離婚により慰謝料や養育費を相手方に請求するために、相手の給料や預貯金口座を差し押さえすることは可能でしょうか。詳しく見ていきましょう。

離婚慰謝料や養育費を強制執行で獲得する方法

離婚の際に離婚慰謝料や養育費の取り決めをしても、その後支払いが行われなくなることがとても多いです。不払いが起こった場合に離婚慰謝料や養育費を確実に回収するためには、強制執行をする必要があります。
強制執行とは、いわゆる差し押さえ手続のことです。
差し押さえをする場合、相手の名義のあらゆる財産を対象にすることができます。
たとえば相手が預貯金を持っていれば預貯金の差押ができますし、相手が会社で働いている場合には、会社から支払われる給料を差し押さえることなどができます。

給与・預貯金口座の差し押さえとは

相手の財産を差し押さえる場合、給与や預貯金を差し押さえる方法が効果的です。そこで、以下ではこれらの手続きについてご説明します。
給与を差し押さえる場合には、相手方が会社に対して持っている給与債権を差し押さえることになります。
相手が会社から給料をもらっている場合、相手は会社に対して「給料を払ってもらう権利」を持っています。この権利のことを給与債権と言いますが、給与債権も財産の1種となるので、差し押さえの対象になります。
そこで、相手が働いて給料をもらっている場合には、その給与債権を差し押さえることによって給料を取り立てることができます。
相手が銀行や郵便局に預貯金をもっている場合には、相手は銀行などに対して「預金を払い戻す権利」を持っています。この権利も債権の1種であり、預貯金債権と言います。
預貯金債権も相手の財産として差押の対象になるので、相手が銀行預金などをもっている場合には差し押さえることができるのです。

給与・預貯金口座を全額差し押さえすることはできるの?

給料を差し押さえる場合には、全額を対象にすることができません。給料を全額取られると、債務者が生活出来なくなってしまうからです。
給料のうち、差押ができる金額の限度は、慰謝料のために差押をする場合と養育費の場合に差押をする場合で異なります。
慰謝料のために差し押さえる場合には、給料全額から社会保険料や税金、通勤手当などを除いた手取りの金額の4分の1が限度になります。手取り額の4分の3が33万円を超える場合には、それを超える部分全額を差し押さえることができます。
これに対して、養育費のために差し押さえる場合には、給料全額から社会保険料や税金、通勤手当などを除いた金額の2分の1が限度になります。手取り額の2分の1が33万円を超える場合には、それを超える部分全額を差し押さえることができます。このように、養育費にもとづいて給料を差し押さえる場合の方が、慰謝料にもとづく場合よりも多額の部分を差し押さえることが可能です。
預貯金債権を差し押さえる場合には、その口座内に残っている金額を全額差し押さえることができます。その場合、慰謝料にもとづく差押の場合であっても養育費にもとづく差押の場合であっても、取り扱いに変わりはありません。

毎月差押えする必要はあるの?

預貯金債権を差し押さえる場合には、いったん差し押さえ手続をしてしまったらその時点で残っている預貯金を回収するので手続きが終わりますが、給与債権を差し押さえる場合には、毎月給料が支払われたりボーナスが支払われたりするので、その支払いのたびごとに差押をしなければならないのかという問題が起こります。
この点、給与債権を差し押さえる場合、将来分の差押が認められるため、いったん手続きをとれば、毎月の支払ごとにあらためて手続きをとる必要はありません。
一回差押が認められたら、差押の取り下げをするか相手方がその会社をやめるまでの間、その会社での給料やボーナスを取り立て続けることができます。

相手が会社を退職したら、差し押さえはできないの?

給与債権を差し押さえる場合には、相手が現在勤めているその会社に対して持っている給与債権を差し押さえることになります。そこで、相手が会社を退職すると、差押の対象がなくなるので、効力が無くなります。

給料を差し押さえたら、元夫・妻は会社を解雇されるの?

給料を差し押さえられたからと言って、解雇の理由にはなりませんので、まともな会社であれば、差押を理由に解雇することはありません。ただし、銀行員などの場合などには、差し押さえが起こると、会社にいづらくなって事実上辞めざるを得ない状態になってしまう可能性はあります。

給料を差し押さえるメリットは何?

