今はツイッター、インスタグラムやフェイスブックなどのSNSで誰でも簡単に、しかも匿名でも書き込みできる時代です。なので、自分の投稿が名誉棄損など思わぬ事態に発展する可能性も考えられます。そこで今回は名誉棄損について詳しく見ていきましょう。

そもそも名誉棄損とは何なのか?

名誉棄損とは、文字通り、他人の名誉を傷つけることをいいます。名誉棄損に対しては、刑事上においては名誉棄損罪(刑法第230条1項)として罪に問われるおそれがあり、民事上においては不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)がなされる可能性があります。

ここでいう「名誉」とは、社会がその人に与える評価(外部的名誉)のことを指します。例えば、AさんがSNS等で「Bさんは、ファッションセンスがなさすぎる」という発言をした場合、一般的にみてファッションセンスに対する評価は社会的評価であるため、これを傷つける発言は名誉棄損にあたります(本人が主観的にファッションに対し持っているこだわりを否定したかどうかを問題にしているわけではありません)。

刑事上の名誉棄損について

刑法第230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」と規定していますので、これに該当するようなことをすれば、名誉棄損罪として罪に問われることになります。例えば、ネット上などの不特定又は多数の者の前で、「Aさんは低学歴である」というように具体的な事実を示してその者の社会的評価を低下させるおそれのある発言をする場合です。

不特定多数ではなく身内のみに発言した場合は名誉棄損になるの?

身内のみに発言したような場合や、「Aさんは馬鹿である」というように何ら事実を示さない発言である場合は、名誉棄損罪は成立しません。

名誉棄損があったらすぐに刑事責任が問われるの?

また、名誉棄損罪は被害者等による刑事告訴がなければ起訴することのできない犯罪(親告罪)ですので(刑法第232条1項)、被害者等の刑事告訴がない段階では、刑事訴追されることはなく、有罪判決を受けることはありません。

名誉棄損で逮捕される明確なボーダーラインはあるの?

名誉棄損罪に該当するような発言をした場合に逮捕されるかについて、同罪も刑法上の犯罪である以上、逮捕の必要性が存在すれば、逮捕される可能性はあります。逮捕されるか否かはケースバイケースなところがあり、明確なボーダーラインを引くことは難しいですが、名誉棄損が甚だしい場合や、加害者が全く捜査に協力的ではない場合などは、逮捕される可能性が高くなるでしょう。

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名誉棄損罪に該当しても免責されることはあるの?

なお、名誉棄損罪に該当する行為を行った場合であっても、一定の場合には免責されることがあります。すなわち、刑法第230条の2は「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」としており、例えば犯罪報道や政治家等の公務員に関する報道などは、たとえ刑法第230条1項に該当するものであったとしても、刑法第230条の2によって免責される可能性があります。また、真実であることの証明ができない場合であっても、判例法理により、「真実であると信じたことについて確かな資料に基づいているなど相当な理由がある場合」であれば免責されることになります。

民事上の名誉棄損について

民法第709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定していますが、人の名誉(社会がその人に与える評価)は「法律上保護される利益」に該当しますので、名誉を傷つけるようなことをすれば損害賠償義務を負うことになります。

もっとも、刑事上の名誉棄損と同様、民事上の名誉棄損も、社会性のある報道等である場合は損害賠償義務を免れる可能性があります(法律上は、民事上の違法性がないという説明になります)。

刑事事件と民事事件の名誉棄損の違い

刑事上の名誉棄損も民事上の名誉棄損も、名誉棄損にあたるかどうかの基準は基本的に同じです。ただし、刑事上は故意に人の名誉を傷つけた場合に犯罪が成立するのに対し、民事上は故意のみならず過失によって人の名誉を傷つけた場合にも損害賠償義務が発生することになります。

名誉棄損罪と侮辱罪の違い

刑事事件においては、名誉棄損罪に似ている犯罪として、侮辱罪という犯罪があります。刑法第231条は、侮辱罪について、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」と規定しています。

名誉棄損罪と侮辱罪の違いは、「事実の摘示」の有無です。事実を摘示して人の名誉を傷つければ名誉棄損罪、事実を摘示せずに人の名誉を傷つければ侮辱罪となります。そのため、例えば不特定又は多数の者の前で、「Aさんは馬鹿である」というような何ら事実を示さずにその者の社会的評価を低下させるおそれのある発言をすれば、名誉棄損罪ではなく侮辱罪が成立することになります。

どのような行為が名誉棄損になるのか?

SNSやブログで特定の会社の悪口を投稿するのは名誉棄損になるのか?

SNSやブログにおける発言は、すぐに世の中に拡散するおそれがあるため、不特定又は多数の者の前での発言と考えることができます。そして、会社であっても社会的な評価を受けることになりますので、具体的な事実を示してその会社の名誉を毀損するような投稿をすれば、名誉棄損罪が成立します。

噂話で特定の人物の悪口を広めた場合は名誉棄損罪になるのか?

前述の通り、名誉棄損罪が成立するためには、不特定又は多数の者の前での発言である必要があります。もっとも、噂話として特定の少人数だけに発言した場合であっても、その者らが多くの人々に発言の内容を広める可能性があるのであれば、不特定又は多数の者の前での発言と同様に名誉棄損罪が成立すると考えられています。

まとめ

名誉棄損は、歴とした犯罪でありますし、損害賠償義務を発生させうるものでもあります。しかし、ネットが普及し、誰もが気軽にSNSやブログを利用することができるようになった現代においては、全体的に名誉棄損に関する規範的意識が低下してきています。そのため、投稿者としては人の名誉を傷つける気はなくても、知らず知らずのうちに誰かの名誉を傷つけているということが少なくありません。これからは、ネットへの投稿によって誰かを傷つけてしまう危険があるかもしれないと自覚し、マナーを守りながらネットを利用することが求められます。

そうはいっても、うっかり人の名誉を傷つける投稿をしてしまう場合もあります。そのような投稿によって誰かに訴えられ、または被害届等を出された場合には、弁護士に相談するべきでしょう。