残念ながら、妊娠中の女性が交通事故の被害に遭うケースもあります。もし妊婦が交通事故の被害者になった場合に、どのような慰謝料請求ができるのか見ていきましょう。

妊婦が交通事故で死産・流産した場合は慰謝料請求できるの?

交通事故に遭うと、ただでさえいろいろな問題が起こって大変ですが、妊婦が交通事故の被害者になってしまうと、さらに問題が深刻になります。妊婦の場合、交通事故が原因で死産してしまったり、流産してしまったりするおそれがあります。このように、妊婦が交通事故で死産や流産した場合、相手に対して亡くなった胎児の分の慰謝料請求できるのかが問題になります。

この点について、まず、亡くなった胎児自身が慰謝料請求することはできません。民法上、いろいろな権利を主張できる「人」となるのは出生後です。しかし、胎児はまだ生まれておらず、「人」だとは認められていないので、胎児の段階で死亡してしまった場合には、胎児自身が主体となって損害賠償請求することはできないからです。このことは、死産のケースでも流産のケースでも同じです。

ただし、この場合、まったく慰謝料が認められないわけではありません。死産や流産によって胎児を失うことは、妊娠中の母親にとって多大な精神的苦痛をもたらすものです。そこで、この場合、流産や死産したことは、母親の慰謝料増額事由として働きます。裁判例では、出産予定日が近いほど、慰謝料が高額になる傾向があります。たとえば、出産予定日4日前の胎児が死亡した事案において、母親に800万円の慰謝料を認めた裁判例(高松高判平成4年9月17日)、妊娠18週目で死産してしまったケースで350万円の慰謝料を認めた裁判例(大阪地判平成13年9月21日)、妊娠2か月で事故の衝撃によって流産した事案で150万円の慰謝料を認めた裁判例等があります。

初産の場合も慰謝料増額事由となりますし、長年不妊治療を継続していて、ようやく妊娠できたという事案などの場合にも、そのことをきちんと立証できれば慰謝料を増額できる可能性があります。

ただし、このように胎児を流産したり死産したりしたことによって慰謝料請求する場合には、流産や死産が交通事故によって起こったことを証明する必要があります。この因果関係が立証できないと、例え交通事故と近い時期に流産や死産をしていても、慰謝料の増額が認められないので注意が必要です。

交通事故が原因で生まれた子どもに影響が出た場合に慰謝料請求できるの?

妊婦が交通事故に遭った場合、流産などをしなくても、事故の衝撃が原因で生まれた子どもに何らかの障害などの影響が出ることがあります。たとえば、身体障害や知的障害をもって生まれてくることもあります。このような場合、子どもに障害などの影響が出たことについて、相手に対して慰謝料請求ができるのかが問題になります。

まず、この場合も、流産や死産のケースと同様、母親による慰謝料請求は認められます。また、子どもが実際に生まれてきた場合は、流産や死産のケースとは異なり、子ども自身の慰謝料請求も認められます。確かに、交通事故に遭った当時は胎児だったのですが、民法では、損害賠償請求権について、胎児の場合には既に生まれたものとみなすという規定があります(民法721条)。そこで、胎児が生まれてきた場合には、これにより、子ども自身が相手に慰謝料請求することができます。慰謝料の金額は、その障害の内容や程度によって異なりますが、後遺障害等級基準によって算定されるのが通常です。

たとえば、交通事故が原因で、緊急帝王切開によって出生したけれども重度の後遺障害を残した事案で慰謝料の支払いが認められた事案などがあります(最高裁平成18年3月28日)。 ただし、この場合にも、やはり立証が1つのハードルとなります。子どもの障害が、交通事故によって発生したという因果関係を証明しなければならないので、単に子どもが交通事故後に障害を持って生まれてきたと言うだけでは、必ずしも慰謝料請求が認められないので、注意が必要です。

交通事故で切迫早産しなければいけない場合は慰謝料請求できるの?

