夫婦の一方、もしくは双方が会社の経営者や社長さんで離婚問題を抱えているとき、気をつけなければいけない点があります。

会社経営者・社長の離婚問題

慰謝料や財産分与の高額化

会社経営者の離婚は、話し合いが長期化する傾向にあります。原因は大きく分けて3つあります。

第1に、会社経営者は保有する財産の種類が豊富であるため、保有財産の一覧表を作るだけでも時間がかかってしまいます。
第2に、会社経営者は、一般的に年収が高いため、慰謝料も高額化する傾向にあります。慰謝料が高くなればなるほど、妥協点を見出すまでの話し合いの時間が長くなります。
第3に、会社経営者は、会社の財産と夫婦の財産が混在している場合が多いため、どこまでを財産分与の対象とするのかについて揉めることが多く、話し合いが長期化する傾向にあります。

会社経営者・社長との離婚での財産分与

財産分与で揉める可能性がある

会社の経営者の離婚で最も重要なポイントは、「財産分与」です。会社の経営者は、年収が高額であり、財産の種類が多いため、財産分与で揉めるケースが多くなっています。
財産分与とは、「結婚生活の間に夫婦で協力して獲得した財産を、離婚に際して分割して精算すること」です。
財産分与の対象になるのは、「夫婦の共有財産」です。夫婦の生活費として蓄えられた預貯金や現金は、もちろん財産分与の対象になります。夫婦で購入したマイホームや車や家具なども、財産分与の対象になります。
株式などの有価証券やゴルフ会員権なども、財産分与の対象になります。
これらの財産については、名義がどこにあるかに関わらず、「夫婦の共有財産である」と認められれば、財産分与の対象になります。

法人名義でも財産分与の対象となることも

原則として、法律では「法人と個人は全く別の人格である」とされています。つまり、「たとえ一人で経営している会社であっても、会社と経営者は全く別の人格である」と扱われます。よって、会社の財産は、経営者の財産ではありません。残念ながら、会社名義の財産は、財産分与の対象とすることができません。
ただし、例外もあります。たとえば、ごく小規模の自営業を営んでいる場合を考えてみましょう。夫婦2人でお店を経営しており、他に従業員がいない場合には、会社名義の財産であっても、実質的には夫婦の財産だと認められることもあります。お店がごく小規模である場合や、いわゆる幽霊会社のように活動が休止状態にある場合には、例外のケースと認められやすくなります。
しかし、これはあくまで例外的な取り扱いです。法人名義の財産は、原則として財産分与の対象にはなりませんので、気をつけましょう。法人名義の財産を財産分与の対象にしたいとお考えの方は、離婚に詳しい弁護士に一度ご相談しておきましょう。

会社経営者との離婚での財産分与の割合

財産分与の清算割合は原則2分の1

財産分与の原則は、折半です。妻が専業主婦であっても共働きであっても、半分ずつ分けなくてはいけません。夫婦のどちらの収入が多いかは、関係ありません。妻が専業主夫で無収入の場合であっても、妻が会社経営者で高額の収入を得ている場合であっても、基本は50%ずつ分割します。
男性が専業主夫の場合であっても、同様のルールで折半します。裁判所では、「片方が家事や育児を行うおかげで、片方が仕事に集中できたわけだから、片方の収入であっても、半分ずつ分割するべきだ」と考えられるからです。

会社経営者の場合は財産分与の割合を決めるのは難しい

ただし例外として、特別な事情があれば財産分与の割合が変更されます。特別な事情とは、「個人の特殊な能力によって高額な収入を得ていた場合」です。例えば、スポーツ選手や芸能人については、「個人の特殊な能力によって収入を得ている」と認められる傾向にあります。個人の技能によって特別に収入を得ている場合には、夫婦の協力で獲得した財産とはいえないので、半分ずつ分けるのは適切ではない、と考えられているのです。
会社経営者についても、この例外として認められる場合があります。たとえば、カリスマ的な経営者として会社を有名にして大きくした、という場合があります。このような場合は、「個人の特殊な能力で高額な収入を得た」といえますので、財産分与の割合が変更されます。
どのように割合が変更されるかは、状況によって異なります。4対6に変更されることもありますし、1対9に変更されることもあります。「どれほどの特殊能力か」「その能力によってどれぐらいの財産を築いたか」など、様々な事情を考慮したうえで決定されます。
ここでポイントとなるのは、「どれだけ具体的な事情を用いて裁判官を説得できるか」ということです。裁判では感情論は全く意味をなしません。裁判官を説得するためには、理論的な説明が全てです。どのような証拠をそろえておけば有利になるのか、どのような事情を記録しておけば役に立つのかは、事情によって異なります。一般の方には判断が難しい問題ですので、財産分与で揉める可能性がある方は、一度弁護士に相談しておくことをおすすめします。

退職金

会社経営者や自営業の場合には、退職金が無いことがよくあります。
個人で事業を営んでいる場合や中小企業の場合には、小規模企業共済に加入していることがあり、これが実質的な退職金の性質を有しています。会社によっては、長期平準定期保険に加入していることもあります。
このような共済金や保険金についても、財産分与の対象とできる可能性があります。この点は見落としている人が多いので、きちんと加入状況を調べておきましょう。
もちろん、共済金や保険金は、当然に財産分与の対象となるわけではありません。財産分与の対象とできるかどうかは、「夫婦の共有財産といえるのか」「具体的かつ現実的な資産といえるのか」ということがポイントとなります。たとえば受け取るまでに10年以上の期間がある場合には、「現実的な資産」とはいえないので、財産分与の対象とすることは難しいでしょう。

