フェイクニュース、一時期話題になりましたね。日本ではSNSにおけるいたずらニュースやデマが多い印象です。中には悪質なものもありましたが、問題にはならないのでしょうか?

今回はフェイクニュースを発信・拡散したときの刑罰について解説します。

目次

フェイクニュースとは

フェイクニュースとは「false reports of events, written and read on websites」、すなわち、「虚偽の出来事等であり、ウェブサイト上で、書かれたり読まれたりするもの」と定義されています。このようにフェイクニュースで記載された出来事は基本的には存在しない出来事を指します。(参照:オックスフォードオンライン辞書

フェイクニュースの発信が犯罪に当たるかにおいて、必ず考慮しなければならない2つのこと

1つ目:フェイクニュースを発信することも日本においては表現の自由の範囲内であること

表現の自由には、人間が自らの思想(ニュースの伝達のような事実の伝達物含みます。)をあらゆる表現を用いて外部に現すことを含みますので、フェイクニュースを発信することは表現の自由として憲法の保障の下にあります(憲法21条1項)。ただし、憲法上の自由とはいえ、無制限ではなく公共の福祉の制約に服します(憲法13条参照)。そして、後記の名誉毀損罪、信用毀損罪・偽計業務妨害罪等の日本刑法で規定されている処罰規定も公共の福祉の表れとして表現の自由を制限することが正当化されているのです。

2つ目:フェイクニュースを発信して日本で犯罪に問われるのは特定の誰かの利益を侵害したと評価される場合に限られること

上記のとおり、フェイクニュースを発信することは、表現の自由の保障の範囲内に属するものですが、刑罰の一定の制限に服します。

ところで、表現の自由の規制において最も慎重になるべきなのが表現内容を理由とする表現とされています。そして、フェイクニュースの規制はその内容が虚偽であることに基づきますので、表現の内容に基づく規制です。

日本の刑法は表現内容の規制であることに配慮して、フェイクニュースの発信を処罰するのは特定人(法人)の利益を害した場合に限定しています。つまり、フェイクニュースを発信したことにより「風紀」を乱したこととの理由で処罰されることは基本的にはありません。

ただし、日本でも戦争等を誘発するような処罰の対象となることと、インターネットを用いて発信した場合、外国の刑罰の刑罰法規に抵触する可能性はあります。

補論

フェイクニュースを発信する過程において「不正アクセス禁止法」で処罰される不正アクセスを行った場合には同法で処罰されます。
これは、ニュースの内容とは関わりのない発信方法に関する規定ですので、表現内容の規定より厳しく規制されても表現の自由の不当な侵害とは評価されません。

ところで、不正アクセスとは、フェイクニュースの発信に即して考えると
①他人のIDやパスワードを盗用(例えばショルダーハッキング(盗み見)等のソーシャルエンジニアリング等の方法により他人をID又はパスワードを盗用すること))して、発信した場合
②不正な手段(例えばSQLインジェクションのような方法によりアクセス認証機能を突破する方法)により、ネットワークのアクセス認証を突破し、内部システムを利用する行為(ツィッター等の機能を操作して発信する行為)を行った場合
③例えばルートキットのなどのバックドアを設置し、システムのセキュリティーホールを突き、システム内に不正に侵入して、発信行為を行った場合
にはいずれも不正アクセス行為に該当し、3年以下又は100万円以下の罰金に処せられます(不正アクセス禁止法11条)。

芸能人や政治家など、著名人のフェイクニュースの場合

「俳優の○○は覚せい剤使用の疑いがある」というニュースをでっちあげて発信した場合

名誉毀損罪の検討

名誉毀損罪は、特定人の事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為を処罰する刑罰です(刑法230条、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。そして、上記事例においては、「覚せい剤の使用」という事実を摘示し、他人の社会的評価を下げるものであることから、名誉毀損罪に該当します。

ただし、2つの注意が必要です。

まず、名誉毀損罪は、被害者等の告訴が必要です(同230条2項)。つまり、当該俳優から告訴されなければ、処罰されません。

次に、公共の利害に関する場合の特例があります。名誉毀損行為は、歴史的に時の為政者の政治批判に対する抑圧行為として用いられたことから、刑法230条の2に掲げるように一定の公益目的を図ることを目的とする行為であることが証明された場合には行為の違法性が阻却され罪に問われません。

しかしながら、本事例は、芸能人の個人生活に関するものであり、特に公益性は認められないものと考えられますので、本条の適用は認められません。

信用毀損罪・偽計業務妨害罪の検討

信用毀損罪・偽計業務妨害罪は、虚偽の風説を流布し、又は人を錯誤に陥れる行為により他人の業務を妨害した場合に成立します(刑法233条、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。

上記のフェイクニュースの発信は「虚偽の風説」に該当することは明らかですし、これにより例えば当該芸能人が記者会見等の対応を迫られて、俳優としてのイメージが傷つけられ、当該俳優の経済的信用が低下したという場合であれば、信用毀損罪は成立することになり、また虚偽の風説は偽計の含むとされているので、同時に業務妨害罪も成立しますが、罪数としては1罪のみが成立することになります。

