目次

交通事故の慰謝料ってそもそも何?

慰謝料とそれ以外の損害賠償金の違い

交通事故における慰謝料とは、交通事故により負った精神的苦痛を賠償するものです。民法710条は、財産以外の損害についても損害賠償の対象とすることを認めており、慰謝料のような非財産的な損害の賠償を認める根拠となっています。

このような慰謝料は、第1に填補機能、すなわち被害者が被った非財産的損害を填補する機能があります。
第2に制裁的機能、すなわち交通事故のような社会生活のルール違反行為に対し慰謝料により制裁を課し、将来の違法行為を抑止する機能があります。
第3に補完機能、すなわち慰謝料額の決定については裁判官の自由裁量により決することができるのが実務であるところ、財産的損害の発生は認められるものの、その立証が困難である場合や、証明された財産的損害の填補額では事案の解決として不十分な場合、慰謝料の額で補完することが事件の妥当な解決を行うという機能があります。

この記事では入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の計算方法について解説をしますが、下記の自動計算ツールで簡単に慰謝料を計算することも可能です。

慰謝料自動計算ツール

慰謝料以外にもらえる項目とは?

交通事故に基づく損害は、積極損害と消極損害に分類されます。積極損害とは、実際に支出した損害のことです。消極損害とは、交通事故に遭わなければ、得られたであろう収入・利益を損害としてみるものです。

まず積極損害としては、医療費等の治療費があります。次に通院に用いた交通費である通院交通費があります。さらに必要な場合には通院付添費があります。また入院した場合には、入院に係る諸費用を一律に請求できる入院雑費、さらに交通事故により死亡した場合には葬儀費用が認められます。さらに弁護士に事件を委任した場合には損害額の1割相当である弁護士費用が認められます。

次に消極損害としては、症状固定時(交通事故による受傷に対し治療を行ってもこれ以上は回復しない状態に至った時点)から原則67歳の就労可能年数までの失った収入を損害として逸失利益が認めらます。この逸失利益については、後遺傷害に係るものばかりではなく、死亡した場合でも認められるものであることに留意してください。

交通事故の慰謝料には3種類ある

交通事故の慰謝料は、入通院慰謝料、後遺傷害慰謝料及び死亡慰謝料の3種類があります。それぞれ交通事故による精神的苦痛を慰謝する場面が異なります。

精神的苦痛はそれぞれの交通事故により異なりますが、損害賠償処理の円滑性から一定の基準が設けられ、個別の事情がある場合には、それにより慰謝料額を増減されることにより、画一的処理と処理の具体的妥当性を調和させています。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は交通事故により医療機関に通院を余儀なくされたことに対する精神的苦痛を慰謝するものです。基本的には通院期間【日数】を基礎として算定されるものですが、あくまでも目安という位置づけに留まり、個別事情によっては増減することがあります。

後遺障害慰謝料

後遺傷害とは、症状固定時期が到来しても交通事故による傷害が回復せず、労働能力の減少を招いた場合に、これに対する精神的苦痛を慰謝するために損害として認められたものです。実務的には自動車賠償保険法に基づく後遺傷害等級が認定された場合に、その等級ごとに慰謝料の額が目安として定められています。ただし、これも目安ですので、個別的な事情によって増減することになります。

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、被害者が死亡したことによる精神的苦痛を損害として認めたものです。慰謝料が、生きている人間が精神的苦痛を被ったことに対する損害として認めるものであるところ、被害者が交通事故により即死した場合には、どのようになるのでしょうか。問題点は2つあります。

まず、被害者が死亡した場合には、精神的苦痛を感じる余地もないと考えて、死亡慰謝料は認められないのではないかという点です。次に、慰謝料請求権はいわゆる一審専属性があり、被害者の相続人が相続することはないのではないかという点です。

第1の点については、身体損害について慰謝料を認めるのに対し、死亡の場合にも慰謝料請求権を認めないという結論は身体損害よりも重い死亡に認められないことになり、著しい不均衡が生じるので、意思表示の有無を問わず、即死の場合であっても慰謝料請求権を認めるべきとされています。

