交通事故は1対1で起きるとは限りません。暴走した車が歩道に乗り上げて複数の被害者を出すこともあれば、複数の車に当て逃げされるなどで加害者が複数名いることもあります。今回は、加害者が複数いる場合について見ていきたいと思います。

加害者が複数の交通事故ってどんな事故?

加害者が複数の事故の例としては、

  • ・車道と歩道の区別のない道路を歩行している歩行者が、2台の車に連続して轢かれた場合
  • ・2台の車が衝突し、その衝撃で一方が歩道に乗り上げて歩行者を轢いた場合
  • ・タクシーに乗車中、タクシーが他の車両と衝突し、乗客が負傷した場合
  • ・車両を運転することを知っていながら運転者に酒を提供し、運転者が事故を起こした場合
  • ・無免許であることを知りながら運転者に車を貸し、運転者が事故を起こした場合
  • ・交通事故に遭い、病院で治療を受けたところ、医師の医療ミスによって症状が悪化した場合

などが考えられます。

このように、加害者が複数存在する場合を、「共同不法行為」といいます。

加害者が複数いる場合、誰に対して損害賠償を請求できるの?

加害者が複数存在する共同不法行為の場合、被害者は誰に対して損害賠償請求できるのか、 仮に複数の加害者に対して請求できるとすれば、それぞれにいくら請求できるのか、といった問題があります。

加害者が複数いる場合、損害賠償の請求額はどうなるの?

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えた場合、連帯して被害者の損害を賠償する義務を負うとされています(民法719条1項前段)。また、共同の行為者の誰が損害を加えたか明らかでないときも同様とされています(同項後段)。したがって、被害者は、それぞれの加害者に対し、全額の賠償を請求することができます。事故の発生に関する共同不法行為者間の過失割合にかかわらず、全額の賠償を請求することができるという点が重要です。

ですから、上の「加害者が複数の事故の例」で紹介した

  • ・車道と歩道の区別のない道路を歩行している歩行者が、2台の車に連続して轢かれた場合
  • ・2台の車が衝突し、その衝撃で一方が歩道に乗り上げて歩行者を轢いた場合

の2つの事例でいえば、被害者はどちらのケースも2台の車両の運転者に対して全額の損害賠償請求をすることが可能であり、下の例で直接歩行者を轢いていない車両の運転者も責任を免れることはできません。

ここでいう「連帯して」義務を負うというのは、加害者のうちの一部の者が被害者に対して全損害を賠償したときは、すべての加害者が被害者に対して賠償する責任を免れるということです。加害者が1人か複数かで被害者の受ける損害が変わるわけではないので、被害者は誰か1人からでも全額の賠償を受けた場合にはそれで満足すべきとされているのです。

共同不法行為者の1人が自己の負担部分を超えて被害者に支払いをした場合には、他の共同不法行為者に対し、その部分の支払いを請求することができます。

これを求償といいます。

例えば、被害者の損害が総額100万円で、共同不法行為者AとBの過失割合が70:30であった場合について、Aが被害者に100万円を支払ったとすると、AはBに対し、Aの責任割合を超えて支払った30万円の求償を請求することができます。

なお、被害者にも過失が認められる場合に、どのように過失相殺するかという問題があります。

この点について、最高裁は、「複数の加害者の過失と被疑者の過失が一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為責任に基づく賠償責任を負う」と判断しています。

たとえば、事故の原因となった過失について、被害者2割、A車3割、B車5割と絶対的過失割合が認定できたとすると、被害者は、自己の過失割合2割を減額した全損害額の8割を、A、Bそれぞれに請求することができるということになります。

複数の車に轢かれて死亡してしまったら、請求額はどうなるの?

上の「加害者が複数いる場合、誰に対して損害賠償を請求できるの?」で紹介したとおり、共同不法行為が成立する場合には、加害者全員に全損害の賠償を請求することができます。

したがって、被害者が複数の車に連続して轢かれて死亡した場合、被害者の相続人は、加害者全員に死亡による損害の賠償を請求することができます。

このことは、被害者が車Aに轢かれた時点ではまだ生存しており、続いて車Bに轢かれて死亡した場合でも変わりありません。

他方、被害者が車Aに轢かれた時点で死亡しており、その後に車Bがさらに轢いたような場合には、被害者の損害は車Aに轢かれた死亡時点で確定しており、車Bは被害者の遺体を轢いたにすぎないので、論理的には共同不法行為が成立しないと考えることができるでしょう。

もっとも、連続で轢かれた場合に死亡の時期を特定するのは一般的には非常に困難で、死亡時期の特定ができない場合には共同不法行為として扱われることになるでしょう。

加害者のうち1名が死亡している場合、請求額はどうなるの?

不法行為に基づく損害賠償債務(加害者が被害者に対して損害賠償請求をする義務)も相続の対象となります。 したがって、AとBが共同不法行為により被害者に損害を加え、かつAが死亡している場合には、被害者は、B及びAの相続人に対し、損害賠償請求をすることになります。

なお、相続人は相続放棄をすることができますので、加害者の積極財産が損害賠償義務を含めた積極財産を下回る場合には、相続人が相続放棄をする可能性があります。

この場合には、被害者は、Bに請求するしかなくなります。

加害者のうちの1人が逃げた!ほかの加害者にその分も請求できる?

これまで紹介してきたとおり、被害者は基本的に加害者の全員に対して全額の賠償を請求することができます。被害者に過失がある場合でも、絶対的過失割合が認定できるときは、被害者の過失割合を減額した額を、加害者の全員に請求することができます。

したがって、加害者のうちの一人が逃げてしまったとしても、被害者が請求することのできる額に変わりはありません。

他方、加害者の間では、求償が事実上困難になるという問題があります。

加害者のうち1人に支払い能力がない…ほかの加害者にその分も請求できる?

加害者の一人が逃げた等の場合と同様、被害者は加害者の全員に対して全額(または被害者の過失割合を減額した額)を請求することができるので、被害者が請求することのできる額に変わりはありません。

したがって、加害者のうちの1人に支払い能力がないとしても、他の加害者に支払い能力があれば、被害者は全額(または過失相殺で減額された額)を回収することができます。

なお、求償が困難になるというのも加害者の一人が逃げた等の場合と同様です。

まとめ

共同不法行為について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

共同不法行為には、今回ご紹介した以外にも難しい問題が多くあります(たとえば、絶対的過失割合をどうやって認定するか、絶対的過失割合が認定できない事案ではどうやって過失相殺するのかなど)。

ですから、共同不法行為の事案でお悩みの方は、早めに交通事故に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。