煽り運転をされた被害者によるドライブレコーダーの恐ろしい映像がニュースで流れているのをよく目にします。煽り運転は事故を誘発するだけでなく被害者にとって恐怖感を与える許しがたい違反行為です。ここでは、煽り運転がきっかけで事故に巻き込まれてしまったら、慰謝料や過失割合はどうなるのかなどを解説していきます。

あおり運転とは

警察庁のホームページ等においては、「相手の車に激しく接近し、もっと速く走るように挑発・妨害するような」運転が「あおり運転」に含まれるものとしています。
さらに、先行車両の運転者に対し、速度を上げさせ、あるいは自車に進路を譲らせるような威圧感を与えるなどの目的で先行車両に著しく接近したり、不必要な蛇行を繰りかえす態様の運転もあおり運転に含まれるものと考えられます。そこで、裁判例は、「先行車両に対し、不必要な威圧を与える」運転を「あおり運転」としています(秋田地方裁判所平成22年7月16日判決)。

あおり運転の態様と違法性

道路交通法上の違法性

あおり運転の定義からすると、その態様はかなり広く、あおり運転に該当するか否かは具体的な事実関係によるといわざるを得ません。ただ、警視庁が公表している通達(平成30年1月16日付発令)によるとあおり運転の例として、以下の態様を提示しています。そしてこれらの分類に加え、道路交通法上の根拠法令も列挙しておきます。

  • ①前方の自動車に激しく接近し、もっと速く走るように挑発する・・・車間距離保持義務違反(道路交通法26条)
  • ②危険防止を理由としない、不必要なブレーキをかける・・・急ブレーキ禁止違反(道路交通法24条)
  • ③後方から進行する車両等が急ブレーキや急ハンドルで回避しなければならないような進路変更を行う・・・進路変更禁止違反(道路交通法26条の2第2項)
  • ④左側から追い越す・・・追い越しの方法違反(道路交通法28条)
  • ⑤夜間、他の車両の交通を妨げる目的でハイビームを継続する・・・減光等義務違反(道路交通法52条2項)
  • ⑥執拗にクラクションを鳴らす・・・警音器使用制限違反(道路交通法54条2項)
  • ⑦車体を極めて接近させる幅寄せ行為を行う・・・安全運転義務違反(道路交通法70条)または初心者運転等保護義務違反(道路交通法71条5号の4)

民事上の違法性(不法行為該当性)

上記のようなあおり運転行為を行った場合には、当然民事上の制裁、すなわち不法行為に基づく損害賠償義務も具備することになり、当該賠償義務を課せられることになります。例えば、上記①ないし⑥の事例のうち、いくつかの事例において、裁判例では以下のとおり運転者に対し不法行為に基づく損害賠償責任を認めています。

なお、裁判例では判示していないからといって、上記各義務に違反した運転が不法行為を構成しないということはなく、基本的には道路交通法違反があり、それが、不法行為上の過失につながる場合には、当該運転を行った運転者は、不法行為上の責任を負うといわざるを得ないものといえます。

車間距離保持義務違反の事例

車間距離保持義務違反に関する裁判例において、運転車は、被害車の走行状況を認識していたにもかかわらず、被害車から離れることなく、むしろ十分な車間距離を取らずに後続していたもので、前方不注視及び車間距離保持義務の違反が認められ、その過失も重大なものといえると判示されています(平成25年7月9日名古屋地方裁判所判決)。

急ブレーキ禁止違反の事例

急ブレーキ禁止違反に関する裁判例において、運転車は、やむを得ない場合でなければ、急ブレーキをかけてはならない義務があるのに、被害車が後続していることを十分に認識しながら、必要のない急ブレーキをかけたことにより本件事故を惹起したもので、重大な過失が認められると判示されています。

進路変更禁止違反の事例

進路変更禁止違反に関する裁判例において、運転車は、本件道路の第1車線から第2車線に自車の進路を変更する際、右後方の安全確認が不十分であり、後続する被害車の進路を妨害した過失が認められると判示されています。(平成30年11月27日大阪地方裁判所判決)

安全運転義務違反の事例

安全運転義務違反が争点となった裁判例において、運転者は、前方左右を注視し、ハンドルやブレーキ等を的確に操作して安全に進行する義務があるところ、前方で車線変更しようとする被害車の動静に対する注意が不十分であったといえ、また、運転車が被害車と接触してはいないことも考慮すると、本件駐車場出口付近の縁石に接触するまでの運転車のハンドル・ブレーキ等の操作が不確実であったといえるため、上記義務に違反した過失が認められると判示しています。(平成30年11月27日大阪地方裁判所判決)

刑事上の違法性

上記のようなあおり運転は、事案によっては、暴行、傷害、脅迫、器物損壊罪の適用がある場合もあり、極めて反社会性の高い行為ということができます。

例えば、運転者は「自宅で飲酒した後、自車を酒気帯び運転する途中で、被害車両が急に割り込んできたと思い込んで激高し、刃物を示して叫ぶなどしながら、自車を蛇行運転したり、被害車両に執拗に接近させたりするなどのいわゆるあおり運転を内容とする凶器脅迫、暴行の犯行に至った」ので暴行罪等に処せられた事例があります(平成31年 4月17日福島地方裁判所判決)。

