学校の先生による体罰が色々な意味で問題になっている昨今ですが、犯罪に該当しうる体罰も存在します。アニメでよく見るシーンも実際にやったら問題になるかもしれません。ここでは、どのような刑罰に問われる可能性があるか、見ていきたいと思います。

教師と生徒の法律関係

学校教育法第11条等

教師と生徒の関係は、かつては特別権力関係という法律の枠外の問題であるとされた時代もありましたが、生徒の人権に配慮する必要性から、必要最小限度の制約を受ける関係であるとされています。

すなわち、教育の目的達成において必要性がないか、又はその必要性があっても最小限度の制約を超えるような態様の生徒の人権制約を行うことは違法となる余地があります。

このような見地から、教育基本法第11条においては、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と規定し、その懲戒については、学校教育法施行規則第26条は「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。」とし、懲戒の例として退学、停学及び訓告が挙げられています。そして、学校教育法第11条が教師の懲戒行為から体罰を除外しているため、何が「体罰」かが問題になるのです。

昭和23年法務庁(現法務省)通達(本件通達)

昭和23年に当時の法務庁が各都道府県警察に対し下命した通達によると、まず、学校教育法第11条にいう「体罰」とは、懲戒の内容が身体的性質のものである場合を意味すると定められています。その具体例として(1)身体に対する侵害を内容とする懲戒-殴る・蹴るといった類の行為がこれに該当することはいうまでもないとされ、さらに(2)被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒もまたこれに該当する。たとえば端坐(姿勢を正して座らせる)・直立等、特定の姿勢を長時間にわたって保持させるというような懲戒は体罰の一種と解せられなければならないとされています。

ただし、特定の場合が右の(2)の意味の「体罰」に該当するかどうかは、機械的に制定することはできないと定められ、たとえば、同じ時間直立させるにしても、教室内の場合と炎天下または寒風中の場合とでは被罰者の身体に対する影響が全く違うとされ、それ故に、当該児童の年齢、健康・場所的および時間的環境等、種々の条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無を制定しなければならないものとされています。

教師が生徒に行使できる懲戒権の範囲

上記の通達を前提にすると、教師が生徒に行使できる懲戒権のうち体罰は除外されます。体罰が除外されるということは、教師が生徒に体罰に該当するような行為を行った場合には、民事上又は刑事上の責任を問われる余地があるということです。

特に刑事上の責任について詳説すると、まず、刑法等の法典に定められている行為に該当する行為を教師が生徒に行った場合、基本的には違法行為として刑法上の責任が発生します。しかし、教育の目的上必要再保証限度の行為であると評価される場合(教育基本法第11条本文に該当する行為を含みます。)には、刑法上の違法行為がなくなり、犯罪とみなされなくなるのです。

このような行為を正当行為(刑法第35条)といいます。そして、教育基本法第11条本文に該当しないような行為(典型例は同法ただし書きの「体罰」に該当する行為)は上記の正当行為に該当することなく、教師の刑事上の責任が発生することになるのです。

以下、体罰となりうる具体例について解説します。

「野比!廊下に立っとれ!」ちょっと待って先生!それ、ダメかも?

廊下に立たせる行為は、上記通達(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当します。ただし、本件通達も(2)の場合の判断要素として「当該児童の年齢、健康・場所的および時間的環境等、種々の条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無を制定しなければならない」と定めており、本件通達の質疑においても

「児童を教室外に退去せしめる行為については、【中略】、懲戒の手段としてかかる方法をとることは許されないと解すべきである。ただし児童か喧騒その他の行為によりほかの児童の学習を妨げるような場合、他の方法によってこれを制止し得ないときは、-懲戒の意味においてではなく-教室の秩序を維持し、ほかの、一般児童の学習上の妨害を排除する意味において、そうした行為のやむまでの間、教師が当該児童を教室外に退去せしめることは許される。」

と定めております。

すなわち、義務教育においては、生徒に授業を受けさせないという懲戒の方法自体が違法であって、その違法性が例外的に阻却される事由として、その生徒を教室内から退去させることにより教室内の秩序を回復するまでの必要最小限の期間のみ、そのような行為が懲戒として許容されるという理解です。

このような理解からすると、例えば授業の最初から最後まで廊下に立たせて授業を受けさせない懲戒の方法は上記の必要最小限を越えた態様であるため、学校教育法第11条で禁止されている「体罰」に該当することになります。そして、廊下に立たせるという行為は生徒に義務なきことを強要していることになり、刑法上の強要罪に該当する余地もあります。また、民事上においては、生徒が廊下に立たされている期間授業を受けることができなくなったとして、その分の授業料相当の損害や精神的苦痛について不法行為責任が生じる余地もあります。

なお、バケツを持って立たせる行為についても同様に、教室内の秩序を回復するまでの必要最小限の期間のみ、そのような行為が懲戒として許容されるという理解ですので、上記のようにこれを超えた行為であれば、「体罰」に該当し、教師は違法行為として刑法上の強要罪及び民事上の不法行為責任を負う余地がでてきます(バケツを持たせるという特に教室の秩序維持とは無関係な行為を強要していることからも単に廊下に立たせる行為よりもより厳格な判断を要することになると考えられます。)。

教室内に立たせるのは体罰になる?

