昨今でも話題の大麻による逮捕・刑事事件。大麻を使用すると、どのくらいの刑罰(懲役)を科せられるのか、詳しく見ていきましょう。

大麻を吸うと逮捕されるの?

最近では元女優の高樹沙耶氏が大麻を使用して逮捕されたことが話題になりました。そもそも「大麻」とは、「大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。」(大麻取締法1条)と定義されています。大麻には、覚せい剤と同様に幻覚作用や強い依存性があるとされており、その結果日本では大麻取締法、という特別法が規定されています。

覚せい剤取締法とは別の法律、というところがポイントであり、無免許で大麻を取り扱ったり、使用したりすることは同法違反、となります。ここでのポイントは同法1条のただし書き、ということになります。ただし書きで適用除外とされている以上、一般に大麻、と呼ばれる乾燥樹脂のようなものは、使用するだけでは、罪にならない、ということになります。

もっとも、吸うためには、その大麻を所持していなければなりません。所持そのものは大麻を「所持」するか「譲り受ける」必要がありますので、こちらで処罰されることにはなります(実質的には吸っているだけ、ということはあり得ないので、処罰されない、という結論はあり得ません。)。

大麻で逮捕されたら

大麻を所持・育てるのも逮捕されるの?

大麻取締法3条1項は「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と規定しています。

この条文に基づいて刑罰(単なる所持であれば5年以下、営利目的であれば7年以下、栽培についても7年以下)が科されているのですから、大麻の所持は当然違法です。また栽培についても流通可能性を生じさせる、という観点から同様に違法とされています。

そして、ここにいう「大麻取扱者」とは、「大麻栽培者及び大麻研究者をいう。」(同法2条1項)とされ、「大麻取扱者になろうとする者は、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の免許を受けなければならない。」(5条1項)とされています。基本的に、医療関係者などでない限り、所持や栽培が適法になることはなく、違法なので当然逮捕の対象となります。

日本には合法大麻はあるの?

大麻を上記の法律の定義に当てはめる限り、日本国内で合法の大麻、というものは存在しません。上記したように、都道府県知事からの免許を受けた者が適切に、かつ適量を医療目的で投与するような場合にのみ、例外的に合法となるにすぎません。よって、合法大麻等というものが出回っている場合、それは違法だ、という認識を持つことが必要で、絶対に手を出してはいけないもの、ということになります。

大麻で逮捕された場合はどのような流れになるの?

大麻関連で逮捕される場合の多いケースは覚せい剤と同様、所持の現行犯、ということになるでしょう(中々使用の現場に警察が突入することはできませんし、尿検査や毛髪検査が必要なことから考えると、所持以外の場合に現行犯逮捕、というのは中々困難です。もっとも、所持していて使用していない方がイレギュラーなので、基本的にはセット、ということにはなるでしょう。)。

逮捕後は基本的には他の犯罪を犯した被疑者と同じで、まずは逮捕から合計72時間、身柄を拘束され、勾留されると決定されれば最大20日間は出てくることができません(基本的に、覚せい剤と同様、大麻も証拠隠滅が容易なこと、毛髪鑑定等に一定の時間を要すること、等からすると、20日間勾留されるのが通常の流れになるでしょう。)。

そこで起訴となれば、保釈が通らない限り、基本的には判決で執行猶予が付かないと判決の懲役期間が終了するまでは基本的には外に出てくることはできない・・・ということになります。逮捕後の手続き、特に身柄の拘束についてはこのような形になると考えられます。

大麻で逮捕された場合の刑罰はどれくらいなの?

刑罰についても上記したように大麻取締法がそれぞれ規定しています。

  • 所持の場合:五年以下の懲役(同法24条の2第1項)
  • 営利目的(つまりは大麻を売って儲けようとしているような場合、いわゆる売人ですね。)による所持の場合:七年以下の懲役及び二百万円以下の罰金(同法24条の2第2項)

所持についてはこのように規定されています。営利目的の場合、大麻が日本国内で流通してしまう、という点と、違法な薬物の取引で利益を得ようとする、という態様の悪質性から、罪が重くなっています。

  • 栽培の場合:七年以下の懲役(同法24条1項)
  • 営利目的の栽培の場合:十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金(同法24条2項)

栽培については、明らかにその人個人の意思で違法薬物を製造していることになるので、基本的に法定されている刑罰は重め、ということになります。

それぞれがこのように規定されており、複数の罪を犯せばその合計がMAX、ということになります(併合罪・刑法45条前段)。

大麻取締法上、再犯規定は存在しないので、再犯だからといって、それだけで、法定刑が重くなるわけではありません。

ただし、当然ではありますが、犯情は重くなりますし、執行猶予中に再犯を犯した、等という場合は基本的には再度の執行猶予は付かない、と考えた方が良いでしょう。

大麻で逮捕されると刑務所に入らないといけないの?

初犯であれば多分に執行猶予が付く可能性はあります。もっとも、あくまでケースバイケースであり、常習性が認められる場合、営利目的性が強い場合、所持していた大麻の量が非常に多い場合など、初犯であったとしても、執行猶予、とならない場合も十分に考えられます。また上記したように、再犯である場合に執行猶予が付く可能性はほぼない、といっても過言ではないでしょう。

大麻で逮捕されても、すぐ釈放されることはあるの?