さらに、運転者が、「高速道路上で、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条4号所定の被害者運転車両の通行を妨害する目的で危険運転行為をし、さらに、走行する同車の直前に自車を停止させた行為」により、被害車両の後方を走行する車両に被害車両を衝突させ、同車の同上者を死亡させる等をしたことについて、危険運転致死傷罪等に加え、監禁等致死傷罪が成立した事例があります(平成30年12月14日横浜地方裁判所判決)。

あおり運転の証拠を集める方法

ドライブレコーダー

ドライブレコーダーの映像は、運転態様を直接動画の形で保存するもので、証拠力はかなり高いものです。例えば、あおり運転に関する刑事事件においてもその映像が証拠として採用されたものが多数あります(例えば、平成30年12月17日横浜地方裁判所判決)。
したがって、あおり運転の証拠としてはドライブレコーダーの映像が現時点では一番有力ということができます。

交差点に設置されているカメラ映像

ドライブレコーダーの映像以外の証拠として、交差点や幹線道路に防犯上のカメラが設置されている場合が多く、このカメラの映像が時として証拠となる場合があります。
これらの証拠は、刑事事件であればともかく、民事事件の証拠として収集する場合には、弁護士照会の手法による開示または文書送付嘱託等の民事訴訟法上の手法を用いないと事実上入手できないのが現状です。したがって、このような証拠を入手しようとすると、弁護士への依頼が必要となります。

あおり運転により衝突した場合の過失割合はどうなる?

加害者のあおり運転により自車が加害車両に追突する等の事象が発生しても、その原因が加害者のあおり運転以外の事由が見当たらない場合には、過失割合は加害者が100%となります。本来は追突車が100%の過失となりますが、それは、被追突車は単に停車していただけで、過失が認められないからです。

他方、あおり運転による追突で、それ以外の追突原因がない場合には、あおり運転を行った加害者の過失があると認められるので、加害車が100%の過失を負うことになります。ただし、これはあくまでも事例判断となりますので、追突について被害者に過失が観念できるような場合には、被害者にも一定の過失が認められることになりますが、あおり運転のケースでは、被害者の過失が加害者に過失を越えることはないでしょう。

煽り運転が原因で別の車にぶつかってしまった場合、過失割合や賠償責任はどうなる?

加害車のあおり運転が原因で被害車が第三者の運転車両にぶつかってしまった場合に、被害車は第三車の運転車両に対し賠償責任を負うものでしょうか。

そもそも、不法行為に基づく賠償責任を負うためには、行為者に故意または過失が必要です(民法709条)。そして、あおり運転が原因で、その他の原因なく、このような事故が発生した場合には、事故を生じさせた過失はあおり運転を行った加害車にあります。したがって、被害車は、本件のように第三者の運転車両にぶつかったとしても、過失がなく、賠償責任を負うことはありません。そして、被害車に過失が認められないことから、過失割合も観念することはできません。

他方、加害車はこのような事故を生じさせた原因を作った張本人ですので、第三者の運転車両に対する賠償責任を負うことになります。過失割合についても、この例に即すると、加害車と第三者の運転車両間で判断することになります。

あおり運転が原因の交通事故は、慰謝料が増額する?

慰謝料の増額要素として、加害者の運転態様の悪質さが考慮されていること(赤信号無視の事例で平成13年9月21日名古屋地方裁判所判決参照)及び被害者に受けた恐怖心も考慮されているところ(加害者の危険な追跡行為による被害者の恐怖心を考慮した事例で平成7年12月14日大阪地方裁判所判決参照)、あおり運転が上記のとおり極めて反社会性の高い行為であるため、おおり運転による交通事故の慰謝料も通常の交通事故の場合に比して、増額の傾向にあります。

裁判例においては、加害者にあおられた被害者がセンターラインをオーバーして対向車と衝突した態様の事故について、傷害慰謝料及び後遺傷害慰謝料を併せて約3300万円が認められた事例があります(さいたま地方裁判所平成22年9月27日判決)。

さらに、加害者があおり運転という危険かつ無謀な運転を行ったことは、加害者の安全運転に関する意思が欠如したことの現れであると評価して、慰謝料の増額事由と認定しています(前出の秋田地方裁判所判決)。

まとめ

あおり運転が悲惨な事故を巻き起こすため、行政当局、特に警視庁も、あおり運転の撲滅ために運転者に対する教育または啓発活動を進めています。
例えば、前出の通達によると、運転免許の更新時にあおり運転の悪質性・危険性に関する講習、運転時の適性検査において、安全運転の意識を自覚させる検査・指導の実施、安全運転管理者に対する講習において、交通安全に必要な知識を獲得するための講習を実施することなどを挙げることができます。

このことは、あおり運転に関する世論の厳しい目があるこということができ、今後、あおり運転による交通事故に関する慰謝料についても増額の傾向にあるということができますので、今後の裁判所の動向を注視する必要があります。

あおり運転に関する慰謝料については、法律的な判断を多く含む場合が多くあり、このような場合には法律の専門家である弁護士の助言を仰ぐことを強くお勧めします。