フランス人との結婚について、考えてみたいと思います。国際結婚のなかでも、フランス人の結婚観は、日本人の結婚観と大きく異なります。フランス人との結婚を考えている方は、まず、その違いを認識したうえで、検討すべきだと思います。

フランス人と日本人が結婚する場合、女性が日本人であることが圧倒的に多いので、日本人配偶者が女性である場合を主に説明します。

日本とフランスの結婚観はまるで違う

日本では、よく「お嫁に行く」「嫁ぐ」ということが言われますが、フランスには全くそれがありません。1960年以前はそういった概念が存在していたようですが、フェミニズムの台頭があり、個人主義なので、現代フランス人には皆無といっていいと思います。

フランス民法典第143条にはこのように規定されています。「結婚は、異性または同性によって、契約が交わされることである。」(*現在、フランスではPACSだけでなく同性結婚もみとめられています。)

フランスでは、結婚は、契約の一様態です。当然、契約の成立があれば、契約の解消もあります。個人と個人の契約であり、家同志の結婚という考えはありません。フランス人は、がまんや忍耐というものが皆無です。少しでも嫌なことがあったりすると、「愛がなくなった」という理由で速攻離婚を裁判所に申し立てます。

そのためか、フランス人同志だとそもそも結婚をせず、同棲するカップルが非常に多いのです。「小学校のとき、クラスメイトの自分以外の生徒全員の親が離婚していた。なぜ、自分の両親は結婚していなかったかというと、自分の両親は結婚していなかった」という、しゃれにならない実話があります。母親がトルコ人で、自分がフランス人として生まれたため、滞在許可が自動的におりるので、フランス在留のために結婚する必要がなかったのだそうです。

結婚はフランス、日本、どちらでするか?

フランスには、戸籍はありませんから、入籍だけの結婚ということはありません。フランスで挙式をする場合、あくまでも契約ですから、市役所で契約書に署名することになります。これは「市民結婚式」と呼ばれるものです。調印式として一種の儀式ではありますが、手続きにすぎません。無料です。市民結婚式は、さまざまで、ジーンズのような普段着で二人だけでやってきて式をする人もいれば、親族や友人の大勢が見守るなか、ウエディングドレスとタキシード姿で式に臨む人もいます。たいていの市役所は豪華な昔の建物の中の広間が結婚調印の会場に使われていて、役場の助役さんが立会人で執り行われます。教会で誓いの儀式をしたいカップルは、教会へ申し込んで、「宗教結婚式」をします。教会にお金を収めますのでこちらは有料です。そのあと、郊外の公民館やレストランを借り切って、一晩中パーティーをしたりします。

フランスで結婚する場合、さまざまな書類を用意しなければならず、すべて翻訳が必要となります。アポスティーユといって、外務省に書類を提出して承認の紙をもらってこなければならない書類もあります。そして、日本の入籍のように、いつでもいいわけではなく、すべて書類がそろったら、市民課にいって、市民結婚式のアポイントをとらなければなりません。日曜日に式は行われないので、土曜日に予約が集中します。場合によっては提出してから、2.3か月先という場合もあります。とにかく、日本から書類をすべてとりよせ、大使館や各地域の控訴院指定の法定翻訳士に法定翻訳を依頼し、提出しなければならず、とかく面倒です。結婚は、契約の一様態であるということを痛感します。 どこで結婚式をするかどうかで大事な問題のひとつは、財産上の問題です。

異なる法定財産制

日本では、夫婦の財産関係は法定財産制と財産契約制の2つがありますが、特に何も契約を交わしたりするのでなければ、法定財産制です。日本のほとんどの夫婦は、法定財産制だと思います。

日本の法定財産制は、夫婦別財産制(民法第762条)ですから、婚姻中、自己の名で得た財産は、すべて自分のものです。夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は夫婦二人の共有となります。この方式であれば、専業主婦は自分名義の収入がないので、財産はない、となってしまいますが、民法第768条の離婚の際の財産分与や、配偶者の相続権(民法第890条、第900条、第904条の2)により、配偶者の相続権(民法第890条、第900条、904条の2)により、不平等が生じないようになっています。

