離婚条件として養育費について合意をしても「本当に支払われるか不安だ」とか、養育費の合意をしたけれども「現在支払われていない」など、養育費に対する不安はつきものですよね。
実際、平成28年度に実施された厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要」による統計でも、実際に養育費を受給している母子家庭は、24.3%にすぎません。また、養育費の合意をしたにもかかわらず養育費を受け取れていない母子世帯が40%以上に上ります。
養育費が支払われなければ、結果的に負担はお子様にのしかかってきます。そのためにも、養育費が支払われないときの強制執行手続きを学んでください。

養育費の強制執行?

相手方に養育費を支払ってもらおうと、口頭で請求してもなかなか支払ってもらえないことはよくあります。
家庭裁判所で養育費の取り決めをした場合には、裁判所に対し、「履行勧告」の申出をすると、家庭裁判所も相手方に対し、養育費を支払うように説得をしてくれる制度もありますが、この制度も任意の支払いを要求するものであり、払う意思がない者に対しては実効性がありません。

このような場合、強制的に養育費を支払ってもらうためには、裁判所を利用した「強制執行」の手続きをしなければなりません。
ただ、どんなときでも強制執行ができるわけではありませんので、まずは、あなたが強制執行手続きができるかを場合分けしましょう。

強制執行手続きができる場合

  • 1 養育費を支払うことを命じられた、裁判所の判決書がある
  • 2 養育費の支払いが明記された、裁判所の和解調書、調停調書がある
  • 3 養育費の支払いが明記された公正証書による書面があり、かつその書面に強制執行を認める記載がある(強制執行認諾文言付公正証書)

強制執行手続きがすぐにはできない場合

  • 1 養育費について書面があるが、公正証書や裁判所を介した書面となっていない場合
  • 2 養育費について口頭での合意しかない場合
  • 3 養育費についてお互い特に何も定めていない場合

口頭の約束は怖いということはよく耳にすると思いますが、強制執行手続きをするには、ただ書面で合意するだけではだめだということが分かると思います。
また、強制執行手続きがすぐにはできないとお悩みの方も、公正証書の作成や裁判所の調停・審判を適切に行えば、養育費の強制執行をすることが可能です。
さらに、養育費の支払い開始日は、実務上、養育費の請求を裁判所に調停や審判の申し立てたときと判断されることが多く、申立が遅れれば遅れるほど様々な点で請求者が不利になります。

養育費について強制執行がすぐにできない方は、養育費の相場がわかるツールがありますので、まずはご確認の上弁護士にご相談ください。

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養育費の強制執行をすると何が差し押さえられるの?

強制執行手続きは、養育費の滞納特有の問題ではなく、借金の未払いや慰謝料の未払いなど様々な場面で利用されます。相手方が約束をしたり義務があったりするにもかかわらず、その約束・義務を守らない場合には、法律上強制執行をするしかありません。

強制執行の代表的なものは、債権執行、動産執行、不動産執行などです。これらは、基本的には差し押さえをして競売にかけて金銭にして支払ってもらうことになります。

ただ、養育費の支払いの場合は、債権執行として、給料の差押えか預金の差押えがほとんどなので、給料の差押えと預金の差押えについて中心に解説します。

給料の差押え

給料の差押えは、相手方が給与所得者であれば、相手方が退職しない限り最も有効で効果的な強制執行の手段です。給料の差押えをしたとたんに、相手方が任意で滞納額の全額を支払ってくることもあります。

給料の差押えをするとどうなる?

相手方が会社に勤務している場合、相手方は会社に対し給料を受け取る権利があるのですが、この給料を受け取る権利を差し押さえてしまいます。そうすると、会社は相手方に対し差し押さえられた給料を支払えなくなってしまいますので、差し押さえた給料は、相手方を通さずに会社から支払ってもらうことができます。

給料の差押えは2分の1まで……

養育費や婚姻費用は他の債権よりも優遇されているのですが、それでも通常は、税金や社会保険料や通勤手当などを給料から差し引いた金額の2分の1までしか差し押さえることができません(社内積み立てなどがなければ、手取りの2分の1と考えてもよいでしょう。)。

給料を差し押さえたら、会社に通知されるの?

