみか、教官(自動車教習所)も含めて考えるのか

運転者と教官(自動車教習所)は連帯して被害者に対し責任を負うことになります。

運転者に対する教習所の責任

自動車教習所での運転実習には仮免許取得後に高速道路実習のような運転に慣れた人ですら走るのが危ないと思えるような道を走らせるものがありますが、このような実習で交通事故が生じた場合、自動車教習所は、運転者に対し責任を負うのでしょうか。

教習所と運転者との関係

教習所と運転者は、教習所から自動車運転技能の教示を受けるとともにこれに対し運転者が対価を支払うという内容の委任契約が成立しているものと考えられます。そして信義則上、契約者相互に相手方の財産・身体に損害を与えないように配慮する義務を負っていると解釈されています。ところで、自動車運転の技能講習は、自動車運転者にとって運転免許取得後の一般道路での運転におり自己の運転技能の向上に役立つものである一方で、運転免許取得前であるので、運転技能が未熟な運転者にとっては、教習所及びその担当教官の十分なサポートが必要です。その意味で当該運転者は教官のサポートに依存しているものというのが現実です。

事例の検討

例えば、高速道路上の運転など一般道路とは異なり自動車等が高速走行している道路上の運転のように高度の運転技能が求められる場所での運転は、仮免許を取得したばかりの運転者にとって、教官のサポートは欠かせないものといえます。そうすると、仮に、高速道路上の運転において、教官のサポートが十分でない状況で仮免許取得者が運転をさせられ、その結果交通事故が発生したような場合には、教官及び自動車教習所は当該仮免許運転者に対し損害賠償責任を負うことも十分に考えられるところです。

まとめ

教習車が被害者の場合

過失割合

教習所内
一律には決することができませんが、一般の道路と同じような過失割合で判定される場合が多いです。

路上教習中
一般の過失割合で判定されます。

損害の範囲

交通事故により追加講習や再検定が必要になった場合であれば、それらの費用を加害者に対し請求することはできます。

教習所に対する責任追及

同乗している教官の指示のミスなどで交通事故が生じた場合であれば、教官及び自動車教習所に対しても責任を追及することができます。

教習車が加害者の場合

過失割合

教習所内
一律には決することができませんが、一般の道路と同じような過失割合で判定される場合が多いです。

路上教習中
一般の過失割合で判定されます。

損害の範囲

この場合も被害者に生じた交通事故との間の相当因果関係の範囲の損害を賠償する責任を負います。

教習所に対する責任追及

悪質な過失事故であればともかく通常の過失による事故であれば、一般の運転免許と同様に点数の減額と反則金納付で終わります。

教習所に通学中の事故は弁護士にご相談ください

以上のとおり、教習所に通学しているときの交通事故は非常に専門的で、高度な法律判断を要する場合があります。このような場合には交通事故に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。