配偶者に不倫されたとき、不倫相手に制裁を加えたいと思う人は少なくないでしょう。でも、感情的に行動すると名誉棄損などの犯罪となる可能性があります。

名誉毀損とは

そもそも、名誉毀損とはどのような行為を言うのでしょうか?

名誉毀損とは、公然と事実を摘示することによって、人の社会的評価を低下させる行為です。

要件としては

「公然と」

「事実の摘示」

「人の」

「社会的評価を低下させる」

ことが必要です。

まず、「公然と」、というのは、不特定多数の人が知りうる状況におくことです。会社の人に不倫の事実を告げると、その人から他の人へと広がっていく可能性があるので、「公然と」の要件を満たします。

「事実の摘示」というのは、「事実」を示す、という意味合いです。「不倫をしている」というのは「事実」なので、これを人に告げたら「事実の摘示」の要件を満たします。

「人の」というのは、広く自分以外の他者のことです。そこで、配偶者やその不倫相手についての情報を広めた場合には、「人の」の要件を満たします。

さらに「社会的評価を低下させる」内容であることも必要です。不倫の事実は、一般的に社会的評価を低下させる内容なので、これを広めると「社会的評価を低下させる」の要件を満たします。

また、こうして名誉毀損が成立する場合、民事上の責任と刑事上の名誉毀損が発生します。民事上の責任とは、相手に賠償金を支払うべき責任であり、刑事上の責任とは、逮捕されたり刑罰を科されたりする責任のことです。

不倫していることを会社に暴露すると名誉毀損になる?

第三者が言いふらした場合

不倫していることを会社の人にばらすケースとしては、いろいろなパターンが考えられます。

まずは、社内不倫を知った第三者(同僚など)が「AとBが不倫しているのを見た」「AとBは不倫関係だ」などと言いふらした場合に名誉毀損が成立するのかを見てみましょう。

この場合も、上記で説明した要件にあてはめて検討します。

まず、会社内の人に事実を告げることは「公然と」と言えますし、同僚関係にある場合には互いに他人なので、「人の」という要件も満たします。不倫している、というのは事実なので「事実の摘示」の要件も満たしますし、「不倫している」という事実は「人の社会的評価を低下させる」ものです。

そこで、この場合には、不倫を言いふらした同僚に、名誉毀損が成立してしまう可能性があります。

そうなったら、同僚は、言いふらされた人(AさんとBさん)に対して慰謝料を支払わないといけなくなったり、50万円以下の罰金刑や3年以下の禁固刑、懲役刑が科されたりするおそれがあります。

妻がバラした場合

次に、夫に不倫された妻が夫の会社の人に夫の不倫をばらした場合を見てみましょう。

この場合、夫の会社の人に事実を告げると、それを聞いた人から情報が広がる可能性があるので「公然と」の要件を満たします。また、名誉毀損の対象は家族も含むので、夫の不倫であっても「人の」という要件を満たします。

さらに、不倫は「社会的評価を低下させる」ものですし、「不倫している」ということは「事実を摘示」することになります。

そこで、妻が夫の不倫を会社の人に告げた場合にも、やはり名誉毀損が成立してしまいます。この場合、妻が夫や不倫相手に対して慰謝料を支払わなければならなくなったり、夫や不倫相手が刑事告訴した場合には、刑罰を受けることになったりする可能性があります。

これは、夫と不倫相手や自分が、どこの会社に勤務していても同じことです。

3人が全員同じ会社に勤務しているとき、妻が会社の同僚に事実をばらしても名誉毀損となりますし、夫と配偶者が同じ会社で妻が専業主婦の場合でもやはり名誉毀損が成立します。

夫と妻が同じ会社で不倫相手が別の会社であってもやはり同じことですし、不倫相手が無職でも同じです。

このように、名誉毀損はかなり幅広い事案で成立する可能性があります。

配偶者が不倫をして腹が立ったとしても、やみくもにその事実を触れ回ると、逆に自分が加害者扱いになってしまうおそれがあるので、くれぐれもそのようなことのないよう注意深く行動すべきです。