次に慰謝料請求権は一審専属的な権利としても、結果的には相続性が肯定される金銭債権と何ら異なるところはないことから、被害者の相続人にも被害者の慰謝料請求権の相続を認めるべきであることになります。

結論として死亡肪被害者の慰謝料請求権を相続人は行使することができます。

物損事故の場合は、慰謝料はもらえない

物損事故とは人身傷害がない交通事故のことを言います。この場合、損害賠償請求は物の交換価値の賠償に終始することになりますので、物の慰謝料請求は原則として認められません。

物損事故にはペットの死傷に関する事故も含めるのですが、ペットが死亡した場合に、飼主である被害者の精神的苦痛をどのようにして斟酌するかが問題となります。この点、裁判例によってはペットが死亡したことに対する慰謝料を直接認めるものもあれば、ペット自体の価値に慰謝料的なものも斟酌して算定するというものもあり、いずれにせよ、一律にこのよう慰謝料請求が排除されているわけではありません。

慰謝料の計算には3種類の基準があります

慰謝料の算定には、その目的によって後記のとおり3つの基準が設定されています。金額に低い順から自賠責基準、任意保険会社基準、弁護士基準です。

自賠責基準

自動車賠償保険(強制保険)の保険金を算定するための基準です。自賠責事業の運営には一部公的資金が投入されていることから、保険金額が法律(政令)で定められています。そして、基本的には入院・通院を問わず1日4,200円で計算することになります。一番安い結果になることが多いです。

任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社(損害保険会社)が、各自で独自に定めた基準であり、公表はされていません。しかしながら、大枠においてはどこの保険会社の任意基準もことなるところはありません。金額的には前記の自賠責基準と弁護士基準の中間の程度の慰謝料額となっています。すなわち弁護士基準の7割程度です。

弁護士基準

弁護士基準は、裁判所で訴訟提起した場合に認められる慰謝料額の基準といいます。裁判基準ともいいます。弁護士基準(裁判基準)は、法令により定められているものではなく、典型的には日弁連交通事故センターが発刊している「赤い本」に記載されている基準を指します。ただし、大阪地方裁判所及び名古屋地方裁判所では赤い本に掲載された基準を用いるのではなく、独自の基準がありますので、ご留意ください。この弁護士基準は3つの基準の中で最高額の基準です。

弁護士基準で算定しましょう

被害者側になって慰謝料額を算定する場合には、弁護士基準を基礎として算定する方が、賠償額が増額し、有利となります。保険会社は、最初は自賠責基準で主張し、交渉を経て、任意保険基準で慰謝料額を提示するというやり方を取ることもありますが、ここで示談するのではなく、弁護士基準による算定により慰謝料額を算定することを求めるべきです。

自分で弁護士基準で交渉するのは難しい?

弁護士基準での算定を自分で行うのが難しいかいわれれば、確かに面倒ではありますが、できないことはないです。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)の計算方法

入通院慰謝料の計算方法~自賠責基準~

自賠責基準の入通院慰謝料は一定の支払基準が告示により公表されています。
原則として、入院又は通院を問わず、日額4,200円で計算されます。例えば、入院30日、通院15日の場合では、45日×4,200円=18万9000円となります。

入通院の期間は、被害者の傷害の態様、実治療日数等を勘案して、治療期間の範囲内で算定するものとされています。また、妊婦が胎児を死産又は流産した場合には、日額計算に加えて慰謝料を加算するものとされています。

入通院慰謝料の計算方法~任意保険基準~

任意保険会社基準は、そもそも各損害保険会社が独自に設定しているものであり、公表はされておりません。ただ、一般的には、弁護士基準の7割程度であるものと認識されています。

入通院慰謝料の計算方法~弁護士基準~

弁護士基準の入通院慰謝料の算定では、赤い本の別表I又は別表Ⅱを用います。
計算の基本的な考え方は、入院又は通院で1か月あたりの慰謝料を分け、その上で、月数経過により逓増するという計算方法を採ります。