使用してしまっていれば基本的に不起訴になることは難しいでしょう。大麻や覚せい剤のような薬物犯罪は被害者のない犯罪とされており、その保護法益は、あくまで社会的な平和の実現にある、とされているため、被害者の方との交渉などを行うことができない犯罪類型です。

そうすると、弁護士としてできることも非常に限られてしまいます。例えば、謝罪文や反省文を被疑者に書いてもらう、といったことはあり得る弁護方法だとは思われますが、再犯性が非常に高い薬物犯罪においては、中々これを強調することも困難といえるでしょう。

逆に所持だけである場合は、可能性としては単なる運び屋である可能性が残ります。その場合、どういった組織に属していて、どういった地位にいる人物なのか、そもそも何も知らずにやっていたのか、等争点がずれてくる可能性があります。そういった場合であれば、例えば関係者への接触禁止の誓約書、携帯電話のメモリの削除、等を条件に不起訴になる可能性はなくはありません。

もっとも、組織の一員、ということであれば逆に不起訴という可能性は極めて低い、ということになるでしょう。

大麻で逮捕されると実名で報道されてしまうのか?

この点については、他の犯罪と変わりません。すなわち、基本的に20歳以上の成人であれば実名になるでしょうし、未成年、ということであれば匿名報道が原則、ということになるでしょう。

もっとも、弁護人を早めに選任し、警察やマスコミ各社に意見書、上申書という形で要請することは可能です。ただし、この意見書や上申書は法的な拘束力を伴うものではないので、あくまで、実名報道を回避できる可能性がある、といった次元の話にとどまります。

大麻と知らずに人から貰った場合も逮捕されるの?

大麻の「譲受」は大麻取締法で禁止されている犯罪であるため、逮捕され、刑罰に処せられる可能性があります(大麻取締法24条の2)。また、大麻の譲り受けを斡旋した者についても、逮捕され、刑罰に処せられる可能性があります(同法24条の7)。ただし、大麻と知らなかった場合には、別途故意(刑法38条1項)の問題が生じます。

この場合には、当事者に違法性の意識があったかどうか、が問題になります。つまり、譲り受けたものについて、「何か怪しいものではないか・・・」と思っていれば、違法性の意識の可能性があり、故意が認められることになりますし、「小麦粉だと思い、この点について何の疑念も抱いていなかった」ということであれば、違法性の意識の可能性がなく、無罪、ということもあり得る、ということになります。

大麻が合法な外国で大麻を使用しても逮捕されるの?

この問題には刑法の大原則が適用されます。日本の刑法は、属人主義、属地主義、旗国主義、保護主義、世界主義を採用しています。 そして、属地主義、つまりは犯罪が発生している場所に着目すればこの場合は不可罰、という結論になりえます。

また、属人主義、つまり、日本人である限り、日本の刑法の適用を受ける、という考え方によれば、日本人が海外で大麻を吸っても日本の刑法の適用を受けることになるので、これは違法となります。しかし、属人主義はその対象を限定的に列挙しており、大麻取締法違反はこれに含まれていません。こう考えると、海外での大麻の吸引は不可罰に思えます。

しかし、保護主義、という観点、自国の重要な利益の保護を目的として、自国又は自国民の法益を侵害する犯罪に対して、犯人の国籍・犯罪地を問わず全ての犯人につき刑法の適用を認めるという原則からすれば、これは対象になります(刑法2条)。よって、わざわざ海外まで日本の警察が出張って逮捕することはないでしょうが、日本に帰国したタイミングで逮捕されることはあり得ます。海外で適法だからといって、日本でも適法とは限らないことに注意が必要です。

大麻を栽培している知人を黙認した場合も逮捕されるの?

基本的に黙認しているだけであれば、逮捕されることはないでしょう。もっとも、場所や資金を提供していたようなときは大麻取締法に違反することになりますし、一緒に栽培している、あるいは栽培や所持を斡旋している、といった場合には、共同正犯、あるいは斡旋として逮捕される可能性が出てきてしまいます。基本的には、知人が大麻を栽培している場合、黙秘というのは賢い選択肢ではないように思います。

大麻で逮捕された場合に私生活への影響はあるの?

逮捕・起訴され、例え執行猶予が付いたとしても有罪、ということになれば、私生活への影響は避けられません。懲戒解雇になるかどうかはともかく、会社からは籍を失うことになるでしょう。また、あくまで大麻も薬物ですから依存症に苦しめられることになります。

加えて、一度知ってしまった薬物の魅力とも戦わなくてはなりません。薬物犯罪は周知のように非常に再犯率が高い犯罪です。仮に、初犯で執行猶予が付いたとしても上記したように最判を犯してしまえば刑務所行きでしょう。こういった様々な弊害が私生活においても生じることが十分に考えられます。

まとめ

仮に大麻取締法違反で逮捕されてしまったような場合でも、まずは早く塀の外に出ることです。仮に不起訴になれば、前科にはなりません(前歴としては残ってしまいますが。)。そうすると早期の社会復帰、特に会社から去らなければならないような事態を避けられることも考えられます。

しかし、それを求めるには迅速に方針決定をしなければなりません。そうすると、国選弁護人の選任を待つよりも、刑事事件独特のスピードになれている刑事事件に強い弁護士を選任する方が得策でしょう。