盗撮容疑で逮捕された場合、どのような刑罰になるのでしょうか。解説します。

盗撮で逮捕された場合の刑罰とは

まず前提として、盗撮の対象を最も裁判で事件とされている女子の裸体・下着着用時の姿態とします。当該女子が児童(18歳に満たない者)であるかどうかについて罰条が異なるため場合を分けて検討します。さらに、盗撮の場所が公共の場所か邸宅等のいわゆるプライベートスペースなのかによって、罰条が異なるため、場合を分けて検討します。

盗撮対象が児童ではない場合

盗撮の場所が公共の場所(鉄道・駅構内)である場合

まず、たとえば、東京都においては、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる迷惑行為防止条例)第5条第1項第2号において、何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することをしてはならない旨が規定されています。

そして、同号違反の行為は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(同条例第8条第2項)。ここで、たとえば、特段の理由もなく、鉄道内又は駅構内のエスカレーター内でスマートフォンのカメラ撮影機能を用いて女性のスカート内の下着を撮影する行為は、同条例第5条第1項第2号に規定する人を覚えさせる行為であって、通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着を写真機その他の機器を用いて撮影する行為に該当します。したがって、当該行為は同号違反の行為となります。

なお、上記条例では、たとえば駅構内の女子トイレに女子が用を足す姿を撮影できるようにトイレ内にカメラを設置する行為自体も同条例違反に該当することになりますので、ご留意ください。

盗撮の場所が個人の邸宅の風呂場などのプライベートスペースであった場合

軽犯罪法第1条第23号は、正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者は、拘留又は科料に処する旨規定しております。そして、特段の理由がないにもかかわらず、個人の邸宅の風呂場内の女性の入浴姿を撮影することで、個人の邸宅の風呂場を見た場合には、同法の他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た行為に該当します。したがって、この行為は、軽犯罪法第1項第23号違法となります。

迷惑行為防止条例と軽犯罪法との違いは、迷惑行為防止条例では、撮影行為自体を処罰できるのに対し、軽犯罪法は、のぞき「見る」という行為が必要になります。逆にいうとのぞき「見た」という行為の存在を証明できなければ、軽犯罪法で処罰できません。そして、迷惑行為防止条例では、処罰できる場所に公共の乗物という形で電車が含まれるのに対し、軽犯罪法は「人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」という文言上、「電車」という場所での盗撮行為は含まれません。以上のような違いがあり、軽犯罪法違反行為で処罰できないものを迷惑行為防止条例で処罰できるようにしたものです。

盗撮対象が児童であった場合

盗撮対象を児童と知って盗撮した場合

盗撮場所が公共の場所(鉄道・駅構内)である場合、まず、各都道府県の迷惑行為防止条例違反に該当することは、盗撮対象が児童ではない場合と同様です。次に、盗撮対象が児童であり、かつ盗撮が児童のスカートの中の下着等を撮影した場合は、いわゆる児童ポルノ規制法第7条第4項が衣服の全部又は一部を着けない姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出又は強調されているものであり、かつ性欲を興奮又は刺激するものに該当する姿態を電磁的記録にかかる記録媒体に描写することにより児童ポルノを製造した行為に該当します。当該行為には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金刑に処せられます(児童ポルノ規制法第7条第5項、第2項)。

なお、平成26年改正法により、上記のような児童ポルノの単純所持(営利目的、公表目的等以外の自己の性的好奇心を満たす目的での所持)も処罰されることになりましたのでご留意ください(児童ポルノ規正法第7条第1項)。なお、上記単純所持罪は、平成27年7月15日以降に児童ポルノを所持している場合に処罰されることになります(平成26年改正附則第1条第2項)。

盗撮対象を児童と知らずに盗撮した場合

児童ポルノ規正法第9条により、児童の年齢を知らないことを理由として、児童ポルノ製造罪の処罰を免れることはできません(ただし過失がない場合を除きます。)。ここでいう過失とは、盗撮の対象者が児童ではないとする相当な理由があるかということですが、この場合、被疑者は知らない(=認識がない)という事実を証明するだけでは足りません。これに加えて知らないことに過失がないという事実まで証明する必要があります。このような条項の建付けからすると、よほどのことがない限り、この立証は困難なものといえます。したがって、被疑者が盗撮の対象者が児童であることを知らなかったとしても、処罰される見込みが濃厚であると考えておくべきです。

盗撮で逮捕されたら前科がつくの?

迷惑行為防止条例違反、軽犯罪法違反、児童ポルノ規正法であれ、全て刑罰を科せられますので、いわゆる全てにおいて前科が付くことになります。そして、執行猶予を受けた場合には猶予期間の満了から10年を経過したとき、また罰金刑の場合に罰金の納付を行ったときから5年を経過した時点で、刑の効力が消滅します。つまり、前科が対外的には消滅します。ただし、警察・検察内の前科調書における記録は消すことができません。

盗撮に時効はあるの?

