世の中には、育児を全くしない夫がいるようです。2人の子供なのだから、専業主婦か共働きかを問わず協力してほしい、というのが妻側の意見です。夫が何もしてくれないなら、夫の面倒を見なくていい分離婚したほうが楽かも…と考える人もいるようですが、育児をしないことを理由に離婚できるのでしょうか?今回は育児に協力的ではない夫との離婚について解説します。

育児が大変なのに夫が理解してくれない…離婚できる?

結論から言いますと、夫が育児に非協力というだけでは、ただちに離婚原因とはなりえません。
「夫が育児を手伝ってくれない」という理由では、離婚することはできないのです。

日本で離婚する際の方法は3つあります。
それは、協議離婚と調停離婚と判決離婚になります。
このうち、協議離婚と調停離婚は、夫婦の話し合いによって離婚が決まるものになります。

ですので、夫婦間で話し合いが成立し、お互いに合意できるのであれば、どのような理由であろうと離婚はできます。
ですが、お互いに話し合いがまとまらなければ、最終的には裁判所に離婚を訴えることになります。

裁判所が離婚を命じる判決を出すのが判決離婚となります。
判決離婚は、民法が定めている離婚原因が存在するかどうかを審理し、存在すると判断すれば、裁判所は離婚の判決を出します。
ですので、育児が大変で夫が理解してくれない、という理由が離婚原因となりえるのかどうかというのがポイントになります。

民法が定める離婚原因の一つに「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」というものがあります。
ですので、もし育児が大変なのに夫が理解してくれないことが継続し、そのことによって夫婦仲が婚姻を継続し難い重大な事由に該当するような状況に陥ってしまっているようなときは、離婚原因となりえます。

たとえば、夫が育児をしないことを原因として、そのことにより家庭環境が悪化し、すでに婚姻関係が破綻しているような状態で、一緒に暮らすのがもはや困難になっているなどの状態であれば、判決離婚で離婚が認められる可能性があります。

育児やってるっていうけど遊んでいるだけ…育児として認めなければいけないの?

育児に協力的にみえる夫でも、妻側からみれば、育児のうち楽しい部分だけを手伝っていると思えてしまう場面は多くあるようです。たとえば、育児でも大変な寝かしつけや食事、あるいはおむつかえ等は一切せずに、遊びなどの楽しい部分だけやっているという夫は多くいるようです。妻側からすると、こういった楽しい部分だけ手伝ってもらっても、それを育児と認めることはできないという意見もあります。

もちろん、育児は楽しい部分もありますし、大変な部分もあります。これらすべてを含めて育児となるのは当然です。
夫が楽しい部分だけを手伝っている場合、妻側としては大変な部分を理解してくれない夫にイライラが募るという気持ちもあるでしょう。

ですが、すべてを否定してしまうと、お互いに険悪になっていくばかりです。本心ではなくても、上手にほめることで、少しでも育児に参加してもらうようにしましょう。

家事育児は女の仕事だと言われた。離婚できる?

夫から「家事育児は女の仕事だ」と言われたとき、離婚できるのでしょうか。

協議離婚や調停離婚で離婚する場合は、結局は話し合いでお互いに離婚に合意できるかで決まります。
ですので、お互いに合意できるのであれば、どのような理由でも離婚することは可能です。
ある一つの言葉に傷ついたとき、それを理由に離婚を申し出たとして、相手がそれに了承するのであれば、離婚することはできます。

ですが、話し合いがまとまらず、調停をしても離婚が成立しない場合、最終的には裁判所に離婚を訴えることになります。
このとき、ただ「家事育児は女の仕事だ」と言われたという理由のみでは、離婚することはできません。
判決離婚では、民法が定めるという離婚原因が生じていることが必要だからです。

では、どのようなときに離婚できるのでしょうか。
民法では、夫婦間の義務として「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めています。
夫婦はお互いに協力する必要がありますし、扶助する必要もあるのです。
まったく育児に協力せず、そのことが協力する姿勢も扶助する姿勢も見せないときは、民法の義務違反である「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。
もし、夫の行為が「悪意の遺棄」に該当する場合、これは民法の離婚原因に該当しますので、離婚が認められます。

ただし、「悪意の遺棄」が認められるかは、夫婦が共働きなのか、それとも専業主婦なのかによってその解釈は変わってきます。
専業主婦の場合は、家事や育児は専業主婦の分担で、夫が仕事をして収入を得る部分を分担しているとみなされてしまう可能性があり、「悪意の遺棄」と認められる可能性はより低くなるのです。

また、育児に協力的でないばかりか、常に暴言を浴びせられる毎日が続くこともあります。

「赤ちゃんなんて寝ているだけなのに、何が大変なんだ」と言われる。
育児で手一杯なのに「家のことがまったくできていない」と責められる。

こういった言動を毎日浴びせられ、精神的に苦痛を感じている場合、これらの言動がモラハラに該当する可能性があります。
また、そこに暴力が加わるとDVとなります。
モラハラやDVは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、離婚原因となりますので、判決離婚でも離婚することができます。

育児をしないことを理由に離婚したら、離婚事由は何になる?

育児をしないことを理由に離婚する場合、該当すると考えられる離婚事由は、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」と「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の2つが該当します。
民法が定める離婚できる事由は次の5つです。

  • 1.配偶者に不貞な行為があったとき。
  • 2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  • 3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
  • 4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
  • 5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

もちろん、単純に育児放棄が上の2つの離婚事由に該当するというわけではなく、どのような状況になっているのか、どのような状態に追い込まれているのか、それぞれの具体的なケースに応じて個別に判断されることになります。
ですので、もし離婚を考えているのであれば、夫の行為が離婚事由に該当するということを証明する必要があり、常日頃から証明できる証拠をきちんと集めていくようにしましょう。

まとめ

「夫が育児をしない」という問題は、おそらく最も多い妻側の意見だと思います。
でも、ただ夫が育児をしないというだけの理由では離婚をすることはできません。
また、協議離婚で育児をしない夫と離婚できたとしても、それを理由に慰謝料を請求することはできません。
夫が育児に参加しないことにより悪意の遺棄に該当するか、あるいは婚姻を継続し難い重大な事由に該当することによって、はじめて離婚が可能となるのです。

ですが、夫の行為が離婚事由に該当するためにはたくさんの証拠を集め証明をしていく必要があります。
そのような証拠には何が必要なのか、どういうことを証明すれば有利になるのかなど、専門家であるプロに任せることで離婚自体を有利に進めることができます。
また、様々な事例を見てきている専門家だからこそ、多角的な視点からアドバイスすることも可能です。
もし、育児をしない夫との離婚を考えているのであれば、専門家である弁護士に相談するようにしましょう。