お寺のお坊さん、僧侶との離婚の場合、どのようなことに気をつけなければいけないのか、詳しく見ていきましょう。

僧侶との離婚での財産分与

離婚での財産分与

僧侶というと、離婚問題とは縁がないようなイメージもありますが、僧侶であっても結婚もしますし離婚することもあります。僧侶が離婚する場合、周囲に似たような事例が少ないので、どのように手続きをすれば良いのかがわからなくなってしまうケースが多いです。

そこで、今回は僧侶が離婚する場合や僧侶と離婚する場合の注意点を確認しましょう。一般的に、離婚をする場合には財産分与や養育費などの金銭的な問題が発生します。僧侶が離婚の当時者になる場合も同じで、金銭的な問題を避けることはできません。まずは財産分与の問題を見てみましょう。

財産分与とは、夫婦が婚姻中に積み立てた夫婦共有財産について、離婚時に清算することです。財産分与では、夫婦が婚姻中に作ったすべての財産が対象になります。たとえば預貯金や生命保険、夫婦が協力して購入した不動産、株式や投資信託などすべてです。

ただし、これらの財産がお寺の宗教法人のものなのか、僧侶個人のものなのかによって取り扱いが異なってきます。財産分与は、あくまで僧侶個人と妻との間の問題なので、宗教法人の所有財産は財産分与の対象にならないからです。僧侶の中には、高級自動車などの高額資産を所有している人もけっこうたくさんいますが、そのような場合、それらの財産が宗教法人の所有物なのか僧侶個人の所有物なのかという判断を慎重に行う必要があります。購入資金がどこから出ているかや、名義などを参考にして判断しましょう。

また、財産分与の割合は原則的に夫婦が2分の1ずつになります。夫の僧侶が収入を得ていて妻は専業主婦の場合にも、財産分与割合に差をつけることはできないで、注意しましょう。ただし、当事者双方が話しあって納得した場合には、2分の1とは異なる割合にすることができます。たとえば、お寺関係の財産はすべて夫の僧侶のものとして、それ以外の預貯金などを妻が取得するという内容の取り決めにすることなども可能です。

離婚の基本的な財産分与について

宗教法人の財産

僧侶の場合、夫婦の一方が宗教法人の代表となっていることがあり、法人としての財産と個人としての財産を分けているケースが多いです。この場合、先ほども説明したとおり、宗教法人の所有財産は財産分与の対象にならないので注意が必要です。

たとえば、同じ預貯金であっても、宗教法人名義のものは財産分与の対象になりませんし、不動産や株式、投資信託、ゴルフ会員権なども同じです。ただ、ここで注意したいのは、代表者である僧侶個人が宗教法人に対して貸付をしているケースです。この場合、貸付金自体が僧侶個人の財産として評価されるので、財産分与の対象になる可能性があります。

このように、僧侶の離婚のケースでは、宗教法人の財産と僧侶個人の財産の区別が難しいので、自分達ではよくわからない場合には弁護士に相談することが大切です。

僧侶の退職金

僧侶でも、退職金に類似したお金を受け取るケースがあります。一般的に退職金というとサラリーマンのイメージであり、僧侶が退職金を受け取ることなど考えにくいと思われるかも知れませんが、宗教法人を経営している場合、代表者や役員が終身保険に加入しているケースが結構多いです。保険に入っているとその分税金が節約できるなどのメリットがありますし、僧侶が役員を引退するときに保険の解約返戻金を受け取ることができるからです。

この場合の解約返戻金は、通常の生命保険などと同様夫婦が離婚する場合の財産分与の対象になるので、妻には半額の請求権があります。また、資金的に余裕があるお寺では、僧侶(住職)の在職中に退職給与引当金というお金を積み立てておいて、住職の引退時に積み立てておいた退職金を受け取る制度を利用しているケースがあります。この場合も、婚姻中に積み立てた分の退職給与引当金相当額は夫婦の財産分与の対象になりますので、やはり妻はその2分の1の金額の支払いを請求することができます。

一般的には僧侶と退職金の結びつきのイメージがないので、ついつい忘れがちですが、結構大きな金額になることもあるので、僧侶との離婚の場合には退職金や類似の保険などについても留意しておくことが重要です。

配偶者を雇用している場合

離婚を理由に解雇できない

宗教法人化しているお寺の場合、配偶者を役員や監事にしていることがあります。この場合、離婚したからといって、当然に配偶者に役員などの職を辞めてもらうことができるわけではありません。役員や監事を辞めさせるためには、法律に定められた適切な手続きを経る必要があります。

