交通事故の被害により亡くなってしまった場合、死亡慰謝料が支払われます。慰謝料の金額は職業や年齢などで上下します。
今回は、お年寄りの方が亡くなった場合の死亡慰謝料について解説します。

高齢者の死亡慰謝料の相場はいくら?

死亡慰謝料とは、交通事故で死亡した人が、交通事故に遭ったときに受けざるを得なかった精神的苦痛を金銭で評価して加害者に賠償させる賠償額のことです。法律的には、裁判等で死亡慰謝料を請求するときには、被害者は死亡していますので、その相続人が請求するという形になるのですが、損害の主体は、あくまでも被害者自身というところに特色があります。

死亡慰謝料の具体的な金額は、いわゆる赤い本などでは、死亡慰謝料の額については、まず「一家の支柱」とそれ以外に分けて考えます。「一家の支柱」であれば2800万円となります。そして、「それ以外」を「母親・配偶者」と「その他」で区別して「母親・配偶者」であれば2400万円、「それ以外」では2000万円から2200万円とされています。

この三者のうち「一家の支柱」が一番高額なのは、生計維持的な要素があるからといわれています。そして、高齢者(おおむね65歳以上の者のことを言います)は、「一家の支柱」というよりも「母親・配偶者」又は、「その他」に該当することが多いと思われますので、死亡慰謝料は、その区分により、2000万円~2400万円のレンジで算定されることになります。

なお、上記のとおり、一家の支柱かどうか、母親・配偶者かどうかで区別されますので、年収(年金額も含む)は直接影響しませんが、世帯内の収入を比較したときには、年収の多寡は参酌されることになります。そして、上記で掲げた慰謝料の額は家族の慰謝料を含めた総額が提示されていることにご留意ください。

高齢者だと死亡慰謝料が減額されやすいって本当?

慰謝料とは、生命を侵害された人の精神的苦痛を賠償させるという性質があり、その精神的苦痛は、事案により様々です。ですから、慰謝料の額を決定するに当たっては、事案を総合的に斟酌する必要があります。

高齢者(上記のとおり、おおむね65歳以上の者をいいます。)は子供や若者に比べて、既に人生を享受している度合いが大きいので、慰謝料水準を低くすべきという考えもありえますが、高齢者というだけで、慰謝料が減額されるということになると、先の事案を総合的に判断するという慰謝料の判断姿勢と整合が取れなくなる可能性がありますので、高齢者であるからといって、直ちに死亡慰謝料が減額されるという立場を現在の実務は採用していません。

死亡慰謝料を増額させることはできる?

慰謝料の額は、事案を総合的に判断して算定される性質がありますが、これまでの裁判例の傾向からすると、慰謝料の増額事由は一定の類型化がなされております。

まず、加害者の態度です。
すなわち、加害者が故意又は無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらの信号無視、薬物などの影響で正常な運転ができない状態で交通事故を引き起こした場合、交通事故を引き起こした後の刑事裁判や示談交渉で不誠実な態度で臨んだ場合です。このような場合には、被害者の心情に配慮して、慰謝料が増額される傾向にあります。

例えば、死亡した被害者が69歳の年金生活者の事例では、加害者が著しい前方不注視で交通事故を惹起した上、現場から逃走し、さらにナンバープレートを投棄するなどの証拠隠滅行為を行いました。さらに刑事裁判で実刑判決を受け服役し出所したにもかかわらず、損害賠償に応じる姿勢を見せなかったという事実が裁判で認定され、2900万円の慰謝料が認定されました。

次に、交通事故により被害者が死亡したため、被害者の家族に精神的な打撃が加わり、当該家族が精神疾患に罹患した場合です。この場合には被害者の家族に精神疾患という苦痛を与えたことにより、慰謝料の増額事由となります。 例えば、長女とサイクリング中に死亡した被害者が79歳の年金生活者の事例では、サイクリング中に死亡事故に遭遇した当該長女が不眠症等の精神疾患が発症したことを裁判で認定され、2400万円の慰謝料が認定されました。

まとめ

以上のとおり、高齢者の死亡慰謝料を算定するために、事案の総合的な評価が必要であり、そのためには、訴訟及び法律の専門家である弁護士の助言なくしては、その評価は困難と思われます。したがって、具体的事例を検討するにあたっては、弁護士の助言を受けることを強くお勧めします。