給料を差し押さえると、毎月改めて手続きをとらなくても、将来にわたって自動的に養育費や慰謝料が支払われることになります。この場合、「今月もきちんと相手が支払ってくれるだろうか」という心配をしなくて良くなるので、精神的にも楽になります。
また、給料を差し押さえると会社に連絡がいくことになり、相手方が会社内で不利益を受けるので、実際に差し押さえ手続をとる前に相手に対して、「支払ってくれないなら給料の差押をします」、という通知をすると、相手が自分から任意に支払いをするようになることもよくあります。

給料を差し押さえるのに必要な書類とは

強制執行できる権利を証明する公的文書

給料などの相手の財産を差し押さえるためには、いくつかの必要書類があります。
中でも重要なのが、差押をする効力(強制執行力)のある文書です。
強制執行力のある文書のことを債務名義と言いますが、具体的には以下のようなものとなります。

  • ・裁判(訴訟)をした場合の判決書
  • ・調停をした場合の調停調書
  • ・公正証書

判決書は、たとえば慰謝料請求訴訟を起こしたり、離婚訴訟をしたりして相手に対して養育費や慰謝料の支払い命令が出た場合などに裁判所からもらえます。

調停調書は、たとえば裁判所で離婚調停をしたり、養育費調停をしたりして調停が成立した場合に裁判所からもらえます。

公正証書は、離婚の際に離婚協議書を作成して公正証書にしてもらった場合に入手できます。
公正証書によって差し押さえをする場合には公正証書の正本が必要になるので、手元にない場合には、公証役場に対して正本の交付請求をします。このとき、枚数によって費用がかかります。具体的には公正証書1枚について250円です。

差し押さえの対象となる財産は自分で調べる必要がある

相手の財産を差し押さえる場合、差し押さえの対象にする財産自体は申立人が自分で探す必要があり、裁判所が差し押さえるべき財産を見つけてくれることはないので、注意が必要です。
たとえば預貯金を差し押さえるのであれば、どの銀行のどの支店に口座があるのかを特定しなければなりませんし、給料を差し押さえる場合には、相手がどこのどのような会社で働いているのかを特定する必要があります。
差し押さえるべき対象資産を特定してそれを裁判所に示すことによって、はじめてその財産を差し押さえることができます。情報に誤りがあると差し押さえは認められないので、正確に調査することが重要です。

差し押さえのために必要な情報

相手の財産を差し押さえる場合に必要な情報は、だいたい以下のようなものとなります。

給料を差し押さえる場合には、相手の勤務先の会社名、住所、代表者名などを正確に記載する必要があります。会社が法人化されている場合には商業登記簿も必要となります。

相手の預貯金口座を差し押さえる場合には、対象の銀行などの金融機関名、支店名が最低限必要です。この場合にも対象の金融機関の商業登記簿謄本が必要になります。

差し押さえをする場合には、これらの情報を正確に裁判所に伝える必要があります。

強制執行申立書の作成・提出

次に、具体的に裁判所に対して強制執行(差し押さえ)の申立をする方法をご説明します。
まずは、「債権差押申立書」という書類を作成します。
申立書には、当事者目録や請求債権目録、差押債権目録などを添付する必要もあります。
また、申立の際には手数料として収入印紙が4000円程度、郵便切手代が2500円程度かかります。具体的にかかる費用については裁判所やケースによっても異なるので、裁判所に問い合わせると良いでしょう。

その他に必要な提出書類

差し押さえの申立をする際には、強制執行力のある書類である債務名義と申立書以外にも、いくつか必要な書類があります。具体的には、だいたい以下のようなものとなります。

  • ・申立書の目録の写し(部数はケースによっても異なるので裁判所に問い合わせましょう)
  • ・執行文
  • ・送達証明書
  • ・宛名を書き込んだ封筒
  • ・給与差し押さえの場合には、相手の勤務先の商業登記簿謄本か資格証明書
  • ・預貯金差押の場合には、対象銀行の商業登記簿謄本か資格証明書
  • ・相手が債務名義に記載してある住所から変わっている場合には、相手の住民票(住所変更がわかるもの)
  • ・当事者目録
  • ・請求債権目録
  • ・差押債権目録