上記通達の質疑応答によると、基本的には「体罰」に該当しません。それは、一応は、生徒は教室内にいることから、授業を聴講すること自体を妨げてはいないと評価できるからでしょう。

しかしながら、例えば、長時間にわたり立たせたり、生徒が体調不良であることが外形から明らかであるにも関わらずこれを無視して立つことを強要したりすることは、やはり必要最小限度の制約を超える態様であると評価できますので、本件通達の(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当し「体罰」と評価されます。その結果、先生が生徒に対し義務なくしてそのような行為をさせているので、強要罪が成立し、また民事上も不法行為責任を負うことになります。

なお、教師内での立たせる位置で評価が変わるかという点について検討しますと、通常の教室では先生と生徒が向かい合っています(先生が前に出て授業をしているというのが通常の授業の形態です。)。このような位置関係で生徒が自分の席で立たされるのと先生のそばで他の生徒と向き合って立たされるのとでは、立たされる生徒の授業の受講への支障、当該生徒が受ける精神的な苦痛の程度は大きく異なります。

すなわち、通常は自分の席に筆記用具やノートがあり、ノートに授業の結果をまとめたりして授業を受けたことにより授業内容の理解を深めることが可能となりますが、先生の前で立たされるとそのようなことが極めて困難となり、生徒の授業を受ける権利を著しく制約することになります。

また他の生徒の前に立たされるということで羞恥の度合いも自分の席の場合よりも大きいといえます。したがって、先生の前で生徒を立たせるという態様は、自分の席で立たすという態様に比して立たせる時間を短くする必要があるといえます。

教室の後ろで立たせるという行為については、確かに他の生徒からは直接見えない位置で立たされることになるため、羞恥の度合い自体は、高くは無いといえますが、授業を理解するということに対する支障は先生の前で立たされるという行為と変わるものではありません。したがって、その時間は自分の席で立たせる態様よりも短くする必要があるといえます。

正座をさせたら体罰になる?

これの行為が「体罰」に該当するか否かは、本件通達の指摘する特定の姿勢を維持させる行為に該当し、必要最小限の行為であるかを検討する必要があります。まず、教室内外で分けて検討します。

教室の外で正座させた場合

廊下等の教室外で正座をさせる行為の場合は、上記の廊下に立たせる行為と同様に、生徒が授業を聴講することができなくなりますので、教室内で正座をさせる場合に比して短時間であることが基本となります。

さらに、廊下に立たせる行為と廊下に正座をさせる行為とを比較した場合、廊下においては立って通行する態様が通例であることから、その場所に正座をさせるというのは、その態様が、屈辱感等の精神的な苦痛の度合いが大きく、廊下に立たせる行為ではすまない程度の反省を促す必要性が認められなければなりません。

教室内で正座させた場合

教室内で正座をさせる行為を検討してみると、自分の席で正座をさせるというものと比べて、先生の前で正座をさせる行為のようなものであれば、他の生徒からの注目の度合いが格段に高いことから生徒に与える屈辱感は自分の席で正座をさせるものと比べて高いといえ、一層、反省を促す必要性がみとめられなければなりません。

また、正座をさせられる生徒の授業を聴講するに対する支障の度合いから検討しても、自分の席以外の席での正座は、ノートなどの学習用具を参照しての聴講が著しく困難となり、その支障の度合いは大きいものといわざるを得ず、その結果、より高度の反省を促す必要性が認められるか又はより短時間に限定しなければなりません。このような態様を超えた正座をさせる行為は、「体罰」に該当し、刑法上の強要罪に該当する余地がでてくるほか、民事上も不法行為責任が生じる余地がでてきます。

「罰として校庭5周!」これはどうなる?

生徒が何らかの不適切な行為を行ったためその罰として校庭を走らせる行為は本件通達の(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当しえます。

この場合、教室内で行われている授業において、生徒に校庭を走らせる行為の必要があるのでしょうか。反省を促す行為であれば他の訓告や例えば当番の回数を増やすという行為で代替できるものと認められます。

さらに、教室外にでるわけですので、生徒が授業を聴講できなくなり、生徒の授業を聴講する権利の侵害度合いは高度なものになります。そうすると、必要性最小限度を超えた行為を強要しているものといえ、「体罰」に該当します。したがって、刑法上の強要罪に該当する余地がでてくるほか、民事上も不法行為責任が生じる余地がでてきます。

罰として腕立て伏せ・腹筋をさせる行為もダメ?