この別表ⅠとⅡの区別は、傷害の程度により区別します。赤い本によると、むちうち症で他覚症状がない場合(例えば画像等から症状が確認できない場合)には、別表Ⅱを利用することになり、他方それ以外の場合には別表Ⅰを利用することになります。このように症状が客観的にみて比較的軽症な場合は別表Ⅱ、それ以外の場合には別表Ⅰを利用することになります。

次に、入通院期間の確定については、原則として入通院期間を基礎として確定します。1月1日から2月28日まで入院し、3月1日から6月30日まで通院し、同日に症状固定を迎えた場合には、入院期間は2か月とし、通院期間は、その間の実際の通院日にかかわらず、通院期間を4か月として、別表Ⅰ又は別表Ⅱを用いることになります。

ただし、通院期間が長期で、かつ不規則になる場合には、通院実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安として考慮することがあります。上記の原則的な考え方が、大体被害者が週2回ほどの通院(月ベースでは月8日から9日の通院)を行っていることを想定しているのに対し、通院期間が長期となり、かつ例えば実際の通院が3週間に1回程度となると、損害の公平な分担の観点から是正する必要があるためです。そこでこの場合には、実日数の3.5倍基準が用いられることになります。

加えて、被害者が幼児を持つ母親の場合や、仕事の都合において被害者側の事情により特に入院期間が短縮したと認められる事情がある場合には、上記別表Ⅰの金額を増額されることがあります。また入院待機中の期間や、ギブス固定中等安静を要する自宅療養期間は、入院期間とみることができます。

さらに、通院期間については、更なる例外があり、むちうちで他覚症状がない場合で、通院が長期にわたるような場合には、実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることになります。

通院期間が唯一の指標となるのが入通院慰謝料

まず、自賠責の基準から説明します。
自賠責の基準では入院、通院を問わず、基本的には日額4,200円で算定されます。つまり、入通院期間が併せて30日の場合には、自賠責基準における入通院慰謝料は30日×4,200円=126,000円となります。ただし、日数については、被害者の傷害の態様や実日数その他の事情を勘案して、治療期間の範囲内とされております。

ここで治療期間と実治療日数について説明します。まず、治療期間とは、治療の始期と終期の間の日数をいいます。次に、実治療日数とは、実際に治療を受けた日数をいいます。例えば、平成30年7月1日に交通事故に遭い、同日から1週間入院し、その後同月31日まで4回通院したとします。この場合の治療期間は31日(7/1~7/31)となり、実治療日数は入院7日+通院4日の11日となります。

次に任意保険基準ですが、これは後記の弁護士基準の7割程度で評価するのが一般的ですので先に弁護士基準を説明します。そして、弁護士基準の慰謝料は、日額ではなく、入院月数と通院月数の相関から逓増している形で計算することになります。具体的にはいわゆる赤い本や青い本の入通院慰謝料の別表を基準として算定することになります。

治療で仕事を休んだら、休業損害ももらえる

休業損害とは、交通事故が原因で被害者が仕事の休業を余儀なくされた場合に、これを損害として認めるものです。したがって、仕事をしていない被害者に休業損害を認めることはないのが原則です。ただし、無職の状態の人には休業損害が認められないわけではありません。以下のとおり例外があります。

主婦の場合の休業損害

かつては、主婦は無職なので休業損害と認めないとする考えもありましたが、主婦が家族等に提供する家事労働は経済的に評価することができ、主婦が交通事故により家事労働を家族等に提供できなかった場合には休業損害と認めるに至りました。

赤い本では、賃金センサスの女性労働者全年齢平均賃金を基礎として算定されることになります。他方、主婦であっても、パートタイマーである主婦もいます。このような主婦の平均賃金を算定する場合、パートの賃金を基礎として算定することは、無職の主婦との間の均衡を失することになります。そこで、赤い本では、パート収入と上記の賃金センサスの女性労働者全年齢平均賃金のうちいずれか高い方を基礎として算定するものとします。

