相場より高い慰謝料が支払われるのはどんな時?

慰謝料には計算基準(後述)がありますが、いずれも絶対的なものではありません。慰謝料が個々の被害者の精神的な苦痛を損害として算定する性質のものである以上、本質的には個別具体的な事件ものでしか決定できないものなのです。他方、大量に発生する交通事故事件について、類似する事案によって慰謝料額が大きく異なるというのも交通事故処理の公平性を欠くことになります。それゆえ、一定の目安としての各基準が設けられたのです。

ところで、慰謝料には損害賠償の調整機能という性格があります。例えば逸失利益の増額では対処できないものについて、被害者の救済の観点から慰謝料を増額するといった機能のことです。したがって、個別事件の状況により慰謝料額が異なるというのはむしろ当然のことなのです。このような前提の下で、慰謝料の増額となりうる事由を紹介します。

加害者の帰責性が大きい場合

加害者が悪質な態様が交通事故を引き起こした場合にはその悪質さの責任も負うべきことは当然です。加害者は本来交通事故による損害を賠償する義務を負っていることから、交通事故後の自己の行為を交通事故による損害として賠償させることは妥当なのかという議論もありますが、交通事故の加害者の行為もその交通事故に付随する行為としてその行為により生じた損害についても賠償すべきとして慰謝料の増額事由として算定されます。

例えば、飲酒運転により交通事故を惹起した加害者が誠意ない謝罪を行い、これらが原因となって被害者の妻が自殺したような事例においては慰謝料として3600万円が認められました。

次に、15年以上無免許で運転していた加害者が酩酊状態で運転し、赤信号無視により交通事故を起こした事例において、その加害者が地面に頭から血を流して倒れている被害者を怒鳴りつけ、その体を持ち上げるように揺すり投げ捨てた行為を捉えて、慰謝料として総額3900万円を認められました。

さらに、酒気帯び運転で交通事故を惹起した加害者が刑事裁判で自らの過失を認め、治療費は全額負担すると証言したのに、治療費の打ち切りを一方的に宣言し、民事裁判では酒気帯び運転を否認する行為をとったことを捉えて、慰謝料として総額900万円がみとめられました。

被害者が妊婦の場合

被害者が妊婦の事例で交通事故に伴う治療により妊娠中絶を余儀なくされた事例において、慰謝料として150万円が認められた事例があります。

交通事故で流産してしまったら、慰謝料を請求できる?

自賠責の後遺障害等級が14級に至らない後遺症があった場合

例えば、交通事故で歯が欠損したとします。後遺障害の等級では3歯以上の欠損であれば第14級の認定を受けることができます。ところが、これが2歯にとどまると第14級の認定を受けることができません。このような場合に一定額の慰謝料の増額で調整した事例があります。

また、交通事故により痣などの跡が残った場合、顔面等の日常露出する部分について、例えば10円玉以上大きさの痣などがある場合に後遺障害等級の認定を受けることができますが、例えば10歳の女子で下肢の日常露出しない部分に痣が残ったような場合に200万円の慰謝料が認められた事例があります。

より上位の後遺障害等級にいたらなかった場合

高校三年生の女子生徒の左大腿部に縦12センチメートルの線状痕及び左ひざに縦約10センチメートルの線状痕が残った場合で、14級には該当するものの、それ以上の等級取得は難しい事例において、慰謝料として200万円が認められた事例があります。

逸失利益の算定が不能又は困難な状態にのため慰謝料で調整した場合

損害賠償項目において、逸失利益は、交通事故で受傷したことにより、労働能力が低下して、将来稼ぐことができた収入を稼ぐことができなくなったことを損害と捉えています。したがって、後遺障害が生じても将来の収入に影響しないような場合には後遺障害を負ったことによる逸失利益は発生しないことになります。このことが問題となり、逸失利益としては認められないが、慰謝料の増額で対応することで被害者の救済が図れた事例があります。以下で紹介します。

顔に傷が残った場合(外貌醜状)

専業主婦の被害者が顔面醜状を受傷した事例で、当該醜状は火事能力の低下をまねくものではなく、逸失利益は認められないが、慰謝料として1200万円が認められました。

歯が欠損した場合(歯牙障害)

外貌醜状と同じように交通事故により歯が欠損したとしても、将来の稼ぐ能力に影響しない職種はいくらでもあります。このような場合には逸失利益が否定されます。例えば、専門学校のアルバイト学生が被害者の事例では、逸失利益自体は否定されましたが、慰謝料として350万円が認められました。

においを感じにくくなった場合(嗅覚障害)

においを嗅ぐ能力が交通事故により障害を受けたとしても、将来の稼ぐ能力に影響しない職種はいくらでもあります。このような場合に逸失利益が否定されます。例えば、被害者が大学生のケースで他の症状もあわせても逸失利益自体は認められないが、慰謝料として600万円が認められた事例があります。

将来の手術費の算定が困難又は不可能なため慰謝料で斟酌される場合

RSDといういわゆる指先などの疼痛が止まない症状をり患した女性(職業は保険外交員)の被害者の事例では、症状固定後にも指先の疼痛緩和のために手袋をはめなければ、保険外交員の仕事は継続できないとしても、その手袋の買い替え回数等を算定することができないので、慰謝料として1500万円が認められた事例があります。

その他

被害者が大学生で交通事故により左卵巣が摘出された事例では、逸失利益自体は否定されたものの、慰謝料として270万円が認められた事例があります。

慰謝料と示談金は別物?

