刑事事件の保釈と釈放にはどのような意味があるのか詳しく見ていきましょう。
目次
保釈について
保釈とは
保釈とは、一定額の保釈保証金の納付を条件として、勾留の執行を停止し、身体拘束状態を解く制度です。保釈は被告人に認められた制度であり、起訴前段階にある被疑者には保釈は認められていません。
保釈は、基本的に被告人やその弁護人、親族等の保釈請求権者から保釈請求がなされ(刑事訴訟法第88条)、検察官の意見聴取(同第92条第1項)・保証金額の決定(同第93条第1項・2項)、保釈条件の決定(同第3項)などを経て、裁判所の保釈決定(同第94条)によってなされます。
3つの種類の保釈
保釈には、「権利保釈(必要的保釈)」・「裁量保釈(職権保釈)」・「義務的保釈」という3種類の保釈が存在します。
権利保釈とは
保釈請求権者による保釈の請求があった場合、次の6事由がない限りは、原則として保釈を認めなければなりません(刑事訴訟法第89条)。これを「権利保釈(必要的保釈)」といいます。
- ① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
- ② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
- ③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
- ④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき
裁量保釈とは
上記6事由が存在したとしても、裁判所は適当と認めるときには、職権で保釈を許すことができます(刑事訴訟法第90条)。これを「裁量保釈(職権保釈)」といいます。適当か否かは、失職のおそれや家庭崩壊のおそれなどの身体拘束による不利益や、逃亡や罪証隠滅のおそれ,捜査の進捗状況、示談の有無などを考慮することになります。
義務的保釈とは
上記保釈のほか、勾留による身体拘束が不当に長くなったときには、裁判所は保釈請求権者の請求または職権により、保釈を認めなければなりません(刑事訴訟法第91条第1項)。これを義務的保釈といいます。
一定の場合は保釈の取消しと保証金の没収の可能性がある
保釈を受けた被告人は、次の事由が存在する場合、保釈を取り消され、場合によっては保釈保証金の一部または全部を没収されることになります(刑事訴訟法第96条第1項・2項)。
- ① 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき
- ② 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ③ 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- ④ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき
- ⑤ 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき
なお、何事もなく刑事裁判が終了すれば、納付した保釈保証金は返還されることになります。
釈放について
釈放とは
釈放とは、被疑者・被告人が、逮捕・勾留の失効により、身体拘束状態から解放されることをいいます。身体拘束状態を解かれる点で保釈と同じではありますが、保釈は勾留の執行が停止するだけであって(そのため、勾留の効力は残存しています)、一定の事情が生じれば再び身体拘束を受ける可能性があります。
様々な釈放のケース
釈放される主なケースとしては、①検察官による勾留請求が認められなかった場合、②勾留決定に対する準抗告が認められた場合、③勾留満了時までに起訴されなかった(不起訴・処分保留となった)場合などがあげられます。なお、被告人勾留の状態で釈放されることはあまりありません(専ら保釈請求がなされます)。
検察官による勾留請求が認められなかった場合
検察官による勾留請求が認められなかった場合、被疑者を釈放しなければなりません(刑事訴訟法第207条第4項参照)。そのため、弁護人としては、裁判所に対して勾留決定を出さないよう説得することになります。なお、検察官に勾留請求をしないよう説得することもあります。
勾留決定に対する準抗告が認められた場合
勾留決定に対しては、準抗告という異議を出すことできます(刑事訴訟法第429条第1項第2号)。準抗告が認められた場合、勾留は取り消されますので、すぐに釈放されることになります。
勾留満了時までに起訴されなかった(不起訴・処分保留となった)場合
検察官は、勾留請求後10日以内(勾留延長があった場合は最大で勾留請求後20日以内)に公訴提起をしない限りは、被疑者を釈放しなければなりません(刑事訴訟法第208条第1項・2項)。また、不起訴処分または処分保留となった場合も、釈放されることになります。
まとめ
保釈や釈放を実現するためには、裁判官や検察官への説得、被害者との示談など、様々な活動が必要となりますが、身体拘束下にある被告人ではこれら活動を行うのは難しく、弁護人が必要不可欠であるといえます。逮捕・勾留されてしまったら、弁護人に助けを求めることが肝要でしょう。