電車やバスの中で盗撮した場合にどのような罪に問われるのでしょうか。また、相手の衣服を盗撮しただけでも罪に問われるのか、詳しく見ていきましょう。

電車やバスの中で盗撮を行ったらどのような罪に問われるの?

電車・バスでの盗撮は、各都道府県が定めている「迷惑防止条例」に違反する犯罪です。「迷惑防止条例」とは略称で、例えば東京都では、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が正式名称です。

この東京都の条例では、公共の乗り物内で、通常は衣服で隠されている下着や身体を、カメラやデジタル機器等で撮影したり、撮影する目的でカメラやデジタル機器等を向けたり、設置したりして、正当な理由もなく、人を著しく羞恥させたり、不安を覚えさせたりする行為を禁止しています。

これに違反した場合は、6ヶ月以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑となります。東京都以外の各地方自治体も、同様の迷惑防止条例を定めています。

電車・バスで盗撮を行ったら即逮捕されるの?

逮捕されることが通常です。

盗撮が発覚するのは、通常、その電車・バス内の犯行現場においてです。現行犯なので、嫌疑は明白で、電車・バス内での盗撮という行為の性格上、逃走の恐れが非常に高いことから、当然に、その場で現行犯逮捕が可能です。

また、発覚した後に降車して逃走しても、追跡をうけ、駅構内や線路上などの時間的、場所的に離れていない状況であれば、現行犯とみなされる「準現行犯」として逮捕されることもあります。

現行犯、準現行犯の逮捕は、警察官に限らず、誰でも逮捕することが許されています。

盗撮画像をネット上に公開するとさらに罪は重くなるのか

重くなります。

まず、ネット上に公開した、その盗撮画像・動画が、わいせつ画像・動画にあたる場合は、「わいせつ電磁的記録に係る記録媒体」の「公然陳列」にあたり、いわゆる「わいせつ物陳列罪」(刑法175条1項)で処罰されます。

同罪は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金です。懲役刑と罰金刑の両方を科すこともできます。

東京都迷惑防止条例違反と、わいせつ物陳列罪は、併合罪となり、刑が加算され、2年6ヶ月以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑、あるいはその両方の刑となります。

盗撮した画像・動画が、わいせつ画像・動画にあたる場合に、これを販売していた場合は、わいせつ電磁的記録に係る記録媒体の「頒布」にあたり、いわゆる「わいせつ物頒布罪」(刑法175条1項)で処罰されます(刑法175条の平成23年改正により、有償販売の場合も「頒布」に含まれるようになりました)。

この場合も、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金で、やはり懲役刑と罰金刑の両方を科すこともできます。有償で販売して利益を得ていれば、両方の刑を受ける可能性が高くなります。

ネットに公開した盗撮画像に、被害者の顔などが写っていることで、人物が特定されてしまう場合は、被害者の社会的評価を低下させるものとして、名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当し(横浜地裁平成5年8月4日判決)、3年以下の懲役もしくは禁錮、又は50万円以下の罰金刑となります。

児童を盗撮した場合はさらに罪は重くなるのか

児童を盗撮した場合、その画像が、「児童ポルノ」に該当する場合は、いわゆる「児童ポルノ禁止法」違反となり、さらに罪が重くなる場合があります。

児童ポルノ禁止法は、正式名称を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」といいます。同法にいう「児童」とは18歳未満の者です。

そして、衣服の全部または、一部を着けない姿で、ことさらに性的な部位(性器等、その周辺部、臀部、胸部)が露出され、強調され、性欲を興奮、刺激する画像は「児童ポルノ」にあたるとされています(同法2条3項3号)。

盗撮によって、このような画像を撮影した者は、「児童ポルノ」を「製造」した者として、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となります(同法7条5項)。

集団で盗撮を行っていた場合はどのような罪になるのか?