これらの行為も、本件通達(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当しうるところ、腕立て・腹筋のような行為を教室内での授業中にさせることは、授業内容とは無関係の行為をさせられることになり、生徒の授業を聴講する権利の侵害は著しいといえます。

さらに、上記の校庭を走らせる行為と同様に訓告や当番の加重割り当てなどの同じ目的を達成できる代替的な行為も存在することを考えると、これらの行為は必要性最小限度を超えた行為であるといわざるを得ず、「体罰」に該当します。したがって、刑法上の強要罪に該当する余地がでてくるほか、民事上も不法行為責任が生じる余地がでてきます。

生徒を狙ってチョーク投げ!もちろんダメです。

この行為の場合には、身体に対する直接的な有形力の行使に該当しますので、本件通達(1)の「身体に対する侵害を内容とする懲戒」に該当します。

先生が生徒をねらってチョークを投げる行為はその態様からすると生徒に反省を促す一定の必要性は認められるものの、訓告などの代替的な行為態様も認められること、物を投げつけるという行為態様は生徒に身体に直接的に力を行使し、生徒に傷害を加えるおそれのある行為であるので、その程度は重大であり、相当高度の必要性が無いと認められない行為といえます。

このような必要性が認められない行為である場合には、「体罰」に該当します。したがって、刑法上の暴行罪又は傷害罪に該当する余地がでてくるほか、民事上も不法行為責任が生じる余地がでてきます。その他、黒板消しで頭を叩く行為、出席簿で頭等を叩く行為も同様です。

授業中トイレに行かせないのは?

この行為は本件通達(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当しうることになります。そして、本件通達の質疑応答において、「用便のためにも室外に出ることを許さないとか、食事時間を過ぎて長く留めおくとかいうことがあれば、肉体的苦痛を生じさせるから、体罰に該当するであろう。」と規定されています。

この見解からすると、基本的には「体罰」に該当することになります。したがって、刑法上の強要罪や民事上の不法行為の損害賠償責任を負うことになります。

結果的にお漏らしさせてしまった場合について

排泄行為は人間が生きていくうえで必要な行為ではありますが、この行為を人の目に触れさせる行為は禁忌なものとされています。このような行為が人目に触れるとその排泄者に対し奇異な目が注がれ、排泄者に非常に大きな精神的な苦痛を与えます。したがって、よほど高度の必要性が無い限りは、本件通達の(2)の「肉体的苦痛を与えるような懲戒」に該当し、「体罰」に該当すると言わざるを得ません。したがって、刑法上の強要罪や民事上の不法行為責任を負うことになります。

体罰が原因で死亡させてしまったらどうなる?

生徒が体罰による怪我が原因で死亡した場合の責任

生徒が体罰による怪我で死亡した場合には、先生は、自らの故意の違法行為により生徒を死亡せしめたことからすると少なくとも傷害致死罪、暴行行為自体に死の蓋然性がある行為であるとすると殺人罪の責を負うことになります。また当然、民事上の不法行為責任を負うことになります。

生徒が体罰を苦にして自殺した場合の責任

刑事上の責任や民事上の責任のいずれもが先生の体罰行為と生徒の死の結果との間には因果関係がない場合には、先生はいずれの責任も負うことはありません。

そして、本件では、①体罰→②生徒の自殺→③生徒の死という因果の流れが生じており、①先生の体罰と③生徒の死との間に②生徒の自殺行為という被害者自身の故意行為が介在していることから、①先生の体罰と③生徒の死との間の因果関係は認められないのではないかとも思えます。

この点において、通常は、自殺に至るような場合には、その前に何らかのうつ病などの何らかの精神疾患に罹患していることがみとめられ、当該精神疾患の罹患が認められると、自殺行為に至ることとの間の原因・結果の関係は通常、認められるとされています。そうすると、先生の体罰により生徒がうつ病等の精神疾患に罹患したという関係性がみとめられると、先生の体罰と生徒の死との間の因果関係が認められます。

以上をまとめますと、①先生の体罰→②-1生徒の精神疾患への罹患→②-2生徒の自殺→③生徒の死という因果の流れにおいて、①と②-1との間の因果関係が認められると、①先生の体罰と③の生徒の死との間の因果関係が認められます。この場合には、先生は体罰の態様によっては強要罪、暴行罪との刑事責任を負い、民事上においては不法行為責任を負うことになります。

学校の責任

まず、学校が国公立か私立かによって法律構成が異なります。

国公立の学校の場合には、学校は国家賠償法に基づく損害賠償責任を負います。なお、この場合には、先生は公務員となりますので、刑事上の責任はともかく民事上は責任を負いません。

私立の場合には、先生が不法行為責任を負うことにより学校が使用者責任(民法715条)を負うことになりますので、学校のみならず先生も民事上の責任を負うことになります。

まとめ

以上のとおり、具体的な事案の性格により結論が異なり、かつ専門的な法律判断が必要となりますので、困ったら法律専門家の弁護士に相談することを強くお勧めします。