前提として、ここでいう時効とは2つの意味があります。すなわち、公訴時効と刑の時効です。それぞれについて解説します。

公訴時効について

公訴時効とは、検察官が裁判所に刑罰権の行使を求めて訴えること(公訴といいます。)ができる期間をいいます。公訴期間を経過すると、唯一公訴が提起できる検察官が公訴をすることができなくなりますので、被疑者は事実上罪に問われることがなくなります。ただし、被疑者が国外にいる間や逃げ隠れしている間は、公訴時効が停止しますので、その期間は公訴時効は進行しないことになります。

そして、各都道府県の迷惑行為防止条例違反の公訴時効は、盗撮行為時から3年となります。次に軽犯罪法違反の公訴時効は、1年となります。さらに児童ポルノ規正法違反の公訴時効は、3年となります。

刑の時効について

刑の時効とは、一定期間が経過することで、国の刑罰権自体が消滅するという制度です。たとえば、被告人に対し、刑の宣告がされたにもかかわらず、刑の執行でできなかった場合には、一定の期間を経過すると、国の刑罰権が消滅します。そして、各都道府県の迷惑行為防止条例違反の刑の時効は、盗撮行為時から罰金であれば3年、執行猶予であれば5年となります。次に軽犯罪法違反の刑の時効は、1年となります。さらに児童ポルノ規正法違反の刑の時効は、5年となります。

会社や学校に発覚したどうなるの?

会社に発覚した場合

通常は就業規則において刑事事件を惹起した者は懲戒解雇とする旨が規定され、情状の上、処分を決するというような内容で規定されていると見受けられます。このような場合には、盗撮及びこれに対する刑事処分が会社に発覚した場合には、基本的には懲戒解雇されることになります。

学校に発覚した場合

通常は校則において停学処分等の何らかの処分がなされるのが通例です。そうすると、盗撮及びこれに対する刑事処分が学校に発覚した場合には、停学処分等の処分が行われることになります。

盗撮で逮捕されても会社や学校にバレずに済む方法はあるの?

盗撮等が会社・学校に発覚する最初の端緒は、逮捕されたことにより出社・出勤できないことが生じることです。無断欠勤・無断欠席が生じてしまうと、その理由を求められますので、そこで発覚するということになるのです。そこで、逮捕されてしまった場合には、会社・学校に連絡して有休使用・欠席の連絡をいれましょう。または身体拘束されている間に親族に連絡してもらうようにしましょう。実際、逮捕されてしまうとこれぐらいしかありません。ですので、疑われることはできる限りしないでおくに越したことはないですね。

盗撮をして逃げたら罪が重くなるの?

逃げようとして捕まった場合

盗撮の被疑者が逮捕時に逃げた場合、暴行脅迫を伴わない場合には、特に罪に問われることはありません。ただし、検察官・被害者の心証がかなり悪くなりますので、不起訴処分や示談は困難になるとご留意ください。

後日捕まった場合

盗撮の被疑者が一旦逃げおおせたものの、後日逮捕された場合であってもそれ自体が罪に問われることはありません。ただし、検察官・被害者の心証がかなり悪くなりますので、不起訴処分や示談は困難になると考えてください。なお、逃げている期間については、公訴時効は停止することにご留意ください。

どんなふうに盗撮したかで罪の重さが変わることはあるの?

刑事訴訟法では、起訴便宜主義といって検察官が公訴提起するに当たって、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができるとされています(刑事訴訟法第248条)。したがって、盗撮の行為態様が犯行を隠蔽する態様のもの、例えば盗撮の際にシャッター音を消す、撮影用のスマートフォンが見えないようにかばん等に隠して行うなどの常識的にみて悪質とみられる態様が行うことは、検察官の心証が悪くなります。また被害者との示談についても悪影響こそあれ、よい影響を生じさせることはないでしょう。

盗撮したものをアップロードしたら罪が重くなるの?

盗撮対象が児童である場合

児童ポルノ規正法は、盗撮結果が児童ポルノに該当するものである場合、これをアップロードするような行為は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処せられます(第7条第6項)。

盗撮対象が児童ではない場合

盗撮結果がわいせつ物に該当する場合、これをアップロードでして公然と公衆の面前に明らかにしたような場合には、公然わいせつ物頒布等罪(刑法第175条)に該当します。

まとめ

以上のとおり、かなり厳密で詳細な法律判断が必要となってきますので、困ったら弁護士に相談することを強くお勧めします。