横断歩道上で自動車と歩行者の交通事故が起きた場合、歩行者にも責任が生じることがあるのか。横断歩道上での事故、また横断歩道上以外の自動車と歩行者の事故についても詳しく見ていきましょう。

横断歩道上の自動車と歩行者の交通事故は、すべて自動車の責任なのか?

横断歩道上で発生した歩行者と自動車との事故というと、自動車にすべての責任があると考える方が大勢いらっしゃるかと思います。

しかしながら、一口に横断歩道上の事故といっても、事故の発生状況にはいろいろなものが考えられるので、一概に歩行者には責任がないとはいえません。

事故の状況によっては、被害者の過失を考慮して賠償額が減額される(過失相殺される)ことがありますし、場合によっては歩行者の方が責任が重いと判断されることもあります。

交通事故の場合、過去の事例をもとにして、事故態様(類型)ごとに歩行者と自動車の過失割合が細かく定められていますので、代表的な事故態様の過失割合をご紹介しましょう。

様々なケースの横断歩道上の交通事故

歩行者の信号が青で、自動車の信号が赤だった場合の交通事故

歩行者は信号機の表示に従って横断歩道を渡ろうとしたのに対し、自動車が信号機の表示を無視して進行してきたわけですから、過失割合は歩行者0:自動車100、つまり自動車が全責任を負うということになります(自動車同士の事故で一方が青信号、他方が赤信号の場合も、基本的には同様に0:100になります)。

歩行者の信号が赤で、自動車の信号が青だった場合の交通事故

前項とは逆に、歩行者が信号機の表示を無視して横断歩道を横断し、信号機の表示に従って進行してきた自動車と衝突したというケースです。

この場合、信号無視という交通法規違反を犯した歩行者の方がより責任が大きいと考えられます。

では、先ほどとは逆に過失割合が歩行者100:自動車0になるかといえば、そうではありません。

自動車(車)と歩行者(人)のように、当事者間の力関係に大きな差がある場合、力の強い側がより大きな責任を負担すべきと考えられています(優者危険負担の原則といいます)。

この原則によれば、自動車には高度の注意義務が課せられることになり、青信号に従ったというだけでは全面的に責任を免れることはできません。

結論としては、この事案での過失割合は歩行者70:自動車30とされています。

歩行者の信号も自動車の信号も赤だった場合の交通事故

歩行者も自動車も対面信号が赤だった場合、前述した優者危険負担の原則から、自動車の方がより重い責任を課せられることになります。

過失割合は歩行者20:自動車80となります。

信号がない場合の交通事故

道路交通法により、自動車は、信号機のない横断歩道を通過しようとする際、その横断歩道を横断中または横断しようとしている歩行者がいるときは、一時停止して歩行者の通行を妨害しない義務を負います。

したがって、信号のない交差点の横断歩道を横断中の歩行者と自動車との事故は、自動車が上記の義務を怠ったと評価できるので、過失割合は歩行者0:自動車100になります。

横断歩道以外での歩行者と自動車の交通事故

横断歩道以外で歩行者が道を渡ろうとしたときの自動車との交通事故

横断歩道ではないところで横断しようとしたわけですから、歩行者にも一定の過失はあると言わざるを得ません。

具体的な過失割合は、周辺の道路の状況に応じて、次のようになります。

(1)横断道路付近を横断  歩行者25:自動車75

歩行者は横断歩道を横断すべきであり、自動車もそれを期待している状況といえますので、あえて横断歩道外を横断した歩行者の責任は、他の類型と比べると大きくなってしまいます。

(2)信号機、横断歩道のない交差点における横断

  •  一方が幹線道路または明らかに幅員が広く、優先関係がある場合で、幹線道路(または広路)を横断  歩行者20:自動車80
  •  優先関係がある場合で、狭路を横断  歩行者10:自動車90
  •  優先関係のない交差点  歩行者15:自動車85

(3)上記以外の通常の道路を横断  歩行者20:自動車80

歩行者が急に道に飛び出したときの事故は、歩行者にも責任はあるのか?

