遺留分とはどんなもので、どのように請求すればいいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

遺留分とは何か?

遺留分とは、法定相続人(法律で、故人つまり被相続人の遺産を相続できると決められている人)が、最低限相続できる財産のことです。

法定相続人は、相続できる順位(相続順位)と、相続できる遺産の取り分(法定相続分)が法律で決められています。通常は、法定相続人が、相続順位に法定相続分に従って遺産を相続しますが、特定の相続人に全財産を相続させる遺言書があった場合など、一部の法定相続人が相続できない内容になっているケースもあります。そのようなケースでも、法定相続人は遺留分を請求することで、最低限の相続財産は相続できることになります。

各相続人と遺留分の割合

各相続人の遺留分は、法律で決められており、誰が相続するかで割合が変わります。遺留分がある法定相続人は、配偶者、子、直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母 など)です。兄弟姉妹も法定相続人ですが、遺留分はありません。遺留分の割合は、次のようになります。

遺留分の割合
相続人 受け取る人 遺留分
相続人が配偶者だけの場合 配偶者 2分の1
相続人が子だけの場合 2分の1
相続人が配偶者と子の場合 配偶者 4分の1
4分の1
相続人が直系尊属だけの場合 直系尊属 3分の1
相続人が配偶者と直系尊属の場合 配偶者 3分の1
直系尊属 6分の1

以下はイラストで遺留分の割合を解説したものになります。(札束1つを100万円として、遺産が1200万円の例を示しています。)

相続人が配偶者だけの場合、遺留分は二分の一 相続人が子だけの場合、遺留分は二分の一
相続人が配偶者と子の場合、遺留分は配偶者も子も四分の一 相続人が直系尊属だけの場合、遺留分は三分の一
相続人が配偶者と直系尊属の場合、遺留分は配偶者が三分の一、直系尊属が六分の一

遺留分がもらえない場合はあるの?

遺留分は、必ずもらえるとは限りません。

まず、遺留分は自分で請求しないともらうことはできません。また、次のようなケースでは、そもそも遺留分はもらえないことが法律で定められています。

  • ・相続人が被相続人を虐待したなどして廃除されたケース
  • ・遺留分を法定相続人が自ら放棄したケース
  • ・相続が開始したときから10年が経過したケース

遺留分の対象となる財産とは?

遺留分の対象になる財産は、具体的には、次のように計算します。

遺留分の対象財産=(相続開始時の財産)+(生前贈与した財産)-(相続債務)

相続開始時の財産とは、被相続人の相続が開始した時、つまり亡くなった時の財産をいい、遺言書で贈与することを指定した財産も含まれます。

生前贈与した財産には、次の2種類の財産が含まれます。

相続開始1年以内に贈与された財産

被相続人の相続が開始する前1年以内に贈与された財産は、遺留分の対象財産に含みます。相手が相続人かどうかは関係ありません。相続開始より1年以上前にされた贈与は、贈与した側と相手側の双方が、遺留分を持つ法定相続人に損害を与えると知りながら贈与した場合に限り遺留分の対象財産に含みます。

相続人に生前贈与した特別受益になる財産

特別受益とは、一部の相続人が、被相続人の生前にもらった不動産や金銭などの財産をいいます。生前贈与された時期や、遺留分がある相続人に損害を加えることを知っていたかどうかにかかわらず、遺留分の対象財産に含まれるのが原則です。

相続債務とは、借金などのマイナスの財産を指します。
このように、遺留分は、全財産が対象になるわけではないのでご注意ください。

遺留分を請求できるのは誰?

遺留分は、誰でも請求できるわけではありません。遺留分を請求できる人のことを「遺留分権者」と言いますが、遺留分権者は相続人の中でも次の人に限られます。

  • ・被相続人の配偶者
  • ・子ども(既に子どもが死亡していた場合は被相続人の孫も含む)
  • ・直系尊属(親、祖父母など)

例えば、被相続人の兄弟姉妹は、配偶者や子ども、親と同じように法律で決められた法定相続人ですが、遺留分権者ではありません。被相続人が生前に世話になっていたからと言って、そもそも相続人にならない嫁(義理の娘)や離婚した配偶者や愛人、会社の同僚や友人などは遺留分を請求することはできません。

遺留分を請求する方法とは?