フランスの法定財産制は、夫婦共有財産制です。(フランス民法典第1390条)こちらのほうが一見平等に見えますが、そうともいえません。フランスでは「専業主婦」という身分はありません。託児所などの施設も日本と比べて充実していますので、女性だから、子供がいるから、働かなくていい、ということにはなりません。また、日本のような、正社員、パート、バイトという身分はありません。夫が稼いで、妻は家を守るといったことがありません。二人とも働くことが当たり前ですから、専業主婦は肩身の狭い思いをすることになります。 学歴も低い人であれば、夫婦で働いて、生活するのがやっとです。あくまでも男女平等ですから、奥さんが稼いで、旦那はヒモであっても、後ろ指をさされるということもありません。

もし離婚になったら…

離婚する場合は、夫婦の財産は、共有ですから、平等に分けられます。例えば、結婚を機にフランスに移り住み、日本からの貯金をもっていって二人の共有名義の銀行口座にいれれば、婚姻中の夫婦共有財産ということになり、貯金を食いつぶされることになっても、共有ですから、文句は言えないわけです。資力のある日本の両親が、かわいい娘のため、孫のために仕送りをするケースもあります。フランス人同志でも、男の側は、失業中に離婚を申し立てる人がとても多いのは、夫婦共有財産制の場合、相手方にあげる財産が最小限で済むからです。

このように考えていくと、日本で入籍して、つまり、結婚した場所を日本にして、夫婦別財産制にしておく方が無難です。あるいは、フランスで挙式しなければならないのであれば、公証人に頼んで、結婚前に、夫婦別財産制の契約書を作ったほうがいいと思います。

お金はないけど、ウエディングドレスを着て挙式してみたいというのであれば、入籍したあと、フランスの教会にもうしこんで、宗教結婚式をするのもいいと思います。日本で式をして披露宴などをするよりも、安く済みます。

結婚は愛の形ではなく、契約の形である

「愛があれば幸せ」「ずっと一緒にいたい」という気持ちは、人間にとってとても大切なことだと思います。しかしながら、フランスでは、結婚は、そのための手段とはなりません。契約である以上、調印前に、できるだけ自分の有利な契約内容にするべきです。それは、相手に対して愛がないとか、信頼していないということではありません。お互い信頼できるために、きちんとした契約書を交わすのです。

フランスにおける結婚はあくまでも契約ですから、何事も双方の平等が前提です。

男性のかたは眉をひそめるかもしれませんが、フランス人男性と結婚する場合、日本感覚で「嫁に行く」という観念を捨てきれないのであれば、男性が超エリートで、離婚しても財産半分もらって、生活に困らないような人か、あるいは、自分に確固たる仕事があって、旦那さんを養ってもいい、くらいの覚悟で、結婚相手を選択するほうがいいと思います。

もし、フランスで住みたいというのであれば、PACSも選択肢のひとつです。PACSという制度は日本にはありませんので、分かれても戸籍上はバツイチになりませんし、手続きが簡単です。

結婚を考えるのに、離婚を想定するのはいかがなものか、と思われる人もいるかもしれませんが、結婚という契約を継続するために、どうすれば離婚を回避できるのかという視点で考えてください。繰り返しますが、フランス人にとって、結婚は単なる契約ですから、離婚なんて賃貸契約の解除や車の買い替えと同じです。愛があれば、すぐ一緒に暮らそう、そうしたら、やがて結婚ということになりますが、少しでも嫌なことがあればがまんなどせず、家を出ていくと同時にすぐに離婚を裁判所に申し立てます。自分勝手と思われるかもしれませんが、彼らにとっては自分の意思を主張することは権利であると思っています。そういう生き物なのです。この差をどれだけ受け入れるのか、自分はどうするのか、自分自身で考えて決めなければなりません。

まとめ

フランスでは、意思や自律を重んじます。察するという文化がないので、常に「あなたはどうしたいのか」ということを聞かれます。常に自分の意思を自覚し明らかにしなければならないというのが日常です。結婚にかぎらず、日本のように、世間体や親の意見に縛られることはありませんが、かわりに、なんでも自分で選んで決めて行動しなければ何事も動きません。

フランスと日本では、言葉や文化のちがいがありますが、社会のしくみや法律も異なっています。それらを十分理解したうえで、自分にとって最善の決定をしたいものです。

もし離婚になったとしたら、お互いが感情的にもなりますし、手続きを進めることは余計に難しくなるでしょう。自分一人で適切に対応することは難しいので、フランス人との離婚をお考えの方は、まずは弁護士に相談をしてみましょう。