これまでに紹介した過失割合は、事故類型ごとの基本となる過失割合で、すべての事案でこのとおりになるわけではありません。

個別の事案ごとに、過失割合の加算要素、減算要素による修正を行って、最終的な過失割合が決められます。

歩行者が道路を横断するために突然飛び出したといった事情は、歩行者の過失の加算要素(歩行者の過失割合が5~10%大きくなる)とされています。

他方、歩行者が児童・老人であるとか、事故現場が住宅・商店街であるといった事情は、歩行者の過失の減算要素になります。

自動車側の保険会社から歩行者(被害者)の過失を主張されたらどうすればいいの?

まず、ご自身が被害に遭った事故が、これまでにご紹介したどの類型に該当するかを見極め、類型ごとの基本となる過失割を知る必要があります。

保険会社の主張が基本割合どおりであれば、自分に有利な過失の減算要素がないかを考えることになります。

また、保険会社の主張が基本割合と異なる場合、自動車側に有利に修正されている場合には、どのような修正要素があると考えているのかを確認し、事実と異なるのであれば適宜反論する必要があります。

あわせて、保険会社が見落としている(あるいはあえて触れていない)過失の減算要素がないかを検討することも必要です。

交通事故により自動車が損傷した場合、歩行者に自動車の損害賠償を求められることはあるの?

歩行者にも過失が認められる場合、理論的には、歩行者は、その過失割合に基づいて自動車側に損害賠償をしなければならないことになります。

もっとも、人対車の事故の場合、自動車側の損害は軽微な自動車の損傷についての修理費用程度のことが多く、また、被害者に過失があるといってもその割合は10~20%程度のことが多いことから、歩行者に請求できるといってもその額はかなりの少額になってしまうケースがほとんどです。

他方、歩行者は多くの場合、自動車の修理費用以上の損害を被り、自動車側はその80~90%を賠償しなければなりません。

ですから、歩行者との話し合いを円満に進めるため、軽微な損害で歩行者の過失も小さい場合には、自動車側は物損の請求はあえてしないということが多いのです。

これに対し、被害者の過失が大きい場合や、修理費用等が高額になる場合には、自動車側から過失割合に応じた損害賠償を請求される可能性があります。

もっとも、歩行中の事故ですから、歩行者が加入している任意の自動車保険を利用することはできませんので、請求しても支払いを受けられない可能性もあります。

横断歩道を渡っている歩行者にギリギリまで車を近づける行為は交通違反ではないのか?

道路交通法は、自動車は、横断歩道により前方を横断中または横断しようとしている歩行者がいる場合、横断歩道の直前で一時停止し、歩行者の進行を妨げないようにしなければならないと定めており、これに違反すると違反点数と反則金が科せられます(横断歩行者等妨害等違反といいます)。

したがって、横断歩道を渡っている歩行者にギリギリまで車を近づけた場合、横断歩道直前での停止を怠ったとみなされ、横断歩行者等妨害等に該当する可能性があります。

交通事故の被害に遭った歩行者は交通事故に強い弁護士に依頼した方がいいのか?

歩行者が事故にあった場合、可能であれば弁護士に依頼をした方がいいでしょう。

車両同士の事故の場合、基本的には双方の加入する保険会社が示談交渉を行うので、当事者自身がただちに弁護士に相談や依頼をする必要はありません。

これに対して、歩行中に事故に遭った場合、自分の加入する保険会社に示談交渉の代行を依頼することはできないため、歩行者自ら示談交渉にあたる必要があります。

保険会社は、日々、交通事故を扱っていますから、交通事故の専門家といえます。

他方、歩行者は、通常は交通事故に関する専門的な知識などなく、表現は悪いですが素人に過ぎませんので、専門家である保険会社と対等に渡り合うことは非常に難しいでしょう。

専門的な知識がないため、保険会社のいうままに不利な内容で示談に応じてしまうことも十分に考えられます。

このようなリスクを避けるためには、歩行者の側でも専門家の力を借りる方が得策といえるでしょう。

まとめ

道路を横断中の歩行者の事故について整理をしましたが、いかがでしたでしょうか。

被害者ご自身での対応には限界がありますので、交通事故の被害に遭われた方は、交通事故に詳しい弁護士への相談を検討された方がいいでしょう。