学生・子供の場合の休業損害

生徒・学生(就労していない子どもを含みます。)は、社会人として就労する前の地位であることから、基本的に、休業損害は認められません。

しかしながら、アルバイトをしている者については、現実のアルバイト収入を基礎として休業損害が認められることになります。とはいえ、社会人のような安定的な雇用関係とまでは言えないので、過去の就業状況や継続性、学業のための就労日数の制限を踏まえた現実的な就労予定日数を認定して休業損害を算定することになります。

他方、いわゆる内定者については、特別の配慮がなされます。例えば治療が長期にわたり学校の卒業または就職の時期が遅延した場合には、就職すれば得られたであろう給与額が休業損害として認められることになります。この場合については、給与額が明確に確定できるような場合にはそれによりますが、確定できない場合には、が賃金センサスにおける学歴別の男女別の初任給の平均値を休業損害として認めることがあります。

後遺障害慰謝料の計算式と相場

自賠責基準

自賠責基準の後遺障害の慰謝料は、法定されており、以下のとおりです。

第1級(要介護) 第2級(要介護) 第1級 第2級
1600万円 1163万円 1100万円 958万円
第3級 第4級 第5級 第6級
829万円 712万円 599万円 498万円
第7級 第8級 第9級 第10級
409万円 324万円 245万円 187万円
第11級 第12級 第13級 第14級
135万円 93万円 57万円 32万円

任意保険基準

任意保険基準については、後記の弁護士基準の約7割程度であるとされています。

弁護士基準

弁護士基準の後遺障害慰謝料は、以下のとおりです。

第1級 第2級 第3級 第4級
2800万円 2370万円 1990万円 1670万円
第5級 第6級 第7級 第8級
1400万円 1180万円 1000万円 830万円
第9級 第10級 第11級 第12級
690万円 550万円 420万円 290万円
第13級 第14級
180万円 110万円

介護を要する後遺障害

介護を要するような後遺障害については、通常の後遺障害とは異なり、「介護」という行為が少なくとも平均余命まで必要なこと、それに伴い近親者の労苦が発生しうることを適正に賠償額の反映させる必要があります。すなわち、積極損害として、将来介護費の計上が認められます。

日額8,000円を平均余命の限度として、かつ一括で取得する場合には平均余命に対応する中間利息の控除をした金額を取得することができます。そして、車いす等の器具装具費の計上が認められます。

例えば耐用年数5年の10万円の車いすを生涯必要とする場合、平均余命が49.37歳であるときには、生涯において9回の買い替えが必要となり、これに対応する買替係数(4.216658)を車椅子価格10万円に乗じた金額は42万1660円となります。さらに後遺障害慰謝料についても自賠責基準の後遺障害慰謝料のとおりと通常の後遺障害に比べて増額されているほか、弁護士基準で算定する場合でも近親者慰謝料が認められることになります。

後遺障害等級の認定が無いと後遺障害慰謝料はもらえない

後遺障害とは、交通事故により受傷した傷害のうち症状固定を迎えても症状が残存するものをいいますが、法律上等級認定が必要であるわけではありません。しかしながら、定型的な交通事故において、少なくとも自賠責保険の実務では後遺障害等級の認定がない場合には、後遺障害に関する保険金額は支払われません。そして、裁判実務においても、後遺障害の等級認定は、後遺障害についての公的機関の証明であることから後遺障害に係る証拠資料として重視されています。このような理由から交通事故賠償実務において後遺障害に係る損害を請求するためには、後遺障害の等級認定の取得が必要になるのです。

交通事故における後遺障害等級認定の申請方法

後遺障害逸失利益の算定方法

後遺障害逸失利益とは、交通事故による後遺障害に基づき労働能力が減退した結果、症状固定日から主として就業可能年齢(67歳)まで間に収入を得られなくなったことに係る損害です。そして、後遺障害逸失利益は、以下のように計算します。