なお、言及するまでもありませんが、このような場合には当該俳優からの民事上の損害賠償請求も回避することはできません(民法709条)。

企業や店舗のフェイクニュースの場合

「○○(店舗名、商品名)のハンバーグには消費期限切れの肉が混ざっている」という内容のフェイクニュースを発信した場合

名誉毀損罪の検討

法人に対し名誉権が認められるが問題となりますが、法人もその構成員である自然人と離れて社会的な実在として存在している以上は、法人にも名誉権を認めるのが判例通説の考え方です。

そうしますと、上記のようなフェイクニュースの内容は法人が販売又は製造する商品の品質について虚偽の事実を摘示して、法人の社会的評価を低下させることは明らかです。したがって、名誉毀損罪が成立します。

なお、内容が虚偽であることを知ってこのようなフェイクニュースを発信しているときは、上記の刑法230条の2による違法性阻却も認められません。

信用毀損罪・偽計業務妨害罪の検討

上記と同様にこの種の虚偽内容の発信が企業の経済的信用を毀損することは明確ですので、信用毀損罪が成立します。

特定地域に対するフェイクニュースの場合

「○○県で暮らすと放射能の影響で流産しやすくなる」とのフェイクニュースを発信した場合

名誉毀損罪
特定人(法人)の名誉を毀損していないので、名誉毀損罪は成立しません。

信用毀損罪・偽計業務妨害罪
上記と同様に特定人の信用を毀損したわけではなく、業務を妨害しているわけではありませんので、仕様毀損罪・業務妨害罪ともに成立しません。

「○○で大火事が発生している。」とのフェイクニュースを発信した場合

名誉毀損罪
特定人の名誉を侵害しているわけではありませんので名誉毀損罪は成立しません。

信用毀損罪・偽計業務妨害罪
この点は少し注意が必要です。特定の地域が火事である情報があれば消防署が出動することになります。そしての情報が虚偽であれば、消防署の業務を妨害していたことになります。したがって、この場合には偽計業務妨害罪が成立することになります。

フェイクニュースの発信により暴動・革命等を扇動した場合

以下の事例は上記と異なり、発信内容に基づく処罰されますのでご注意ください。

内乱を扇動した場合

日本国内での内乱を誘発するようなフェイクニュースを発信するとともに日本国内での内乱を扇動した場合には、日本刑法の内乱罪の適用があります(刑法77条)。

外国に対し日本への侵攻を呼びかけた場合

外国に対し日本への侵攻を誘発するようなフェイクニュースを発信するとともにそのような侵攻を扇動した場合には、日本刑法の外患誘致罪(刑法81条)の適用があります。

外国に対し戦争を仕掛けるように呼びかけた場合

日本国内に対し外国に戦争を仕掛けるようなフェイクニュースを発信するとともにそのようなことを扇動した場合には、日本刑法の私戦予備罪(刑法93条)の適用があります。

配信の仕方で罪の重さは変わる?

コラージュ写真を載せて配信したら罪が重くなる?

例:有名人の顔を用いて当該有名人が逮捕されたコラージュ写真(画像等を切り貼りして一つの画像等にしたもの)を作成して、その画像ともに「俳優の○○が逮捕された。」とのフェイクニュースを発信した場合。


もともと虚偽の報道には、合成写真等の虚偽写真が使用されることが多々ありました。そのような経緯を考えると、いわゆるコラージュ写真を用いたフェイクニュースの発信により刑罰が変わることはありませんが、量刑には大きく影響を与えます

上記事例に即して考えると、少なくともコラージュ写真により、その写真がない場合と比較して、そのニュースに触れる人に対し当該俳優が逮捕されたとの虚偽事実が真実であるかのごとく信じ込ませるという効果は否定できません。そうすると、当該俳優の経済的な信用を低下させる度合いは比較的高いものとなり、また業務への影響も軽いものではないといえます。このような事情を考えると量刑には悪く(重く)作用します。

また、かつて大地震の際に「地震のせいで近くの動物園からライオンが脱走した」と写真付きでSNSに投稿されたことがありましたが、これについては、仮に消防警察の出動を余儀なくされる程度具体的なものである場合には、警察又は消防に対する業務妨害罪が成立することになります。

新聞やニュース番組のコラージュを作って配信したら罪が重くなる?

有名新聞の号外を装い、「○○総理逮捕」などの見出しを用いた画像を用いたフェイクニュースを送信した場合。


上記事例の場合、人が逮捕されたとの事実はその人の社会的評価を低下させること、その人の経済的信用についても打撃を当たること及びその人の業務を妨害することが優に認められますので、この行為は、総理大臣に対する名誉毀損罪、信用毀損罪及び偽計業務妨害罪が成立することになります。

ただし、名誉毀損罪については、公共の利害に関する事実で、真実である等の場合には前記に刑法230条の2により違法性が阻却されますが、当該事例の場合は真実ではありませんので、同条の適用はありません。

フェイクニュースを配信した目的は罪の重さに影響する?