その他の財産

財産分与の対象は、「婚姻期間中に協力して獲得した全ての財産」です。あらゆる種類の財産が財産分与の対象になります。
会社経営者の中には、株式などの有価証券やゴルフ会員権を保有していることがあります。また、外車などの高級車をはじめとして、宝石や骨董品、高級食器や有名絵画などの高級品を保有していることもあります。これらの財産についても、夫婦の共有財産と認められれば、財産分与の対象になります。
夫婦の共有財産であるかどうかは、名義のいかんに関わらず、実質的に判断されます。たとえ名義が夫婦どちらか一方のものであっても、「夫婦で協力して獲得した財産」と認められれば、財産分与の対象になります。ゴルフ会員権の名義が夫にあっても、夫婦の収入をもとに購入したものであれば、夫婦の共有の財産といえます。

結婚前から持っていた財産について

結婚前から有していた財産は分与対象にならない

財産分与の対象になるのは、「結婚生活の間に夫婦で協力して獲得した財産」のことです。つまり、「独身時代に獲得した財産」や「お互いが独自に取得した財産」は、財産分与の対象になりません。このような財産は、夫婦で協力して獲得した財産ではないからです。
例えば、独身時代に起業して高額な収入を得ていた場合は、独身時代の収入が財産分与の対象となることはありません。会社の財産が財産分与の対象となることもありません。
また、婚姻期間中に取得した財産であっても、親から相続した財産は、夫婦が協力して獲得した財産ではないので、財産分与の対象になりません。
「夫婦で協力して獲得した財産かどうか」という問題は、専門的な判断が必要となります。ご自身で判断してしまうと、財産分与の対象とするべき財産を見過ごしてしまうかもしれませんし、反対に、財産分与の対象ではない財産を相手に譲ってしまうおそれもあります。
このようなリスクを防ぐためにも、会社経営者の離婚に関してお悩みの方は、離婚に詳しい弁護士に一度ご相談しておきましょう。

離婚と経営の問題を同時に抱えるのは相当なストレスになる

離婚と経営の問題

会社経営者の離婚は、通常の離婚問題よりも複雑化する傾向にあります。一般的な離婚のケースに比べ、決めることがたくさんあるため、話し合いが長期化することも珍しくありません。
しかし、家族経営の会社の場合は、離婚問題が経営問題に発展するおそれがあります。このような経営問題を避けるためにも、外部に情報がもれないように最新の注意を払い、計画的に話し合いを進めなければいけません。会社経営者の家族間の紛争が表沙汰になると、取引先や顧客からの信頼を落としてしまうリスクもあります。
また、規模の大きな会社の場合は、夫婦で会社の株式を保有しているケースがあります。このような場合、離婚問題で揉めると経営権争いにつながるおそれが高くなります。
いずれにしろ、離婚問題によって会社の経営に支障をきたさないためにも、冷静かつ計画的に話し合いを進めることが必要です。冷静な話し合いを進めるためには、客観的な第三者である弁護士を通して話し合いを進めることが有効です。
当事者同士で話し合っていると、どうしても感情的な話し合いになってしまいます。このような状況に陥ってしまうと、時間が徒労に過ぎるだけでなく、精神的にも大きなストレスとなってしまいます。

配偶者を雇用している場合

離婚を理由として解雇することはできない

夫婦の一方が会社の経営者である場合は、もう一方が会社の従業員となっていることがよくあります。このような場合、「元妻や元夫が働く会社では働きたくない」と考える人が多いでしょう。このように配偶者が退職を望む場合は、きちんとした退職手続きを取って、円満に退職してもらいましょう。
まずは退職の意志が一時的なものでないことを確認して、それから正式な退職届を出してもらったうえで、会社の規則に従った適切な退職金を支払いましょう。退職金は、離婚の慰謝料とは別のものです。慰謝料を支払うかどうかに関わらず、退職金はきちんと支払わなければいけません。
もしも配偶者が退職を望まない場合は、離婚を理由に解雇することはできません。離婚を理由に給与を下げることもできません。離婚を理由に転勤させたり、部署を変えることもできません。
会社内で元妻や元夫と顔を合わせることは気まずいかもしれませんが、元妻や元夫とはいえ、会社の従業員であることに変わりはありません。不当な扱いをしてしまうと、労働法違反で訴えられるおそれがあります。ここでのポイントは、「元夫婦であることは忘れて、他の従業員と同様に扱うこと」です。理由も無く従業員を解雇できないのと同様に、元妻や元夫を理由も無く解雇することはできません。
もちろん、元妻や元夫に解雇理由があるのであれば、適正な手続きに従って解雇することができます。たとえば、離婚後に会社に出社しなくなった場合や、離婚後に引っ越しをしてしまい連絡が取れなくなった場合は、正当な解雇事由となります。
それでは、配偶者が一般従業員ではなく、取締役や監査役となっている場合はどうでしょうか。この場合においても、離婚を理由に取締役や監査役を退任させることはできません。離婚を理由に役員報酬を下げることもできません。
もちろん、配偶者が役員の辞任を申し出た場合には、役員から外れてもらうことができます。このような場合にも、きちんと辞任届を出してもらい、適正な退任手続きを取らなくてはいけません。

まとめ

以上のとおり、会社経営者の離婚問題には様々な争点が介在します。財産分与を行う場合には、夫婦の共有財産を特定するまでに時間がかかってしまいますし、話し合いが長引くと会社の経営問題に発展するリスクもあります。会社の運営に支障をきたさないためにも、トラブルが生じる前に一度弁護士に相談しておきましょう。もしも配偶者を役員や従業員として雇用している場合には、離婚とは別に労働法の問題が生じる可能性がありますので、慎重かつ冷静な対応が必要です。当事者同士で話し合いを重ねると、感情的な対立となってしまいますので、第三者である弁護士を通して、冷静かつ計画的に話し合いを進めましょう。