給料を差し押さえをしたら、確実に会社に通知が行きます。相手方に支払われる給料の差押えなので、会社が知らなければ間違えて相手方に支払われることもあります。中小企業などで、差し押さえを受けたことがない場合、誤って相手方に支払われてしまうことがありますが、差し押さえ後に会社が給料を相手方に支払ってしまったとしても、会社はその支払いを請求者に主張できません。

預金の差押え

養育費が支払われない理由として、金銭的に厳しいからというだけではなく、預金が十分にあるにもかかわらず支払われない場合もあります。預金の情報が具体的にわかっている場合には、預金の差押えも検討しましょう。

預金を差し押さえるには、どのような情報が必要?

預金を差し押さえるには、相手方名義の預金がある、銀行名、支店名が最低限必要となります。口座番号などや、普通預金か定期預金かなどまでは、分からなくても可能です。

銀行名は分かっているけど支店名が分からないときはどうすればいいの?

銀行は個人情報の取り扱いに厳しく、預金名義人の第三者が質問しても通常回答してくれません。ただ、裁判所の調停や裁判で取り交わした書面がある場合には、弁護士を通して弁護士会照会というものをすれば、預金名義人の同意なく回答してくれる金融機関もあります。このような場合、まずは弁護士にご相談ください。

給料の差押えに必要な書類は?

まずは、公正証書か調停調書か裁判の判決書きなど強制執行の前提となる書類が必要です。これらは、法律上、債務名義と呼ばれています。

その他に必要な提出書類

  • ・申立書の目録の写し(部数はケースによっても異なるので裁判所に問い合わせましょう)
  • ・執行文
  • ・送達証明書
  • ・宛名を書き込んだ封筒
  • ・給与差し押さえの場合には、相手の勤務先の商業登記簿謄本か資格証明書
  • ・預貯金差押の場合には、対象銀行の商業登記簿謄本か資格証明書
  • ・相手が債務名義に記載してある住所から変わっている場合には、相手の住民票(住所変更がわかるもの)
  • ・当事者目録
  • ・請求債権目録
  • ・差押債権目録

執行文とは

執行文とは、裁判所に執行することのお墨付きをもらったことを証明する文書です。強制執行の申立をする場合には、判決などの債務名義に執行文をつけてもらう必要があります。
執行文をつけてもらいたい場合には、裁判所に対して執行文付与の申立をします。このとき、数百円の手数料がかかります。

送達証明書とは、その債務名義が相手に送達されていることの証明書です。これについても裁判所に申請して取得しますが、そのためにも、数百円の費用がかかります。

強制執行の申立方法

相手の財産を調べて申立書を作成し、必要書類を揃えて申立の準備が完了したら、裁判所に対して強制執行の申立をします。
強制執行申立をする裁判所は、相手方の住所を管轄する地方裁判所です。
作成した書類を持参して提出する方法でも申立ができますし、郵送でも申立が可能です。

特に不備が無ければそのまま債権差し押さえ命令が発令されて、差し押さえの効力が発生します。
不備がある場合には裁判所から連絡が来て、補正を要求されます。

きちんと補正ができたら債権差押命令が発令されますが、補正しない限り発令はなされないので、裁判所から連絡が来たら、早急かつ的確に対応する必要があります。

差押え・強制執行の注意点

相手の財産を強制執行(差し押さえ)する場合の注意点は、相手に財産がなければ手続きが無駄になることです。

たとえば、預貯金を差し押さえたとしても既にその口座が解約されていたり、残金がほとんど無かったりすると、十分に差し押さえをすることはできません。この場合には、差し押さえにかかったお金や手間は無駄になってしまいます。

相手の給料を差し押さえた場合でも、相手がその会社を既に辞めていたり、差し押さえ後すぐに辞めてしまったりした場合には、具体的にお金を取り立てることができない(ほとんどできない)ことがあります。
この意味で、相手が辞めにくいサラリーマンや公務員などの場合には、給与差し押さえは非常に効果的です。

このように、差し押さえをする場合には、相手の資産調査をきちんとした上で行う必要があります。

まとめ

以上のように、離婚した場合の離婚慰謝料や養育費の不払いがあった場合、相手の給料や預貯金を差し押さえることによって取り立てをすることができます。

ただし、そのためには相手の財産を具体的に特定する必要がありますし、集めなければならない書類や作成しなければならない書類もたくさんあります。財産が特定できなかったり、書類が足りていなかったり不備があったりすると差し押さえは認められません。

自分で資産調査をするには限界がありますし、強制執行の手続きもかなり複雑なので、わからない場合には離婚問題に強い弁護士に相談しましょう。