交通事故で怪我を負った被害者は保険会社等と示談をします。その際に示談金としていくばくかの金銭の支払いを受けることがあります。その場合の示談金は交通事故により怪我をしたことに基づく損害賠償金です。

その内訳は、実際に支出した治療費や交通費、逸失利益などの得べかりし利益、また各種の慰謝料です。そうすると交通事故の示談金は慰謝料を含んだものということができます。したがって、基本的には、怪我について示談金を受領したら、別途慰謝料を請求することはできません。

実際に慰謝料を計算してみたい方は以下の計算ツールを使うと簡単に計算することができます。以下のツールは慰謝料だけではなく逸失利益も計算することができ、損害賠償額全体のおおよその金額を確認可能です。

損害額自動計算ツール

慰謝料の相場はどう決まる?

おおよそ交通事故の損害賠償の計算基準には3つあり、低いほうから自賠責保険の基準(以下「自賠責基準」といいます。)、保険会社が独自に算定している基準(以下「任意保険会社基準」といいます。)及び裁判所において用いる基準(以下「裁判基準」といいます。)が存在しています。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険金額を支払うために設定された法令により定められた基準です。保険会社は自賠責基準に従って損害賠償額を算定しようとします。なぜなら、この場合には保険会社は、支払った金額を自賠責保険に対し求償することで回収できるからです。

任意保険基準

任意保険基準は自賠責基準とは若干高めですが、次に説明する裁判基準よりも低い基準です(おおよそ裁判基準の7割程度)。任意保険基準という明確な基準があるというものではなく、保険会社各社の損害賠償の基準の中央値を指しているものです。保険会社は通常は、裁判外の解決では、この基準の限度でとどめようとします。なぜなら裁判になると、裁判でした請求できないような基準や項目を孕んでいるからです。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準(裁判基準)とは。裁判所で裁判をする際に、算定の基礎として用いられる基準です。3つの基準の中では一番高額です。加えて、裁判になると、例えば弁護士費用(損害額の10%)を請求できるなど、損害賠償額の高額化に繋がる要素がでてきますので、保険会社としては、被害者の主張する障害や損害が間違いないのであれば、裁判外で示談をしたいと考えてくるのが通常です。弁護士が介入すると裁判基準が用いられるというのは、弁護士が介入すると、裁判の提起を見据えた解決が視野に入るので、おのずと裁判基準での解決となることによります。

交通事故で支払われる慰謝料にはどんなものがある?

交通事故による損害は、おおよそ3つに大別されます。

まず治療費等の実際に支出を余儀なくされる損害である積極損害、次に逸失利益を代表とする得べかりし利益の損害である消極損害、最後に交通事故による精神的苦痛を損害と捉えた慰謝料です。

そのうち慰謝料は交通事故実務においては、交通事故により受傷したことによる精神的苦痛に対する賠償のことを指します。そして、損害賠償の項目別に入通院慰謝料、後遺障害慰謝料及び死亡慰謝料に分類されます。

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、交通事故による受傷が原因で医療機関に入通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する賠償を指します。実務的には後記のとおり定額の基準により算出します。

後遺障害慰謝料

交通事故実務において後遺障害とは次のとおりと説明されます。

被害者が受傷した場合、身体の状態が交通事故前の水準まで回復する場合もありますが、治療を継続してもある水準以上は回復しない状態に至る場合があります。これを症状固定というのですが、その症状固定以後においても身体に残存する症状をいいます。

典型的なのは、身体の欠損です。現在の医学では身体の欠損が生じた場合にこれを完全に交通事故前の状態に回復させることはできません。したがって、身体の欠損が生じた状態が症状固定時期以後に残存することになります。このような状態を後遺障害といいます。なお、実務上後遺障害は、労災認定の際の等級とほぼ同じ基準で判断されます。

この後遺障害を受傷したことによる精神的な苦痛を損害と捉えて後遺障害慰謝料として損害として算定されるのです。そして、実務上は、等級に応じた定額の後遺障害慰謝料の額が定められております。

死亡慰謝料

交通事故により被害者が死亡した場合、その死亡により心が傷つけられる人は、大別すると2種類の人となります。まずは、死亡した本人です。次に、死亡した被害者の遺族です。この2種類の人の慰謝料を総じて死亡慰謝料といいます。死亡慰謝料についても一定の基準のもとで定額が定められていることになっております。

慰謝料はどのように算定されている?

自賠責基準

入通院慰謝料、死亡慰謝料の計算方法は、一律に決められており、例えば入通院慰謝料であれば、入院・通院を問わず1日4200円で計算します。そして、死亡慰謝料については、死亡者本人の慰謝料は350万円とされているなど法令で定められております。後遺障害慰謝料は、労災認定の等級に準じて、法令で定められております。例えば、他覚的症状のないむちうちの場合が多数該当する第14級の場合であれば、32万円となっております。

弁護士基準

入通院慰謝料の計算方法は、いわゆる「赤い本」の別表Ⅰ及び同表Ⅱにしたがって計算することになります。さらに死亡慰謝料については、いわゆる一家の支柱となっていた者であるかでまず区別し、一家の支柱の場合には2800万円、それ以外の者の場合、死亡者が母親又は配偶者のときは2500万円、その他の者のときには2000万円から2500万円までの範囲で決せられることになります。後遺障害慰謝料も「赤い本」に掲載されている基準で算出されるのが実務です。例えば、前記第14級の場合であれば、110万円となります。自賠責基準と比較した場合には差額78万円(裁判基準110万円-自賠責基準32万円=78万円)となります。

まとめ

以上のとおり、交通事故の慰謝料の算定には一応の基準があるものの、究極的には個別具体的な事件をもとに決めざるを得ません。その場合には自ら判断されるよりは、交通事故に強い弁護士に相談の上、決することをお勧めします。