次に、交通事故が原因で、切迫早産しなければならなくなるケースがありますが、この場合にも慰謝料請求ができるかどうかが問題になります。この場合、母親自身が慰謝料請求出来ることは、上記でも説明した通りですが、それ以外に子ども自身が慰謝料請求できるのかが問題になります。この場合も、子どもは出生しているので、事故当時に胎児であったとしても損害賠償請求ができます(民法721条)。

そして、子どもが切迫早産によって未熟児で生まれてきたり、障害をもって生まれてきたりした場合には、それらの事情に応じて慰謝料が認められます。たとえば、交通事故によって妊娠7ヶ月目の切迫早産で出産し、子どもに高度な難聴と精神障害が残ってしまった事案では、後遺障害4級相当の障害が残ったと認定されて、後遺障害慰謝料600万円と逸失利益が認められました(東京地裁平成4年11月13日)。

また、交通事故が原因で予定日よりも1ヶ月半早く切迫早産してしまったので、子どもに後遺障害1級程度の障害が残ってしまった事案において、慰謝料1000万円と逸失利益を認めた裁判例もあります(千葉地裁昭和63年1月26日)。

このように、切迫早産の場合にも、それによって具体的に子どもに問題が発生した場合には子どもの慰謝料請求が認められますが、そのためにもやはり立証がハードルとなります。切迫早産が交通事故によって発生したという因果関係の立証も必要ですし、子どもに残った障害などが切迫早産(交通事故)によって起こったという因果関係の立証も必要になるので、かなりハードルが上がります。

また、子どもに具体的な障害が残らず、単に母親が切迫早産によって入院しただけでは、慰謝料増額が認められないことが多いです。

交通事故が原因で、子宮破裂や子宮内出血が起こった場合には、それによって子どもが死亡したかどうかで慰謝料の考え方が異なってきます。子宮破裂によって胎児が死亡した場合には、胎児自身が損害賠償請求することができないので、母親や父親の慰謝料として請求が認められます。たとえば、子宮破裂によって胎児が死亡した事案で、慰謝料2000万円と弁護士費用200万円の支払いが認められた裁判例などがあります(大分地裁平成9年2月24日判決。

胎児が死亡せずに生まれてきた場合には、子どもに障害が残ったケースなどには、子どもにも慰謝料請求が認められますし、受傷した母親自身にも慰謝料請求権が認められます。

仕事をしていない妊婦も休業損害を請求できるのか?

妊婦が交通事故に遭った場合、妊娠中の子どもに特に影響が及ばなくても、妊婦自身が入通院などすることによって家事労働ができなくなることが多いです。この場合、妊婦が休業損害を請求出来るのかが問題になります。休業損害は、交通事故によって働けなくなったため、その期間に対応した収入分の逸失利益の支払いを求めるものですので、基本的には仕事をして収入がある人に認められます。ただし、専業主婦などの家事労働者の場合にも、家事労働には経済的な価値が認められると考えられるので、休業損害が認められています。

妊婦の場合にも、もともと専業主婦や兼業主婦などで家事労働をしていた場合、事故によって家事ができなくなったら、休業損害を認めてもらうことができます。その際の支払基準は、自賠責基準の場合には、1日あたり5700円になりますが、弁護士・裁判基準の場合には、実収入を基準にします。

妊婦などの家事労働者の場合、具体的な実収入がないので、全年齢の女性の平均賃金(賃金センサスにもとづく)を利用する事になり、だいたい1日あたり1万円程度になります。ただし、妊婦の場合、もし交通事故がなかったとしても、出産の前後は入院が必要になったりして家事労働ができなくなったはずです。よって、このように事故がなくても働けなくなったであろう期間については、休業損害が減額されたり、一定期間0円になったりすることで、調整が行われます。

結論的には、妊婦にも、基本的に1日1万円程度の休業損害が認められるということなので、あきらめずに請求することが大切です。

妊婦の交通事故被害者にある制限とは?

妊婦が交通事故に遭うと、胎児や子どもに大きな影響が及びますし、母体に対する影響も深刻になりがちです。ところが、妊婦の場合、交通事故損害賠償の請求が他の人より難しくなるケースが多いです。それにはいくつかの理由があります。まず、妊娠中は、胎児に対する影響があるため、ただでさえ体調や身体に対する侵襲に気をつける必要があります。妊娠中は薬やアルコールを控えることが多いことからもわかるでしょう。

そこで、妊婦に対する検査方法が制限されることがあります。たとえば、X線を使ったレントゲン撮影などが困難になって、必要な証明ができなくなってしまうおそれがあります。妊婦の場合、このように、検査方法が制限されるので、物証が不足して、損害自体の証明や、損害と交通事故との因果関係の立証が難しくなる傾向があります。