その他名誉毀損になる行動

会社で配偶者の不倫をばらす以外にも、名誉毀損となる可能性がある行動があります。

まず、会社の周辺や家の近所などに、「〇〇と〇〇は不倫している」などと書いたビラなどをばらまくと、それは名誉毀損になります。不倫相手の住んでいるマンションや自宅マンションの集合ポストなどにビラを入れた場合も同じです。

行きつけのお店などの掲示板に貼り付けてきた場合にも名誉毀損になりますし、インターネットのSNSや掲示板上に「夫と〇〇が不倫している」などと記載した場合にも名誉毀損になる可能性が高いです。

これらのビラやネット上の記事投稿をする場合、どの程度の記載をすると名誉毀損になるのかが問題です。

名誉毀損が成立するには、相手を特定することが必要です。いかに社会的評価を低下させる事実が記載されていても、誰のことを言っているのかがわからなければ、名誉毀損にはならないからです。

この場合、必ずしも相手の氏名まで明らかにする必要はありません。全体的に評価をして、相手が特定できれば足ります。たとえば、「〇〇社の〇〇課の課長」と言えば、通常誰のことかは特定されます。イニシャルであっても、「〇〇町の〇〇あたりに済んでいるA.M氏」などと書けば、相手が特定できてしまうこともあります。

その人に近しい関係にある人が、「あの人のことではないか?」と推測できる程度になっていたら、相手の特定ができていることになってしまうので、「匿名だから大丈夫」などと安易にとらえないことが必要です。

不倫していることをバラしたときの法的責任とは?

次に、配偶者などが不倫していることをバラして名誉毀損が成立したら、どのような責任を負うことになるのか、説明します。

これについては、民事上の責任と刑事上の責任を負うことになります。

まず、名誉毀損行為は民事上の不法行為となるので(民法709条)、相手に対して損害賠償責任が発生します。この場合の相手は、配偶者だけではなく不倫相手も含まれます。そこで、不倫をばらして名誉毀損が成立したら、本来自分が被害者であるにも関わらず、反対に相手に賠償金(慰謝料)を支払わないといけないことになって大変不合理な目に遭います。

次に、刑事上の責任が発生します。名誉毀損は刑法によって罰される犯罪行為だからです(刑法230条)。名誉毀損は親告罪なので、刑罰が適用されるためには、相手による刑事告訴の手続きが必要です。配偶者か不倫相手のどちらかが刑事告訴したら、刑罰が科される可能性があり、科される刑罰は3年以下の懲役または禁固刑、50万円以下の罰金刑なので、かなり重くなっています。

さらに、社会的にも制裁を受ける可能性があります。配偶者の不倫を周囲にばらした場合、自分としては相手に対する嫌がらせのつもりで暴露したものであっても、周囲からしてみると単なるゴシップと捉えられて、被害者である自分もおもしろ半分に扱われたり、揶揄されてネット上に投稿されたりして、自分の社会的評価まで低下してしまうおそれがあります。

このように、考え無しに不倫の事実を触れ回ると、いろいろな責任やリスクが発生するので、くれぐれも慎重に対応することが必要です。

不倫の証拠なしにバラした場合でも名誉棄損になる?

証拠もなく暴露した場合でも名誉棄損になるか

名誉毀損が問題になる場合、証拠があるかないかで違いがあるのか?という疑問を持つ方もいるでしょう。

結論として、不倫の証拠がなくても名誉毀損は成立します。

名誉毀損の成立要件は、当初に述べたとおりであり、「公然と」「事実を摘示することにより」「人の」「社会的評価を低下させる」ことです。ここで、内容が真実であるかどうかや、証拠があるかどうかは問題になっていません。