基礎収入×労働能力喪失率×中間利息控除率

主婦の場合の逸失利益

かつて主婦は労働をしていないのであるから主婦の逸失利益は存在しないとの見解もありましたが、主婦であっても家事労働を行っていることに鑑み、労働能力の減退に伴う逸失利益が認められております。とはいえ、後遺障害逸失利益の計算式における基礎収入の額をいくらにするかについては家事労働には明確な金額が存在しません。

そこで、賃金構造基本統計調査に基づく賃金センサスにおける学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎収入とします(例えば、平成28年ですと、376万2300円となります。)。他方、専業主婦ではなく、有職者の場合には、実収入が上記平均賃金よりも高額の場合には実収入により、下回る場合には平均賃金によります。

学生・子供の逸失利益

かつては学生・子どもには将来の収入がわからないので、将来の所得を適格に推認ができないとの考えもありましたが、現在の実務では賃金センサスの男女別全年齢平均賃金を基礎収入とすることとしています。

死亡慰謝料の計算式と相場

死亡慰謝料も自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準によって決められています。こちらも自賠責と弁護士基準で支払われる金額が大きく変わります。

死亡慰謝料の相場~自賠責基準~

自賠責の基準では、死亡者本人の慰謝料は350万円とされています。次に、被害者以外の慰謝料として、請求権者が限定されています。すなわち、被害者の父母(養父母を含みます。)、配偶者及び子(養子及び認知した子並びに胎児を含みます。)です。この場合において、請求権者1名の場合には550万円、2人の場合には650万円とし、3名以上の場合には750万円となります。なお、被害者が家族等を扶養している場合には、上記各金額に200万円を追加することが認められています。

死亡慰謝料の相場~任意保険基準~

任意保険基準の場合には、弁護士基準の7割程度となりますので、後記の弁護士基準で算定された基準の約7割の金額となります。

死亡慰謝料の相場~弁護士基準~

弁護士基準による死亡慰謝料の具体的な計算基準は、被害者の家族の中での位置づけにより基準となる額が変動することになります。
弁護士基準によると被害者が一家の支柱(家族の中で生計を支えている役割を担っている者)である場合には2800万円、母親又は配偶者の場合には2500万円、その他の場合には2000万円から2500万円の間とされています。

死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益の計算も基本的には後遺障害逸失利益と同じ考えをするのですが、ただし、死亡した場合には就労可能年齢までの生活費を支出することがありませんので、その額で生活費控除率として控除することになります。すなわち、以下の計算式で計算することになります。

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×収納可能年齢に対応する中間利息控除率

主婦の場合の逸失利益

基礎収入については後遺障害慰謝料と同様の考えに立ちます。問題は生活費控除率です。交通事故損害賠償の実務では、女性の場合には30~40%となります。男性が50%であるのと比較すると低率になっているのは、基礎収入額が男性よりも低額である傾向があるためであり、男性と同程度の給与を取得している場合には、男性と同程度に考える必要があります。なお、年金収入のみである場合には、収入に占める生活費の割合は高いものと認められるので、生活費控除率は高額で処理される場合があります。

学生・子供の逸失利益

学生・子どもの死亡逸失利益の基礎収入は後遺障害逸失利益と同様に考えるのですが、問題は生活費控除率です。男性・男児の場合には生活費控除率は50%と、女性の生活費控除率は30%、女児で基礎収入に全年齢平均賃金を用いる場合には40%~45%とされています。男性・男児が女性及び女児に比して生活費控除率が高いのは男性の方が高額の収入を得る蓋然性が高いからです。そして、女児の場合には、仮に生活費控除率が40%かそれ以下であれば、男性に全年齢平均賃金を用いた場合と比べて逸失利益の額が上回ってしまうため、40%~45%とされています。

交通事故で最も多いむちうちの怪我

むちうちの入通院慰謝料の相場

むちうち症で他覚的所見(画像等で症状が確認できないもの)がないものについては、上記の別表Ⅰと比較して低額な基準である別表Ⅱが用いられます。それは、別表Ⅰの場合と比較して他覚的所見がないので、症状も軽微であるとの前提があると思われます。

