今回は外国人との交通事故トラブルについてお話します。交通事故の加害者が外国人だった場合に、慰謝料請求方法など違いはあるのか、詳しく見ていきましょう。

日本で運転するにあたり、外国人は日本の教習所で講習を受けているのか

ここでは、居住者や在住者でなく、外国から日本に来た「外国人」を対象とします。

外国人が日本に入国すると日本の法律を遵守する義務を負うことから、無許可で自動車を運転することはできません。とはいえ、短期在住の外国人に日本の自動車教習所において日本語の自動車運転免許の試験に合格しなければ、運転は一切認めないというのでは、国際化の流れに反します。

そこで、1949年に発効したジュネーブ条約で認められた国際運転免許証を取得していれば、日本の運転免許証を保持していなくとも日本国内で自動車の運転が可能となっております。そして、国際運転免許証があれば、特に日本の自動車運転教習所で講習を受講したり、試験に合格したりしなくとも運転をすることができます。したがって、外国人は日本の教習所で講習をうけてはいません。

相手方の保険会社は納得いく示談金を提示してくれるのか?

外国人が自国で任意保険に加入している場合

外国人が自国で任意保険に加入している場合であっても、その保険会社との契約で自国外の交通事故については保険金を支払わない特約がある場合や、仮に保険金を支払う場合であったとしても、自国の損害賠償基準を基礎として損害額を算定するといった特約がある場合があります。この場合には保険会社から保険金の支払を受けることができないか、又は低い水準の示談金の提案しかないことがあります。このような場合、人身傷害に関する場合には、外国人が自賠責保険に加入しているのであれば自賠責保険から支払を受けることができます。

外国人が日本で任意保険に加入している場合

外国人が日本で任意保険に加入している場合には当然、その任意保険から日本の基準に基づく損害賠償額による示談金の支払を受けることができます。

外国人相手の交通事故、示談金に相場はあるの?

本項では外国人に対し賠償する場合を前提とします。外国人といっても同じ人間なので、損害賠償については基本的には日本人と同じです。しかしながら、外国人は外国に生活の本拠がある点において日本人とは異なり、これに基づき損害賠償の算定に影響が出る場合があります。

渡航費等

外国人が交通事故により傷害を負い、治療のため本国と日本とを往来する必要性がある場合には、交通事故と相当因果関係のある損害として損害賠償の範囲に含まれることになります。例えば、カナダ在住の外国人が被害者の事案で、カナダへの帰国費用と治療のために再来日した費用の額(合計30万円)を損害として認められた例があります。

さらに、外国人が日本内で交通事故により死亡した場合に、遺体運搬費等の日本から本国に移送・輸送するための費用についても損害として認められます。例えば、2年間の雇用契約に基づき来日し、会社員として勤務していたアメリカ人の死亡事故について、棺代・遺体運搬費・荷物返送費等が認められた例があります。

将来介護費

外国人の将来介護費は、外国人が日本で余生を全うできるか不明であるので、日本人と同額の将来介護費を認めてもよいかが問題となりますが、例えば交通事故後に在留特別許可が下りているような場合であれば、将来介護費として日額8,000円が認められた例があります。

休業損害

外国人が交通事故に遭って就労ができなくなった場合、症状固定まで現実に就労の可能性があるのかについては、その外国人の有する在留許可の有無及び種別により大きく異なります。そこで、以下では場合を分けて検討していきます。

外国人が永住者等の在留資格を有している場合

「永住者」、「日本人等の配偶者」、「永住者の配偶者」、「定住者」及び「特別永住者」等(以下「永住者等」といいます。)の日本での在留活動に制限がない在留資格がある場合には、日本人と全く同じく休業損害について算定することになります。

外国人が就労可能な在留資格を有している場合

外国人が特殊技能者等の就労可能な在留資格がある者の場合には、日本において得ていた収入額を基礎として、休業期間に応じて休業損害を算定します。ただし、在留期間の定めがありますので、算定の対象期間が当該期間を超える場合には、在留期間が更新されることを証明できた場合には、更新後の在留期間を賠償の算定の基礎に含めて休業損害を算定することになります。

外国人留学生の場合

外国人が、留学生の場合には在留許可の条件として1週間に就労できる時間の上限が定められており、これを超えて就労していた場合に超えた部分を休業損害の算定の基礎に算入するかが問題となりますが、軽微な場合には超過して事情も踏まえて、事故前の実収入(超過した場合も含めた収入)を基礎として休業損害が算定されております。

短期滞在の外国人

この場合には日本で就労できませんので、仮に日本滞在に交通事故にあったとしても、本国の収入を基礎として休業損害を算定できないのではないかが問題となります。

短期滞在者は法律上日本で就労することができないという理由のみで、日本での収入は一切斟酌されないということではありません。しかし、通常短期滞在者は、本国に帰って就労することが想定されるので、本国での収入を基礎として算定することになります。反面、日本での就労の蓋然性が高いと判断される場合には、日本での収入が基礎とされることもあります。

なお、治療のために日本滞在が長期化し、この基準に沿って休業損害を算定しても滞在中の生活費を賄うことができない場合もあります。この場合には、日本滞在時の家賃や食費等については積極損害として賠償に含めるか、慰謝料の増額事由として処理されることが多いようです。

密入国等の場合(いわゆるオーバーステイの場合を含む。)

この場合も短期滞在の外国人と同じ扱いがなされておりますが、オーバーステイ事案は、一度は適法な入国許可を得て入国しているのに比して、密入国事案は全く適法な入国許可を得ていない点で、強制退去の蓋然性がオーバーステイ事案に比して高いものと見込まれます。したがって、密入国事案については、日本での収入を基礎とする期間はかなり短期間となる可能性が高いものと思われます。