また、配偶者を従業員として雇用している場合も同じです。この場合にも、離婚を理由としていきなり解雇出来るわけではありません。解雇するためには正当事由などが必要になるので、妻が引き続き働きたいと言う場合、なかなか寺院から出て行ってもらうことができなくなる場合もあるので、注意が必要です。

僧侶との離婚での養育費

夫婦が離婚する場合、その夫婦の間に未成年の子どもがいたら、親権者を決める必要があります。僧侶の場合も同じで、夫か妻か、どちらが親権者になるかを決めないといけません。僧侶だからと言って必ず親権者にならないといけないということもありませんし、僧侶だから必ず親権者になれるということもありません。僧侶だから親権者になれないということもなく、妻ときっちり話し合って親権者を決定する必要があります。

また、親権者が決まったら養育費の問題も発生します。養育費の金額は、夫婦のお互いの収入状況に応じて決定します。養育費を支払う側の収入が多ければ養育費の金額は高くなりますし、養育費の支払いを受ける側の収入が高ければ養育費の金額は低くなります。高額な収入がある僧侶が養育費を支払う場合には、養育費の額が一般よりかなり高くなる可能性もあります。

また、養育費を決める場合、月々の支払だけではなく、子どもが将来高校や大学に進学する場合の費用負担についても取り決めておくとトラブルを避けやすくなります。たとえば、子どもが高校に進学する年の3月に○○万円、大学在学中4年間に毎年○○万円などと取り決めておくと良いでしょう。子どもがどのような学校に進学するかわからないので先に取り決めるのが嫌な場合には、実際にかかった実費を夫が負担する内容や、負担割合などを決めておくと良いです。

養育費の交渉・回収は弁護士へ

宗教的価値観の違いは離婚理由になるのか

僧侶が離婚する場合、夫婦の宗教的な価値観の違いによってすれ違いが起こるケースがあります。たとえば、夫が僧侶なのに妻は宗派が違っていたり、結婚を機に宗教を変えたりすると、後々にそのことが尾を引いてトラブルに発展してくることがあります。

そこで、そもそも宗教観の違いが離婚原因になるかが問題になります。夫婦が離婚する場合、夫婦双方が離婚に納得していれば、そもそも離婚原因があるかないかは問題になりません。夫婦双方が離婚届けに署名押印して役所に提出すれば、協議離婚ができるからです。

これに対して、夫婦の一方が離婚を拒絶している場合には裁判上の離婚原因がないと離婚できないので、離婚原因の有無が問題になります。宗教観の違いについては、それがあるだけでは法律上の離婚原因にはなりません。憲法上、国民には信教の自由が保障されているので、単純に宗教が異なるというだけの理由では、夫婦関係を継続し難いほどの大きな障害とは考えられないからです。

ただし、宗教観の違いが原因で、夫婦が不仲になり、お互いに口も聞かず家庭内別居状態になったり、けんかが絶えず、別居状態にいたって長期間経過したり等、他にいろいろな事情が重なってもはや夫婦関係が修復不可能になった場合には、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして法律上の離婚原因が認められることもあります。離婚原因があるかどうかについては、かなりケースバイケースの専門的な判断が必要なので、わからない場合には離婚問題に強い弁護士に相談すると良いでしょう。

まとめ

以上のように、僧侶と離婚したり僧侶が離婚したりする場合には、一般の人の離婚のケースとは異なる多くの問題が発生する可能性があります。どの財産が僧侶個人のものでどこからが宗教法人のものになるのかによって財産分与の計算が大きく変わってきますし、配偶者が宗教法人内で役員をしていたり従業員として働いていたりする場合にどのように対処すれば良いかなどの問題も解決しないといけません。また、僧侶が離婚する場合、檀家との関係なども意識するので、できるだけ離婚紛争を長引かせずに早めに解決する方が、少ないダメージで済みます。

そこで、僧侶や僧侶の配偶者がなるべくスムーズに離婚手続きを終わらせるためには、離婚問題に強い弁護士に相談して離婚手続を依頼することが重要です。僧侶やその妻の場合、世間体などもあって、離婚問題を周囲に相談できず悩んでいる場合も多いと思われますが、そのような方こそ早めに弁護士のアドバイスを受けることが大切なので、できるだけ早めに離婚問題を得意とする弁護士の法律相談を受けましょう。