入通院慰謝料 別表Ⅱ(むちうち・軽症の場合)
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 A’B’ 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183

そして、入通院期間の計算も別表Ⅰが適用される症状とは異なります。すなわち、通院が長期にわたるような場合には、入通院期間を限度として、実通院日数の3倍程度を通院期間の目安とすることになります。したがって、むちうちで他覚的所見のない場合には入通院慰謝料はそのほかの傷害と比較して低額になる傾向があります。

むちうちの慰謝料を増額したい方へ

むちうちの後遺障害慰謝料の相場

むちうちで後遺障害が認められる場合の後遺障害等級は、第14級第9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合が多いです。この場合には裁判基準で慰謝料は110万円となります(自賠責基準で32万円)。

次に多いのが第12級第13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する場合です。この場合には裁判基準で290万円となります(自賠責基準で93万円)。

両者の違いは他覚的所見の有無と説明されています。すなわち、画像等で患部が明らかにできるものは第12級、そうでない場合には第14級という具合です。

交通事故慰謝料はいつもらえる?

交通事故発生日から起算して、被害者が慰謝料を受領する可能性が一番早いのは、自賠責保険における被害者請求が認められた時点となります。この場合、慰謝料は自賠責基準で算定されます。

次に、示談契約が締結された時点となります。解決する基準として任意保険基準及び弁護士基準で算定されることが多いものと見込まれます。

最も遅いのが、判決の確定した時点です。この時点では、弁護士費用と遅延損害金が含まれた金額となります(場合によっては訴訟提起とは別個の申立てにより訴訟費用も認められる場合があります)。

慰謝料が増減するケース

慰謝料の算定方法はいずれも、大量の交通事故事件を迅速かつ円滑に処理するために設けられたものですが、他方で、これを絶対視することは結論の具体的妥当性を無視することになります。したがって、これらは基本的な目安であり、具体的な事件において考慮すべき事情がある場合には、当該事情を考慮して、その結果、慰謝料額が増減することになります。

慰謝料の増額事由として考えられる項目

事故態様が悪質

裁判例においては、加害者が飲酒運転、赤信号無視といった交通事故の態様が悪質と評価された場合、又は加害者が交通事故後にひき逃げ(逃走)を行ったとき、証拠隠滅したとき及び刑事・民事裁判において被害者に対し不当な責任転嫁を行ったとき等は、基準額を上回る慰謝料額が認定されることがあります。

例えば加害者が、被害者が赤信号で横断していたと捜査機関に虚偽の内容の供述を行い、これが加害者の不起訴処分に不当な影響を与えたこと、その結果被害者側が真相解明のための努力を行うことを余儀なくされたことなどを考慮して、死亡慰謝料額として本人分2150万円、妻400万円、子3人各150万円の合計3000万円が認定された事例があります。(福岡高等裁判所平成27年8月27日判決)。

他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌(しんしゃく)しようとする場合

裁判所において、逸失利益等の財産的損害は認定できないものの、不利益が発生していることが否定し難い場合には、慰謝料の増額という形でこれを斟酌する場合があります。

例えば、被害者が男性で顔面に外貌醜状を被るも、職業(建築関係)との関係で後遺傷害逸失利益は否定されたものの、当該醜状を気にするあまり対人関係や対外的活動に消極的になることを考慮して間接的に労働能力に影響を与えることを勘案して、後遺傷害慰謝料として1300万円を認めた事例があります(神戸地方裁判所平成25年3月14日判決)。

被害者の事情で通常よりも大きな精神的苦痛が認められた場合

特に女性が被害者である事例で、例えば交通事故時に妊娠中で、交通事故により妊娠中絶を余儀なくされた場合又は死産となった場合に、被害者本人の慰謝料とは別に胎児の死亡慰謝料を認定する場合があります(死産のケースとして大阪地方裁判所平成13年9月21日判決、妊娠中絶のケースとして静岡地方裁判所沼津支部平成7年10月27日判決)。