通訳料

外国人が交通事故により死亡した場合、遺族が保険会社と示談交渉を行うに当たり、通訳を介して交渉を進めた場合の通訳料が損害として認められた例があります。

後遺障害による逸失利益

後遺障害による逸失利益の計算は、基礎収入×労働能力喪失期間×労働能力喪失率により算定します。外国人の場合には基礎収入×労働能力喪失期間を「いつまで」日本での収入を基礎として算定するかが問題となります。

外国人が永住者等の在留資格を有している場合

休業損害と同様に外国人が永住者等の在留資格を有している場合には、日本人と同じ労働能力喪失期間で後遺障害による逸失利益を算定することになります。

外国人が就労可能な在留資格を有している場合

この場合も休業損害と同様に考えて、その外国人の在留期間までの期間又は在留期間が更新されることを証明した場合にはその期間については、日本での収入を基礎として労働能力喪失期間を算定することになります。残りは、本国での収入を基礎として労働能力喪失期間を算定することになります。

短期滞在の外国人の場合

この場合も休業損害と同様、短期滞在者は法律上日本で就労することができないという理由のみで、日本での収入は一切斟酌されないということではありません。しかし、通常短期滞在者は、本国に帰って就労することが想定されるので、本国での収入を基礎として算定することになります。反面、日本での就労の蓋然性が高いと判断される場合には、日本での収入が基礎とされることもあります。

密入国者等の場合(オーバーステイを含む。)

基本的には休業損害とおなじです。オーバーステイの場合には短期滞在の外国人と同じで、密入航者の場合には、これよりも厳しめで判断されます。

死亡による逸失利益

この場合も、総じて、後遺障害による逸失利益と同様の考え方で処理されております。なお、裁判所の立場は、就労可能期間を重視しており、今後も日本に長期に滞在する蓋然性が高い場合には、日本における収入を基礎として休業損害や後遺障害の逸失利益が算定されることになり、一時滞在者のように今後日本に滞在する蓋然性が全くないのであれば、本国の収入で算定せざるを得ないというものです。

慰謝料

死亡慰謝料・後遺障害慰謝料について

死亡慰謝料及び後遺障害慰謝料については、基本的な考え方は休業損害と同様に考えます。なお、裁判所の立場は、被害者となった外国人の本国の物価水準・所得水準を斟酌して、これらが日本に比して格差がある場合には、日本人と同一の水準でこれらの慰謝料を認めないという傾向にあります。

通院慰謝料について

外国人でも日本人でも日本の医療機関に通院した場合には、日本人と同様の通院慰謝料が認められます。

示談金の増額交渉はできるの?

外国人が示談金の増額交渉をする場合

上記のとおり、外国人の損害賠償額は、本国の物価水準・賃金水準が日本よりも高い場合はともかくとして、そうでない場合には日本に長期に在留できる蓋然性を立証できるかによります。したがって、外国人が示談金の増額を交渉する場合には、在留更新の可能性等の長期滞在の蓋然性を証明していくことになります。ただし、外国人が被害者の場合には、相手方が自賠責保険に加入している場合であれば、自賠責保険金の支給は日本人と外国人で区別していませんので、日本人と同様に自賠責保険の支払を受けることができます。したがって、そちらで対応した方が合理的かもしれません。

外国人に対し示談金の増額交渉をする場合

一義的にはその外国人自体の資力によります。ただ、問題となるのは、外国人自体に資力がない場合ですので、外国人が任意保険会社に加入している場合には、日本人と同様に示談交渉を行うことになります。他方、外国人が任意保険会社に加入していない場合には、自賠責保険に請求をすることになります。しかし、自賠責保険にも加入していない場合には、政府保障事業における補償金を請求することになります。

なお、外国人に対し示談金の増額交渉をしていたものの、交渉が決裂した場合、日本人が相手であれば、民事訴訟を日本の裁判所に対し提起することになります。そして、外国人に対し交通事故よる損害賠償請求訴訟を提起する場合にも日本の裁判所が管轄権(どこの裁判所が審理をする権限があるか)を持ちます。そして準拠法(どこの国の法律で審理されるか)についても日本法が適用されることになります。

示談成立後にも増額交渉できるの?

示談条項には清算条項といって、示談書に記載された賠償項目以外の賠償請求はないことを相互に確認する条項を入れておくのが通常です。この条項により示談後の賠償額の増額を求めることはできなくなります。ただし、示談時には予見できないような後遺障害が生じたような特別の場合について、そのような後遺障害に対応して損害額を含めて交渉ができる余地はありますが、あくまでも例外です。

被害者だけで示談交渉するのは大変

おそらく、一番のネックは言語の問題になると思います。最近は国際化の中で英語を話すことや読み書きが出来る人が増えてきましたが、法律英語は特殊でまだまだその内容を理解し、正確に話すことや読み書きができる人は少ないといえます。したがって、外国人との交渉は法律的な意味と言語的な意味の二重の意味で困難を極めると思います。

なお、示談交渉を弁護士に委ねるかについては、言語の問題がありますので、いわゆる渉外弁護士に対し事件を依頼し処理を任せるという方向になると思います。

まとめ

以上のとおり、外国人が相手方の事件については、言語の壁と法律の壁の二重の壁があると思われます。これを本人だけで交渉・対応していくことは非常に困難であることが予想されます。ここは、法律の専門家であり、渉外事件の専門家である弁護士に対し依頼して処理を委ねることを強くお勧めします。