複数人による盗撮を、単独犯の場合と区別して処罰するという法律は格別ありませんから、集団での盗撮も、単独犯と同じ法律で処罰されます。

ただし、この場合、関与した全員が、「共謀共同正犯」という扱いを受けます。

例えば、わいせつ画像を販売する目的で、グループで盗撮をした場合、盗撮して販売するという計画を立てて、参加者を募り、犯行グループに指示をしたが、盗撮現場には赴かず、盗撮行為自体も行わなかったという首謀者であっても、盗撮を実行した者と同じく、共同正犯としての処罰を受けます。

各人が担当した行為の中身やグループ内での地位に応じて、刑の重さが決まります。また、このように集団で盗撮を行った場合は、計画性が認められ、悪質性が高いものとして、量刑が重くなる可能性があります。

撮影するのと見るのでは刑罰は違うの?

これは条例にもよりますが、例えば、北海道迷惑防止条例では、電車やバス内で下着をのぞき見る行為を禁止し、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金としています(2条の2(1)イ、11条)。同条例では、盗撮行為に対する刑罰も、同じく、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金であり、変わりません(2条の2(2)、11条)。

これに対し、東京都迷惑防止条例には、下着をのぞき見る行為を禁止する条文はありません(ただし、後述の「卑わいな言動」として処罰される可能性はあります)。

女性の衣服を盗撮するだけでも罪になるのか?

条例によっては、罪になります。

例えば、北海道迷惑防止条例では、公共の場所で禁止される盗撮の対象を、衣服などで(通常は)おおわれている身体、下着と定めており、衣服を着ている姿を撮影することは禁止対象とはしていません(2条の(2))。

しかし、こんな事件がありました。
盗撮犯人が、ショッピングセンターで、ズボンを着用した女性客(27歳)を、約5分間、40メートルに渡って追尾し、背後1~3メートルの距離から、自分の腰の位置あたりに構えた携帯電話(デジタルカメラ付き)で、その女性のズボンをはいた臀部を11回撮影したという事件です。

ズボンをはいている臀部を撮影したのですから、禁止された盗撮にはあたりません。しかし、無罪にはなりませんでした。

この行為は、同条例が禁止する、公共の場所で、「人を著しく羞恥させ」、「不安を覚えさせるような」、「卑わいな言動」(2条の2(1)ウ)に該当するとされました(最高裁平成20年11月10日決定)。

この卑わいな言動にあたる場合も、盗撮行為と同じく、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(11条1項)。

このような「卑わいな言動」を禁止する条例は、北海道だけではありません。

例えば、東京都迷惑防止条例も、「公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」を禁止しており(5条1項3号)、違反に対する処罰は、やはり盗撮と同じ、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。

電車・バス内で芸能人を盗撮する行為は罪になるのか?

迷惑防止条例において、芸能人を一般人よりも強く保護したり、逆に、芸能人の保護を一般人よりも軽くしたりする規定はありません。盗撮行為に対する罰則は、一般人も芸能人も全く同じです。

盗撮画像をネットに公開した場合の処罰についても、被害者が、一般人である場合と芸能人である場合とで、適用される条例、法律には差異はありません。

ただし、芸能人の場合は、画像から被害者が誰であるかが特定されてしまう蓋然性が高いと思われ、前述した名誉毀損罪の成立の可能性は、より高いと言えます。

女性が電車やバスの中で男性を盗撮する行為も罪になるのか?

罪になります。

迷惑防止条例は、「何人も」盗撮行為をしてはいけないと禁止しているので、格別、女性を被害者とする盗撮だけを禁止しているわけではありません。

また、児童ポルノ禁止法、刑法のわいせつ物陳列罪、わいせつ物頒布罪においても男女が区別されるわけではありません。

まとめ

ひとくちに盗撮といっても、これに適用される法律には、これまで説明したように、様々な種類があります。一つの盗撮行為が、どの法律に抵触し、どの法律には抵触しないのか。また、複数の法律に違反した場合に、どのように処理されるのか。そのように複雑な法律問題は、専門家である弁護士以外に的確に判断し、今後を見通すことは困難です。このような事件に巻き込まれた場合は、まず弁護士に相談することをお勧めします。