年始には取引先から年賀状が届くことがあります。会社の住所で自分宛てに来た年賀状、お年玉くじが当たったら貰ってしまってもいいのでしょうか?ケース別にみていきたいと思います。なお、以下では、お年玉付き年賀はがきのことを「年賀状」、年賀状に付いているお年玉のことを「お年玉」と略称します。

なお、お年玉郵便はがき等に関する法律(以下「法」といいます。)の第3条第1項に基づくと、「郵便物の受取人」がお年玉を受け取ることができる旨規定しており、郵便物の受取人が郵便局に対しお年玉を受け取る権利がある旨規定しているところ、「郵便物の受取人」とは、総務省の信書に関する指針によると、信書の例ではあるのですが、「「特定の受取人」とは差出人がその意思の表示又は事実の通知を受け取る者として特に定めた者のことである。」旨規定(総務省、信書に該当する文書に関する指針の2の(2))しております。

取引先から自分宛ての年賀状

では、取引先から会社の住所で自分宛てに年賀状が送られてきた場合、お年玉を自分のものにすることに問題がないのでしょうか。 ここでは、年賀状には自分の氏名が記載していることを前提にします。

お年玉を郵便局に貰いに行く際に、年賀状を会社から持ち出したことが窃盗となるか

窃盗とは他人の占有する物を窃取することですから、年賀状が会社の占有の下にあるといえるかを判断しなければなりません。この点、年賀状の差出人と郵便局(郵政事業会社)は、年賀状を受取人に送付する郵便契約を締結していることからすると、年賀状は、差出人から受取人に手紙の占有を移転することが予定されております。そうすると、受取人の下に届いた時点で、占有も差出人から受取人に移転しているものと認められます。差出人が会社の取引先であることからすると、年賀状は、差出人である取引先が会社との間の取引を継続したいがために、取引先の営業活動の一環として、会社に対する賀正のあいさつを年賀状に表示して送付しているものと認めるのが相当でありますので、差出人の意思として、受取人に自分の名前が記載されていても、それは会社の一機関に対し送付しているに過ぎず、合理的に判断して、差出人である取引先は、会社を受取人として年賀状を送付していると判断するべきです。そうすると、年賀状は、取引先から会社に対し占有が移転しており、自分が、お年玉を貰いに行くために、会社の承諾を得ず、社外に年賀状を持ち出すことは、年賀状の会社の占有を侵害する行為であり、窃盗罪が成立します。

お年玉を会社に勝手に郵便局から貰ったことが、横領罪となるか

横領罪は自己の占有する他人の物を領得した場合に成立する罪です。上記のとおり、法第3条第1項は年賀状の受取人にお年玉を郵便局に請求する権利を付与していることからすると、会社が受取人である以上は、会社が郵便局に対し、お年玉を交付する権利があります。会社の従業員である自分が郵便局にお年玉の交付を事実上行いえたとしても、それは会社の使者又は代理人に過ぎず、これを自分のために処分したような場合は、会社との委託関係を侵害したものといえ、お年玉を横領したとして、会社に対し横領罪が成立するものといえます。

郵便局に対する詐欺罪の成立

会社がお年玉の交付を請求できる権利があるにもかかわらず、受取人が自分であるかのように装い、郵便局を騙して、お年玉の交付を受けたものと認められるからです。

以上のことは、会社の元々の取引先で自分が担当になった場合と、自分が新規開拓した取引先であった場合とで何ら違いはありません。

業者から自分宛ての年賀状

自社で発注している印刷物ではあるが、その印刷物の支払いは会社が行っており、自らは何らの負担も行っていない場合を前提とします。

自社で発注している印刷物

この場合、差出人としては会社が顧客にあたり、自らは単になる会社の一機関又は一担当に過ぎないと認識されているのが通常です。そうすると、差出人は、顧客である会社に年賀状を発送したと考えるのが通常であり、受取人は会社であると認めることができます。そうすると、受取人として自分の氏名が記載されていても、年賀状の占有は会社に帰属するというべきです。したがって、自分がお年玉を自己のものとしようとして年賀状を社外に持ち出せば、会社の占有を侵害したものとして窃盗罪が成立します。