対象の人物や企業が嫌いだから配信した場合

日本刑法では、行為の動機や目的は、基本的には罪の成立には影響を与えません。他方、量刑には影響することになります。すなわち、特定の人物企業に対する嫌悪感が存在するということは強固な動機があるとみなされて、それがない場合に比して重い量刑に処せられる傾向があります。

サイトの広告収入が目的だった場合

上記と同じく、例えばサイトの広告収入を稼ぐ目的のような営利目的の場合には、罪の成立に影響にしないものの、量刑には影響します。すなわち、営利目的がある場合はその動機は身勝手(自己に利益のために他人に不利益を与えたという内容)であり、斟酌の余地がないなどと評価され、それがない場合に比して、重い量刑に処せられる傾向にあります。

いたずら目的の場合

この目的も同様に、量刑において作用します。すなわち、いたずら目的があった場合にはそれがない場合に比して、その動機は身勝手(自己の好奇心を満たすためだけに他人に不利益を与えたという内容)であるとして、重い量刑に処せられる傾向にあります。

騒ぎになって削除したけれど、それでも逮捕される可能性はある?

日本刑法においては、犯罪行為後に結果発生防止のために行為をした場合、中止犯が成立し、刑が免除される場合があります(刑法43条但書)。しかし、コメント欄が炎上した・SNSで騒ぎになったなどで、該当記事を削除したというような場合であれば、既に名誉毀損の結果、業務妨害等の結果が生じた後であると評価できますので、中止犯は成立しません。単に量刑の一事情となるにすぎないでしょう。

フェイクニュースだと書いておけば問題ない?

日本刑法の適用において、フェイクニュースとの記載があったとしても、刑の成立を免れない場合があります。すなわち、例えば、名誉毀損罪の成否について検討すると、一般人からみて明らかにフェイクニュースであっても、その内容により対象となった人又は法人の社会的評価を低下させるような場合には、罪が成立することになります。したがって、フェイクニュースであると記載したとしても何の罪にも問われないことにはならないのです。

フェイクニュースを拡散した場合の刑罰

他人が創作したフェイクニュースを拡散された場合、基本的には、それ自体が名誉毀損行為であり、業務妨害行為であるため、独立して罪に問われる可能性はあります。ただし、どのような目的で行ったのかついて以下のとおり場合を分けて検討する必要があります。

ニュースを信じて拡散した場合

フェイクニュースを真実であると知って拡散された人に対しては、刑罰との関係では、違法性の認識がないのではないかという問題が生じます。この点、真実性を誤信したとしてもそれのみで罪が成立しないというものではなく、相当の根拠をもって信用した場合に、罪が成立しないとされています(理論的には責任故意が阻却されるため、犯罪が成立しない。)。なんの調査もせずに、フェイクニュースを軽信し、拡散させてしまったとしても、上記で言う相当な根拠をもって真実性を誤信したと評価することはできないので、ご注意ください。

面白いと思って拡散した場合

上記の場合とは異なり、嘘だと知りつつ(嘘だと思いつつ)面白がって拡散した場合には、真実性の誤信はありませんので、何の問題もなく罪が成立します。また「嘘だと思うけど面白い」などのコメントをつけて拡散させたとしても、罪の成否には影響を与えません。単に量刑の一理由となるに過ぎません。

日本国外での処罰について

フェイクニュースに関する外国での処罰

マレーシアにおいて、フェイクニュースの発信者を処罰する法律案が成立しそうであるとのニュースがあり、日本以外の国ではフェイクニュースの発信行為が他の特定人の利益が害さなくとも処罰するという法律がある国もあります。

施行範囲

刑罰の適用範囲は基本的にはその国のみとされています。そして、その国の法益を侵害する行為があれば、外国人であっても処罰される場合があります(これを属地主義といいます。)。とはいえ、逮捕勾留等の実力を行使できる範囲はその国の施政権が及んでいる範囲に限定され、通常はその国の内部に限られます。したがって、日本国内にいる限りは、その国に法益を害するようなフェイクニュースを発信したとしても、その国の法律で処罰されることは、ありません。なぜなら施政権が及んでいないからです。

当該国に入国した場合に拘束される可能性

上記の場合と異なり、その国に入国した場合は話が別です。すなわち、この場合はその国の施政権の範囲内に入ってしまうため、当局から拘束されるリスクが発生するのです。このように外国に対するフェイクニュースについては日本国内に対するフェイクニュースとは全く異なるリスクがあることにご留意ください。

まとめ

以上のとおり、フェイクニュースの発信に関しては、様々な法的な問題があり、また渉外の問題も絡んでくる可能性があるため、法律の専門家である弁護士の助力を得ることを強くお勧めします。