街中や電車内での痴漢容疑で逮捕された場合、どのような刑罰になるのでしょうか。最近では線路上に逃げて電車を止めてしまう人もいますが、このことにより罪が重くなることはあるのでしょうか?解説します。

痴漢で逮捕された場合の刑罰とは

なお、以降の法令は、平成29年9月1日現在で施行されている法令を基礎とします。

痴漢って何罪になるの?

都道府県の迷惑行為防止条例違反

痴漢とは、一般的に、公共の場所で、相手の意に反して性的行為を行う者、もしくは行為そのものを指します。刑法その他の法令で痴漢罪という罪を定めた法令はありません。

しかしながら、第1に、痴漢行為自体は、各都道府県の迷惑講師防止条例に抵触します。

例えば、東京都迷惑行為防止条例(正式名称は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」東京都条例第103号)第5条は、何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならないとし、第1号において、公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れることとし、第2号において、公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することと規定しています。

そして、痴漢行為の典型例は、鉄道等の公共の乗物において、特段の理由がないにもかかわらず、故意に、衣服の上から又は直接に、胸部・臀部等当の人の身体を触ることをいいますので、当該条例第5条第1号に該当します。

痴漢で逮捕された場合の刑罰とは

痴漢行為の被害者が13歳以上の場合

一定の暴行脅迫を伴うことを要件に、強制わいせつ罪が成立します(刑法第176条前段)。

なお、この場合の暴行及び脅迫とは被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行及び脅迫をいいます。被害者の反抗を抑圧する程度や反抗を著しく困難にする程度に至る必要はありません。

強制わいせつ罪の暴行に当たるとされた例として体を押さえたり、着衣を引っ張ったりする態様がこれに当たるとされています。微妙な事例として、不意に股間に手を差し入れた事例がありますが、被害者の隙を突いたようなときや電車内の混雑のため被害者が身動きを取れないような場合には、暴行に該当するものとされています。

痴漢行為の被害者が13歳未満の場合

痴漢行為の被害者が13歳未満の場合には、暴行脅迫を伴わなくとも強制わいせつ罪が成立します。

では、被害者が13歳未満の者であったにもかかわらず、被告人が被害者は13歳以上の者であると認識していた場合には、どうなるでしょうか(暴行脅迫行為は行っていないものとします。)。

この場合には、故意を欠き、強制わいせつ罪は成立しません。しかし、なんの罪も問われないわけではありません。上記の各都道府県の迷惑行為防止条例違反は成立しますし、被告人が被害者の抗拒不能状態に乗じて痴漢行為を行ったと認められる場合には準強姦罪(刑法第178条第1項)が成立します。

痴漢行為が復讐・営利目的等のわいせつ目的ではない場合にも逮捕される?

最高裁判所平成29年11月19日判決において、従前の最高裁判所判例であった強制わいせつ罪の成立にはわいせつ目的が必要であるという判示が変更されました。これにより、例えば、痴漢行為が復讐目的・営利的な目的であっても強制わいせつ罪の成立は妨げられないことになります。

痴漢行為を撮影した場合

痴漢行為を撮影した場合、当該痴漢行為の被害者が18歳未満であった場合には児童ポルノに該当しますので、その撮影行為は、児童ポルノ禁止法第5条第4項により処罰されます。

痴漢行為を撮影した画像・動画をネットにアップロードした場合

痴漢行為を撮影した画像・動画をネットにアップロードした場合、被害者が18歳未満の者であれば、児童ポルノ禁止法第7条第2項の児童ポルノ提供罪が成立します。18歳以上であったとしてもいわゆるリベンジポルノ規制法第3条1項により処罰されるおそれがあります(ただし親告罪(告訴が必要な罪)です)。

痴漢行為を撮影した画像等を用いて相手方をおどし、性交等に至った場合

被害者が13歳未満の者であれば、暴行脅迫(被害者の反抗を著しく抑圧する程度の暴行脅迫)を伴わなくとも強制性交等罪(旧強姦罪)が成立します(刑法第177条)。

他方、被害者が13歳以上の者であったとしても、暴行脅迫を伴うような場合には、強制性交等罪が成立します。これに対し、暴行脅迫を伴わない場合でも、当該画像を示された被害者が抗拒不能に陥ったような場合であれば、準強制性交罪(旧準強姦)が成立します(刑法第178条)。

集団で痴漢行為をした場合には処罰される?

まず、集団で痴漢行為、すなわち被害者の身体に触った行為をした場合には、被害者の年齢に応じて強制わいせつ罪又は準強制わいせつ罪の共同正犯(刑法第60条)が成立します。

次に、見張り行為・壁となった行為(被害者が逃げられないように立ちふさがって被害者の進路を断つ行為)を行った者については、通常は、強制わいせつ罪又は準強制わいせつ罪の従犯として処罰されます。ただし、その行為を行ったために、痴漢行為の動画・画像等を得ることを目的とした当該各行為を行った場合には、事実関係によっては、従犯ではなく共同正犯として処罰される可能性があります(従犯処罰の場合には共同正犯・単独正犯の処断刑の2分の1とされます。刑法第63条)。

ネットの掲示板等で呼びかけた行為又は情報提供をした行為は処罰される?