また、受取人が会社である以上は、お年玉は会社が郵便局に対し交付請求できることとなり、自分が郵便局からお年玉の交付を受け、これを処分した時点で、横領罪が成立することとなります。

さらに、自分がお年玉を会社に対し渡すのではなく、自ら処分する意図で、郵便局にお年玉の交付を求め、郵便局からお年玉の交付を受けた時点で郵便局に対する詐欺罪が成立することとなります。

グループ企業が発注している印刷物

グループ企業の印刷物を作成&発注しているけれど、支払いはグループ企業がしているなどで、自分(自社)でお金を払っていない場合、当たったものを貰うと問題になるか。

この場合も自分はおろか自分と雇用契約を締結している会社ですらその支払いを行っていないことと認められることからすると、差出人である業者は、顧客であるグループ会社に対する賀正のあいさつを行う目的で年賀状を発送しているものと認められます。そうすると、この場合の年賀状の受取人は、グループ企業ということになります。自分は単なるグループ企業の窓口又は担当者に過ぎないわけです。

そして、当該年賀状をお年玉を自ら処分する意思で、グループ会社から管理を委託されている「会社」の外に年賀状を持ち出す行為は、グループ会社の間接占有及び会社の直接占有を侵害したものといえ、窃盗罪が成立します。

さらに、お年玉は、受取人であるグループ会社が郵便局に対し交付を請求できるものであることから、お年玉を自分がグループ会社の使者又は代理人として交付を受けたのち、これを自らのために処分したような場合には、自らの占有するグループ会社の物を横領したとして横領罪が成立することとなります。

また、自分が郵便局に、グループ会社が受取人であることを秘して、お年玉の交付を受けた行為は、郵便局に対する詐欺罪が成立することとなります。

会社宛ての年賀状の場合

会社宛ての年賀状であれば、会社が受取人となることは明らかですので、その年賀状のお年玉を自分で処分しようとして社外に持ち出した時点で、年賀状の会社に対する窃盗罪が成立します。また、お年玉を自分のために処分した時点で会社に対する横領罪が成立します。また会社お年玉を交付を受ける権利があるのに、これを秘して郵便局からお年玉の交付を受けたことは、郵便局に対する詐欺罪が成立します。

ただ、当選したものの金額で罪がどの程度変わるのかについては別途検討が必要です。当選したものがわずか数百円の切手シートなどであった場合に実際に窃盗罪等で処罰すべき違法性があるか(このような違法性のことを可罰的違法性といいます。)については、別途検討が必要となります。

とはいえ、刑法上は問題がなくとも、民事上、例えば、自分と会社との間の雇用契約において、このようなことを行えば、就業規則等に違反しているものと認められ、懲戒処分の対象となり得ることにはご注意ください。

余った年賀はがきが当たった場合

まず、年賀状は会社の経費で購入したとします。

そうすると会社の備品ですので、当然に年賀状の所有権は会社に帰属します。社員である自分がお年玉を自分で処分するために年賀状を社外に持ち出した時点で窃盗罪が成立します。また法第3条第1項括弧書きで、配達されなかった年賀状のお年玉は、年賀状の購入者が郵便局に交付する権利がある旨規定しておりますので、自分がお年玉を処分したような場合には会社に対する横領罪が成立します。さらに、郵便局に対して、会社がお年玉の交付を受けることができる権利があることを秘して、お年玉の交付を請求し、自分が交付を受けた場合には、郵便局に対する詐欺罪が成立します。

なお、この場合であっても、当選したものの金額により可罰的違法性がことなることや、刑法上は問題がなくとも、雇用契約との関係で懲戒処分を受ける可能性あることは上記と同じですので、ご注意ください。

まとめ

以上のとおりです。形式的に年賀状の受取人の記載のみで判断するのではなく、実質的に判断してお年玉を自分のものにすることが妥当なのかをしっかりと吟味する必要がありますので、うっかり違反してしまわないように気を付けましょう、もし、判断に迷うような場合には、法律の専門家である弁護士にご相談するのも一案と考えます。