他方、被害者が交通事故によりうつ病・PTSDといった精神的疾患にり患した場合に、これらの事情を慰謝料の増額事由として考慮する事例があります(うつ病等の精神的疾患のケースとして仙台地方裁判所平成24年12月27日判決、PTSDのケースとして京都地方裁判所平成19年10月9日判決)。

慰謝料の減額事由として考えられる項目

過失相殺された

交通事故事案における過失相殺とは、交通事故を起こした過失が加害者のみならず被害者にも認められる場合に、加害者が被害者に賠償すべき金額から被害者の過失割合に相当する金額を控除して加害者の賠償義務を認めるという制度です(民法722条2項)。

留意すべきは、自賠責保険(被害者請求)との関係です。自賠責に係る被害者請求を行う場合に、傷害・死亡事案の両方とも3割までの被害者の過失は考慮せずに全額が認められることになります。すなわち、訴訟等で被害者に3割を超える過失が認められる場合には、場合によっては被害者請求による回収を先行させた方が、被害者の受領額の増額に繋がりますのでご留意ください。

被害者に既往症がある場合

被害者に既往症があり、これが交通事故と相まって傷害等の結果を生じさせた場場合には、その寄与度に従って、賠償額の減額がなされます(これを素因減額といいます。)。

この点について、最高裁判所に判例によると、被害者のある身体的な特徴が「疾患」に該当する場合には、素因減額が可能となりますが、これに該当しない場合には、素因減額は認められません(最高裁判所平成4年6月25日判決、平成8年10月29日判決等)。

実務上問題となるものとしては、頚椎後縦靭帯骨化症、椎間板ヘルニア、せき柱狭窄症などがあります。まず、頚椎後縦靭帯骨化症、椎間板ヘルニアについては、医学的な知見によると年齢とともに発症者が多数になるという性質ではないことから、基本的には「疾患」に該当するものと認められる傾向にあります。他方、せき柱狭窄症には、加齢的な変化が多数確認されていることから、直ちに「疾患」に該当するものと評価することはできないという傾向にあります。

交通事故による後縦靭帯骨化症(OPLL) 椎間板ヘルニアの後遺障害と認定に必要な因果関係 腰部脊柱管狭窄症になった時の後遺障害

損益相殺された場合

この事例の典型例は、搭乗者傷害保険金を被害者が受領したケースです。
搭乗者傷害保険とは損害保険の一種で、被保険者の搭乗者が交通事故により傷害を追った場合には、その損害を保険金でカバーする特約を付した保険をいいます。

この搭乗者保険金を被害者が受領したとしても、被害者の賠償額からは損益相殺はできないものとするのが判例ですが(最高裁判所平成7年1月30日判決)、その分慰謝料を減額しようとする裁判例があります(神戸地方裁判所平成22年10月28日判決)

適正な慰謝料を請求するためには弁護士に依頼しよう

被害者に弁護士が就かない場合には、保険会社との交渉においては自賠責基準又は任意保険基準での算定に終始することがあり、適正な慰謝料を獲得することは困難になります。そこで、適正な慰謝料を獲得するためにも法律の専門家である弁護士に委任するべきです。

弁護士特約が使えれば、費用負担なし

弁護士特約とは、損害保険に付加される特約で、交通事故に係る示談交渉・訴訟を行う場合に、弁護士費用及び訴訟費用を保険でカバーするという特約です。弁護士特約があれば、弁護士費用について自腹を切ることなく、弁護士に委任することができますので、大変有用な制度です。任意保険に加入の折には是非考慮にいれてほしい特約です。

弁護士費用特約について

保険会社との示談の前に、一度は弁護士に相談を

保険会社と示談をする前に弁護士に相談していただければ、裁判基準で交渉するなどにより賠償額の増額交渉も可能となります。したがって、保険会社に示談をする前に弁護士に是非相談をしてみてください。