当該情報提供に応じて、実際に痴漢行為を行った者がいる場合には、当該教法提供を行った者は、痴漢行為(強制わいせつ罪に該当する行為、少なくとも各都道府県の迷惑行為防止条例違反行為)をそそのかした者であるといえますので、これらの罪の教唆犯が成立するおそれがあります。

痴漢で逮捕されたら前科がつくの?

前科とは、以前に罪を犯して刑罰を受けた経歴があることをいいます。そして、刑法第34条の2は、禁固以上の刑の執行を終わったとき(服役した出所したこと)、又は執行猶予の期間が満了したときから10年を経過したときは、いわゆる前科は消滅します。逆にいうとそれまでの期間においては、前科は残ることになり、さまざまな資格制限を受けることになります。

痴漢に時効はあるの?

ここでは、時効とは公訴時効として検討します。

各都道府県の、迷惑行為防止条例違反の場合であれば、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金ですので、刑事訴訟法第250条第2項第6号により3年となります。なお、時効の起算点は犯罪行為時からとします。

さらに、強制わいせつ罪の場合ですと6月以上、10年以下の懲役ですので、刑事訴訟法第250条第2項第4号により7年となります。

ただし、いずれの時効期間も犯人が逃げ隠れしているような場合には、時効が停止することにご留意ください(刑事訴訟法第255条第1項)。

痴漢で逮捕されたらどうなるの?

まず、警察官に逮捕された場合を前提とします。

痴漢で逮捕されると、逮捕されたときから48時間は拘束されます(刑事訴訟法203条第1項)。警察官(条文上は司法警察員です。)は、48時間以内に検察官に送致します。

検察官は、警察官から送致を受けてから24時間以内に裁判所に対し勾留請求をします。その後、裁判官による勾留決定を経て、10日間勾留されます(勾留延長はさらに10日間であり、事実上トータル20日間勾留となる場合がほとんどです。)。

その上で、以下の場合わけのとおりになると考えられます。

被疑事実が各都道府県の迷惑行為防止条例のみの場合(かつ初犯)

痴漢行為等の否認していない限り、勾留請求日から20日以内に略式命令により罰金納付で釈放されるのが通常でしょう。

被疑事実に上記に加えて強制わいせつ罪等が付加されている場合又は数年前に前科がある場合

勾留請求日から20日以内に正式公判請求され、公判期日まで約1ヶ月半は、拘置所又は所轄の警察署で勾留されます。

上記の場合の面会等について

上記の場合には、逮捕時・勾留時には、面会ができますが、時間は制限され、立会人がつきます(弁護士の面会は除きます。)。

会社や学校にバレたらどうなるの?

会社にバレた場合

会社にバレた場合は、通常就業規則において、私生活上においても犯罪行為をしないことなどが定められておりますので、就業規則違反として懲戒処分を受けます。そうでなくとも、逮捕・勾留期間は会社に無断で欠勤した扱いとなれば、無断欠勤で処罰されます。

学校にバレた場合

学校にバレた場合には、校則に違反することになり、通常は何らかの処分を受けることになります。さらに、逮捕・勾留で欠席期間が長期間に及べば、出席日数が不足し、留年となる可能性もあります。

痴漢で逮捕されても会社や学校にバレずに済む方法はあるの?

逮捕・勾留等をされなければ、特に警察等がその事実を会社に告げることはありませんので、痴漢行為がバレることはなくなります。ただし、在宅起訴で執行猶予を得た場合でも警備員等の場合には、欠格事由により、業務に就くことはできなくなりますので、その時点で会社に露見しますのでご注意ください。

そして、これ以外の職種について、会社に有給使用をどのような形であれ連絡することです。有給の期間であれば、会社としては有給をどのように使うかについて詮索できません。

痴漢をして逃げたら罪が重くなるの?

逃げようとして捕まった場合

勾留もされていない者が逃走したとしてもそれだけでは何の犯罪も成立しません。ただし、警察官・検察官の心証は悪くなりますし、被害者と示談することも場合によっては難しくなります。

逃げようとして、駅員を殴ってしまった場合

殴ってしまった駅員が鉄道警察隊の職員である場合

鉄道警察隊の職員は、特別司法警察職員に該当し(刑事訴訟法第190条)、刑法第95条1項の公務員に該当しますので、公務執行妨害罪が成立します(3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)。

上記以外の職員の場合

暴行罪(刑法208条:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)が成立するほか鉄道営業法第38条の罪(1年以上の懲役)が成立することになります。

逃げようとして被害者その他の第三者を殴ってしまった場合

暴行罪が成立することになります。

その場は逃げたけど後日捕まった場合

逮捕又は勾留がなされておらず、これ自体については特に犯罪を構成することはありません。

線路上に逃げて電車を止めてしまった場合

鉄道営業法第37条、罰金等臨時措置法第2条第1項により、罰金刑に処せられます。

まとめ

以上のとおり、痴漢行為はデメリットばかりでまったくメリットがありません。このような行為は行わないに越したことはないのですが、仮にこのことで困ったことが あるのであれば、弁護士にご相談したほうがよろしいかと存じます。