執行文とは、裁判所に執行することのお墨付きをもらったことを証明する文書です。
強制執行の申立をする場合には、判決などの債務名義に執行文をつけてもらう必要があります。

執行文をつけてもらいたい場合には、裁判所に対して執行文付与の申立をします。このとき、数百円の手数料がかかります。
送達証明書とは、その債務名義が相手に送達されていることの証明書です。これについても裁判所に申請して取得しますが、そのためにも、数百円の費用がかかります。

当事者目録とは、申立人と相手方、相手の勤務先や銀行などの事件の当事者について書き込んだ目録です。
請求債権目録とは、請求原因となる債権について記載した目録です。たとえば慰謝料や養育費の内容について記載します。

差押債権目録とは、差押の対象にする債権について記載した目録です。たとえば給料を差し押さえる場合であれば、給与債権の内容(差押の対象にする会社や金額など)を記載しますし、預貯金を差し押さえる場合であれば、預貯金の内容(対象にする銀行や支店名、預貯金の種類など)を記載します。

強制執行の申し立て方法

相手の財産を調べて申立書を作成し、必要書類を揃えて申立の準備が完了したら、裁判所に対して強制執行の申立をします。
強制執行申立をする裁判所は、相手方の住所を管轄する地方裁判所です。
作成した書類を持参して提出する方法でも申立ができますし、郵送でも申立が可能です。
特に不備が無ければそのまま債権差し押さえ命令が発令されて、差し押さえの効力が発生します。不備がある場合には裁判所から連絡が来て、補正を要求されます。
きちんと補正ができたら債権差押命令が発令されますが、補正しない限り発令はなされないので、裁判所から連絡が来たら、早急かつ的確に対応する必要があります。

差し押さえ・強制執行がうまくいった場合

相手の財産に対する差し押さえ(強制執行)が成功して裁判所が債権差し押さえ命令を出してくれたら、相手の預貯金や給料などを差し押さえることができます。
ただし、その具体的な取り立て方法については、債権者が自分で話をしなければなりません。裁判所が取り立て方法にまでかかわってくれることはないので、注意が必要です。
たとえば、給料を差し押さえる場合であれば、自分で相手の勤務先の会社に連絡をして話をつけて、毎月の給料から取り立て分をあなたの口座に送金してもらうように話をしなければなりません。預貯金を差し押さえる場合にも、自分で銀行等と話をつけて、預貯金残高を自分の口座に送金するようにしてもらうのか、窓口に受け取りに行くのかなど受け取り方法を決める必要があります。

差し押さえ・強制執行する際の注意点

相手の財産を強制執行(差し押さえ)する場合には、注意点があります。それは、相手に財産がなければ手続きが無駄になることです。
たとえば、預貯金を差し押さえたとしても既にその口座が解約されていたり、残金がほとんど無かったりすると、差し押さえは無駄になってしまいます。この場合には、差し押さえにかかったお金や手間は無駄になってしまいます。
相手の給料を差し押さえた場合でも、相手がその会社を既に辞めていたり、差し押さえ後すぐに辞めてしまったりした場合には、具体的にお金を取り立てることができない(ほとんどできない)ことがあります。
この意味で、相手が辞めにくいサラリーマンや公務員などの場合には、給与差し押さえは非常に効果的です。
このように、差し押さえをする場合には、相手の資産調査をきちんとした上で行う必要があります。

まとめ

不倫の慰謝料請求をするときに確認しておくべき5つのポイントとは

以上のように、離婚した場合の離婚慰謝料や養育費の不払いがあった場合、相手の給料や預貯金を差し押さえることによって取り立てをすることができます。
ただし、そのためには相手の財産を具体的に特定する必要がありますし、集めなければならない書類や作成しなければならない書類もたくさんあります。
財産が特定できなかったり、書類が足りていなかったり不備があったりすると差し押さえは認められません。
自分で資産調査をするには限界がありますし、強制執行の手続きもかなり複雑なので、わからない場合には離婚問題に強い弁護士に相談しましょう。