刑事事件で挙げられる前科一犯とはどのような意味なのでしょうか。また生活にはどのような影響を及ぼすのか詳しく見ていきましょう。

前科一犯とはどういう意味なの?

前科一犯とは、文字通り前科が1回付いていることをいいます。そのため、前科が2回であれば「前科二犯」となり、3回であれば「前科三犯」となります(4回目以降も同様です)。

前科は、犯罪を行った者が有罪判決を受けると付くことになります。もっとも、執行猶予付きの有罪判決を受けた場合、執行猶予期間中に何も問題を起こさなければ、刑の言渡しの効力が消滅しますので、前科は付かないことになります。

万引きやスピード違反でも前科一犯になるの?

万引きは窃盗罪(刑法第235条)に該当する刑法上の犯罪ですので、同罪で有罪判決を受ければ当然前科が付くことになります。

また、スピード違反であっても、道路交通法違反として懲役や罰金の刑罰が法定されていますので、同違反で有罪判決を受ければ前科が付きます。もっとも、同法には反則金制度というものがあり、比較的軽い違反であれば一定額の反則金を支払うことによって刑罰を免れることができます。そのため、スピード違反によって前科が付くことはあまりありません。

逮捕されたら、すぐに前科一犯となるの?

上記の通り、前科はあくまで有罪判決を受けるまでは付きません。そのため、逮捕されたとしても、起訴されなかったり、起訴されても無罪判決を受けたのであれば、前科が付くことはありません(なお、逮捕された場合、前歴というものが付くことになります)。

前科一犯になった場合の就職の影響

前科を持っている人が就職する際、企業側が前科の有無を独自に調査することはできません(前科情報を国家機関が企業に提供することはありません)。もっとも、企業側としては、就職しようとする者に対して、前科の有無を質問してきますので、そうなった場合は前科の有無を申告せざるを得ないことになるでしょう(そういったことがなければ、わざわざ自分から申告する必要はありません)。そして、前科があるのに「無い」と回答して、そのまま入社し、後でそれが嘘だったとばれた場合、経歴詐称として解雇される可能性があります(すべての場合に解雇されるとは限りません)。

また、前科が付いた場合、一定の資格を要する職業を行うことができなくなるという不利益があります。例えば、弁護士や弁理士、教員などは、禁錮以上の有罪判決を受けて前科が付いてしまうと、その資格を剥奪されてしまいます。警備員も、警備業法によって、禁錮以上の有罪判決を受けて前科が付いた者については、刑の終了から5年の間はその職業に就くことができなくなってしまいます。

前科一犯になった場合の生活の影響

まず、前科という情報は高度のプライバシー情報ですので、国家機関側から安易に前科情報を公表するということは原則としてありません。そのため、前科が付いていることは、周囲の人にばれることは基本的にありません。もっとも、犯罪歴や前科などの情報は、うわさ話ですぐに広まるという性質を有していますので、前科情報が周囲の人にばれる可能性を否定することはできません。まさに「悪事千里を走る」といえるでしょう。

次に、前科があると離婚理由になるのでしょうか。これについて、前科の存在は、民法において規定されている離婚理由のうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(同法第770条第1項第5号)に該当する場合があります。軽微な犯罪での前科であれば、問題はありませんが、殺人などの重大犯罪での前科であれば、夫婦間の信頼関係を保つことはできず、婚姻を継続し難い重大な事由に該当することになるといえるでしょう(前科の有無以外の事情も考慮するので、婚姻を継続し難い重大な事由の該当性判断は結局ケースバイケースとなってきます)。

なお、前科が付いていても、生活を送る上で特に支障はありません。上記の通り、自分から申告しなけば前科情報は周りに漏れませんので、住宅ローンを組んだり、家を借りたりする上で不利益を被ることは基本的にありません。

前科一犯になったことを取り消すことはできるの?

前科情報は、警察・検察・本籍地の市区町村にそれぞれ保管されていますが、これら場所に保管されている前科情報を消すことはできません。もっとも、上記の通り、国家機関側から前科情報が流れるということは原則としてありませんので、前科を消す実際上の必要性はないでしょう。

前科一犯で、再犯した場合の刑は重くなるの?

前科がある者が、実刑終了後、一定期間内に再び犯罪を行った場合、再犯(刑法第56条)として再び行った犯罪の刑が重くなります(懲役刑であれば、刑期が通常よりも長くなります)。

また、前科犯罪から一定期間内における犯罪ではなかったため、再犯とならなかったとしても、再び行った犯罪についての量刑判断において前科の存在が考慮されることがありますので、場合によっては量刑上不利に働くことになります。

まとめ

前科が付くと気持ち的にも嫌になりますし、前科があることがうわさ話で周囲に流れると、穏やかな生活を送ることも難しくなってしまいます。やはり、前科が付かないようにすることがベストであり、そのためには「有罪判決を受けないこと」が必要ですので、もし起訴されそうになったら、弁護士に相談した方がよいでしょう。