そこで、提示した内容が真実であっても虚偽であっても名誉毀損が成立しますし、証拠があってもなくても名誉毀損が成立します。

名誉毀損の対象が政治家などの公的な人である場合には、別の取扱がなされる可能性がありますが、一般人相手の不倫については、証拠の有無が影響を与えることはありません。

「本当のことだから」とか「はっきり証拠を握っているから」と言って、名誉毀損を免れることはできないので、注意しましょう。

浮気の証拠は慰謝料請求の際に使いましょう

名誉毀損罪と侮辱罪の違いについて

刑法上の問題ですが、名誉毀損罪とよく似た犯罪類型に侮辱罪があります。侮辱罪とは、公然と、事実を摘示せずに人を罵倒することです。

名誉毀損との違いは、「事実を摘示」するかどうかという点です。

事実を摘示することによって人の社会的評価を低下させる場合には名誉毀損ですし、事実の摘示以外の罵倒などの方法で人を侮辱した場合には侮辱罪となります。

また、侮辱罪は名誉毀損罪よりも刑罰が軽いです。

名誉毀損の場合には、3年以下の懲役刑、禁固刑または50万円以下の罰金であるのに対し、侮辱罪の場合には単なる拘留または科料とされています(刑法231条)。侮辱罪の法定刑は、刑法の中で最も軽いものです。

侮辱罪にあたる例

侮辱罪の具体的な事例を確認しましょう。これについては、公然と人を侮辱する場合です。

たとえば、会社内において、他の人がいる前で、相手に対し「馬鹿野郎、最低!」「淫乱!」などと言って罵倒した場合、それは「事実」ではないので「侮辱罪」になります。

「ぶさいく」「デブ」などと言ったり、近所中に聞こえる大声で「ごまかし男!」などと言ったりした場合などにも侮辱罪が成立する可能性があります。

これに対し、「不倫している」「仕事で大失敗して会社に損害を与えた」「私生児だ」などと言いふらした場合には、内容が「事実」なので、名誉毀損が成立します。

「夫と別れないと不倫していることを会社にばらす」は何罪?

配偶者が不倫しているとき、配偶者も憎いですが、不倫相手はさらに憎いものです。配偶者との婚姻を継続したい場合には、何としても不倫相手に別れてほしいと考えることがあるでしょう。

このような場合に、不倫相手に対し「夫と別れないと不倫していることをばらす」と言いたくなることがありますが、このような行為に問題がないのでしょうか?

実は、このようなことを言うと、脅迫罪が成立するおそれがあります。

脅迫罪が成立するためには、人の生命や身体、財産や名誉、自由などについて害悪を告げる行為なので、上記のように不倫をばらすことは、名誉に対する害悪に該当して脅迫行為になってしまうからです。

また、「慰謝料を支払わないと会社に不倫をばらす」と言って、相手に金銭請求をした場合には、恐喝罪や恐喝未遂罪が成立してしまうおそれもあります。

このように、不倫を会社にばらす行為は、それ自体も違法ですし、それを盾にとって相手を脅すことも違法なので、そのような行為をしないようにきちんと感情を制御することが大切です。

まとめ

以上のように、配偶者に不倫された場合、感情的になって嫌がらせをしたくなることは多いですが、実際に会社にばらしたり、会社にばらすぞ、などと言って相手を脅したりすると、名誉毀損罪や脅迫罪、恐喝罪などの刑事犯罪が成立してしまうおそれがあります。

相手を単純に侮辱した場合でも、侮辱罪が成立してしまう可能性があります。

名誉毀損や侮辱罪が成立する場合には、民事上も責任が発生して、自分が不倫の被害者であっても相手に対して損害賠償責任を負ってしまう可能性があり、慰謝料を支払わなければなりません。

そのようなことになったら、到底納得できないことでしょう。

配偶者に不倫されたら、ショックを受けて感情的に行動しがちですが、まずは感情を抑えて冷静に対応することが重要です。自分一人で適切に対応することは難しいので、弁護士などの専門家の助けを借りて、法的に正しい方法で適切に対処していくようにしましょう。