後遺障害の認定を受けるためには、症状固定まで通院を続けて、医師に後遺障害診断書を書いてもらう必要がありますが、治療や検査をあまりしていないので、医師でも判断が難しくなります。すると、後遺障害診断書を書いてもらえなくなったり、書いてもらえたとしても、後遺障害診断書の内容が薄くなってしまったりして、後遺障害等級認定を受けられなくなってしまうおそれが高まります。また、妊婦の場合、胎児への影響などがあるので、受けられる治療方法が限られるという問題もあります。

検査方法も、内服薬も、外科治療も制限されてしまうので、通院しても医師によって充実した治療を受けることが難しく、通院治療を早期に打ち切られてしまうことが多いです。そうなると、治療日数が足りなくなるので、やはり後遺障害の等級認定は難しくなってしまいます。入通院慰謝料も、入通院の日数に応じて加算されていくものなので、治療日数が少ないと、少額になってしまい、不利になります。

入通院慰謝料3つの基準と計算の違いは?

さらに、妊婦の場合、交通事故後にさまざまな不調が起こることがありますが、これらの不調が交通事故によるものなのか妊娠によるものなのかの判断が難しく、因果関係の立証が困難になるケースがあります。たとえば、吐き気が起こったとしても、頸椎捻挫(むちうち)などによるものなのか、つわりによるものなのかがわからないといったことが起こります。

医師が「頸椎捻挫による神経症状の疑いが強い」などと診断書を書いてくれたら因果関係を証明できますが、実際には検査もできない状態なので、医師もこのような診断書を書いてくれないケースが多いです。胎児に障害が残った場合や流産、死産した場合などにも、それらの結果と交通事故との間の因果関係を証明することが難しくなりがちです。このように、妊婦が交通事故に遭った場合、検査や治療に制限があることなどから、通常のケースよりも交通事故の損害賠償請求が難しくなることが多いのです。

慰謝料請求・示談交渉は弁護士へ任せた方が良い!

以上のように、妊婦が交通事故に遭った場合、慰謝料請求の際にはたくさんの問題があります。交通事故後の慰謝料請求や示談交渉は、ただでさえ負担になるものですが、これが妊婦となると、さらに問題が大きくなります。妊婦の場合、強いストレスを感じるのも良くないですが、交通事故後の示談交渉では、相手保険会社から意に沿わないことも言われますし、大きな精神的ストレスがかかります。

また、胎児の流産や子どもの障害、休業損害や因果関係の立証問題など、通常のケースより検討を要するたくさんの問題があります。このように、妊婦が慰謝料請求する場合、とても被害者が一人で対応しきれない問題がたくさんあります。そこで、この場合、法律のプロである弁護士に慰謝料請求や示談交渉を依頼すべきです。弁護士であれば、妊婦の場合の慰謝料増額事由や子どもが慰謝料請求できる場合、妊婦の場合の因果関係の立証方法などをよく知っているので、難しい事案でも適切に損害賠償の手続をすすめてくれます。

さらに、弁護士に依頼すると、高額な弁護士・裁判基準で慰謝料を計算してくれるので、自分で交渉していた場合よりもかなり慰謝料の金額があがり、2倍3倍の金額になることなども多くあります。このように、妊婦が慰謝料請求や示談交渉をする際には、弁護士に相談して依頼する必要性がとても高いです。まずは、交通事故問題に強い弁護士に相談に行ってみましょう。

まとめ

以上のように、妊婦が交通事故に遭うと、いろいろな問題が起こります。流産や死産、切迫早産した場合の問題や、子どもに障害が残った場合の問題、休業損害を相手任意保険会社に支払い拒絶されたり、減額されたりした場合の問題などさまざまです。また、妊婦の場合には検査や治療の制限を受けるので、因果関係の立証が難しくなるなどの問題もあります。そこで、妊婦が賠償請求をするためには、弁護士に相談することが重要です。

弁護士に相談して示談交渉を依頼したら、すべての手続きを弁護士がしてくれるので、妊婦に無用なストレスがかかることもなくなり、妊娠中の胎児への悪影響も少なくなりますし、何より慰謝料の金額が上がります。

交通事故の被害者になってしまったら、今回の記事を参考にして、なるべく早めに交通事故問題に積極的に取り組んでいる弁護士に相談に行きましょう。