刑事事件で逮捕後に保釈されるためには、どのような条件があるのか詳しく見ていきましょう。

保釈について

保釈とは

保釈とは、起訴後において、保釈保証金を納めることで、勾留の効力を一旦停止させ、被告人を身体拘束から解放する手続きをいいます。保釈は、起訴後においてのみ認められている制度ですので、被告人のみが対象です(被疑者に保釈は認められていません)。

原則として保釈は認められる

被告人やその弁護人などの保釈請求権者による保釈請求がなされた場合、後述の権利保釈除外事由が存在しない限り、保釈を許さなければなりません(刑事訴訟法第89条)。このように、原則として保釈が認められていることから、権利保釈または必要的保釈といわれています。

権利保釈除外事由が存在しても事情によっては保釈が認められる

原則として保釈が認められているとはいっても、後述の通り、比較的広く権利保釈除外事由が設定されていますので、権利保釈が認められないケースは結構存在します。もっとも、権利保釈除外事由が存在して権利保釈が認められない場合であっても、裁判所は適当と認めるときには職権で保釈を認めることができます(刑事訴訟法第90条)。このように、裁判所の裁量判断によって行われるものであるため、裁量保釈または職権保釈といわれています。

裁量保釈が認められるためには、保釈の必要性と保釈の相当性があるといえなければなりません。保釈の必要性の判断においては、被告人を身体拘束下に置いておくことによる同人の不利益(仕事を辞めされられるおそれや離婚のおそれなど)の有無・程度を考慮することになります。保釈の相当性の判断においては、保釈を許すことによる逃亡や証拠隠滅の危険、捜査の進行具合、示談の有無、身元引受人の存在などの事情を考慮することになります。

なお、裁判所の裁量判断とはいっても、この判断を促す活動が必要であるため、弁護人としては保釈を認めるべき事情があることを裁判所に説得することになります。

勾留期間が長いことを理由とする保釈

上記のような保釈とは別に、裁判所は、被告人勾留による身体拘束期間が不当に長いと判断できる場合には、保釈請求権者の請求または職権で、保釈を認めなければなりません(刑事訴訟法第91条第1項)。これを、義務的保釈といいます。

権利保釈除外事由について

死刑、無期・短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき

例えば、被告人が殺人罪(刑法第199条)や強盗致傷罪(同法第240条)で起訴されている場合は、当該事由に該当し、保釈が認められないことになります。

死刑、無期・長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪で有罪経歴があるとき

例えば、被告人が過去に被告人が殺人罪などで無期懲役の有罪判決を受けたことがある場合は、当該事由に該当し、保釈が認められないことになります。

常習として長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき

「常習として」については、諸般の事情から被告人に同種犯罪の反復する習性があるか否かという観点から判断がなされます。そのため、条文上常習性が要求されている罪を犯した場合や同種前科がある場合に限定されません。

当該事由に該当する例としては、覚せい剤使用罪(覚せい剤取締法第41条の3第1項第1号)などです。

罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき

実務上頻繁に問題となるのが当該事由です。当該事由は、特に上記のような対象犯罪の限定がないため、保釈請求を却下する上でよく使われる事由となっています。例えば、被告人が一貫して否認している場合は、保釈した場合に被告人が証拠を隠滅するおそれがあるとして、当該事由に該当すると判断されることになります。

被害者などを畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき

被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるときは、保釈請求が却下されることになります。いわゆるお礼参りを防止するために設けられた事由となっています。

氏名又は住居が分からないとき

被告人の氏名や住所が不明である場合は、当該事由に該当し、保釈が認められないことになります。

保釈手続きの流れ

保釈の請求を行う

保釈手続きは、起訴後において、勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹(以上、保釈請求権者)が請求することによって開始されます(刑事訴訟法第88条第1項)。

基本的には、被告人の弁護人が、保釈請求書を裁判所に提出することになります。保釈請求書には、権利保釈除外事由が存在しないことや裁量保釈の考慮事情(保釈の必要性・相当性)を記載することになります(権利保釈を求めるほか、それが認められなかった場合に備えて裁量保釈の判断・決定を促す意思表示も含まれています)。

なお、保釈請求自体は何回でもできますが、前回の保釈請求が却下されている場合、その原因を克服しなければ、また保釈請求を却下されることになるでしょう。

検察官の意見を聴取する

保釈請求権者の請求があった場合、裁判所は検察官の意見を聴取しなければなりません(同法第92条第1項)。

保釈保証金の額と保釈条件の決定

その後、裁判所は、保釈を認めるのであれば、保釈保証金の額と保釈を認める条件を定め(同法第93条)、保釈決定を出すことになります(同法第94条)。

保釈金納付後に保釈される

保釈決定後、保釈保証金を実際に納付して初めて、被告人は身体拘束から解放されることになります(刑事訴訟法第94条第1項)。そのため、保釈決定がなされても、保釈保証金を納付しないままであると、いつまでたっても保釈されることはありません。また、保釈金は現金で一括で払わなければなりません。

なお、保釈保証金を払うのが難しい人は、一般社団法人日本保釈支援協会に保釈保証金を立て替えてもらうという方法があります。また、裁判所は被告人以外の者が差し出した保証書をもって保釈保証金に代えることを許すことができるとされており(同条第3項)、全国弁護士協同組合連合会に発行してもらえる保釈保証書を提出して保釈を認めてもらうという方法もあります(被告人が逃亡した場合に同組合から保釈保証金が裁判所へ支払われることになります)。

保釈保証金について

保釈保証金とは

保釈保証金は、被告人の逃亡のおそれを担保するために要求されている金銭です。すなわち、高額の保証金を納付させ、逃亡しようとした場合はその保証金を没収するという罰を用意することで、被告人に逃亡させないようにするということです。そのため、保証金を0円とすることはできません(0円では被告人に逃亡をためらわせることはできませんし、そもそも刑事訴訟法第93条第1項は「保証金額を定めなければならない」と規定しており、保証金額を設定することは法律上の要請といえます)。

保釈保証金の額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して決定することになります(同法第93条第2項)。このように、保釈保証金の額はさまざま事情を総合的に考慮することになりますので、どの人にも当てはまるような保証金の相場というのは厳密にはありません。

何事もなければ保釈保証金は返還される

前述の通り、保釈保証金は被告人の逃亡のおそれを担保するために裁判所に預けておくものであるため、逃亡せずにきちんと裁判所に出頭すれば、保釈保証金は返還されることになります(逆に、逃亡すれば、保釈保証金は没収されることになります)。

保釈の条件について

前述の通り、保釈決定をする際は、保釈の条件を設定することがあります。この保釈の条件を破ると、保釈の取消し(刑事訴訟法第96条第1項第5号)や保釈保証金の没収(同条第2項)がなされる可能性があります。

保釈の条件として多いのは、「住居変更の制限(住所変更をするためは裁判所の許可が必要)」、「召喚を受けた場合の裁判所への出頭義務」、「逃亡や証拠隠滅と思われる行為の禁止」、「旅行の制限(海外旅行の禁止、一定日数以上の旅行は裁判所の許可が必要」、「共犯者・被害者・関係者等との接触禁止」などです。

まとめ

刑事裁判を万全の準備で迎えるためには、被告人としては身体拘束状態から解放してもらうことが重要ですし、被告人には仕事や家庭もありますので、一刻も早く保釈をしてもらう必要があるでしょう。

保釈を認めてもらう上で、被告人だけで活動するのは困難です。被告人の見方である弁護人にお願いし、保釈決定を目指すことが肝要です。