遺留分を請求することを「遺留分減殺請求」といいます。これは、相続財産を独り占めして、遺留分権者の権利を侵害している相続人に対して「侵害している自分の遺留分を返せ」と請求することをいいます。

遺留分減殺請求は、「遺留分を請求する」という意思を示すことでできるので、わざわざ裁判を起こす必要はありません。ただ、実際には揉めることが多いので、裁判まで持ち込まれることも少なくありません。具体的には、次のような方法で請求していくことになります。

①通知

遺留分が侵害されている場合、侵害している相続人に対して、書面で遺留分減殺請求の意思表示を記した通知をします。書面は、文書の内容、誰が誰に宛てて送ったのかを郵便局が証明してくれる内容証明郵便で、配達記録を付けて送ることをお勧めします。

遺留分減殺請求は、遺留分が侵害される原因となった贈与などを知ったときから1年以内に請求しなくては消滅時効にかかって権利がなくなってしまうので、できるだけ早く請求する必要があります。まだ相続財産の全貌や遺留分の金額が明確に分っていない場合でも、まずは通知を行って時効にかからないようにしておきましょう。

②計算

実際に遺留分減殺請求をしていくために、上記でご説明したように相続財産を調査して、遺留分の額を算出し、ご自身の遺留分がどのくらい侵害されているかを計算します。

③交渉

遺留分が侵害されている額が明らかになったら、相続人間で減殺されている遺留分を返してくれるように交渉しましょう。まずは遺贈、次に生前贈与の順に、直近の贈与から順番に遺留分減殺請求をしていくのが通常です。

④調停・裁判

相続人間の協議で話がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停は、第三者が間に入って行う話し合いの一種ですが、話し合いがまとまって裁判所書記官が作成した調書には、確定した判決と同様の効力があり、後になって不服を申し立てることはできなくなります。調停でも話し合いが決着しなければ、裁判所に訴訟を提起して、判決で結論を出してもらうことになります。

遺留分の請求に期限はあるの?

遺留分減殺請求には期限があります。具体的には、次の2つの期限に気を付ける必要があります。

第1に、被相続人が死亡し、自分の遺留分を侵害している贈与や遺贈を知ったときから1年以内に遺留分減殺請求を行使しないと、遺留分減殺請求は消滅します。
この場合、被相続人が死亡したときではなく、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときからカウントが始まるので、相続から1年が過ぎても諦めずに遺留分減殺請求を行使してください。

第2に、相続開始の時から10年以内に遺留分減殺請求を行使しないときにも権利は消滅します。
この場合、自分が相続人ではなくなったことを知らなかった場合でも10年経過すると遺留分減殺請求ができなくなるので注意してください。

このように、遺留分減殺請求は2つの基準で消滅しますが、請求するときには、きちんと期限内に請求したということを証明できる方法で行うことが重要になります。具体的には、上記でご説明したように、相続財産等の具体的な金額が定まっていなくてもまずは通知を行うこと、その通知は意思表示をした日時を証明してくれる内容証明郵便で行うことがポイントです。

遺留分を渡さない方法はあるの?

遺留分減殺請求を主張されたけれど渡したくない場合、大きく分けて次の2つの方法を取ることができます。

①資格がある遺留分権者から遺留分減殺請求を受けた場合

遺留分権者の特別受益を主張する

特別受益とは、被相続人の生前に、相続人が不動産や金銭など特別の贈与を受けていたことをいいます。遺留分権者が特別受益を受けていた場合は、遺留分の金額から特別受益額がマイナスされるので、遺留分権者が生前贈与を受けていたか、確認してみることをお勧めします。

遺産の評価額を見直す方法

遺留分は、最低限認められる最低限の割合なので、特に不動産評価額を見直すなどして遺産の額を減らすことで、他の相続人の遺留分の金額を減らすことが可能になります。完全に支払いを拒否することはできませんが、遺留分の額を減らすうえでは有効です。

②遺留分権者に資格がないことを主張する場合

兄弟姉妹が遺留分を主張してきたケース

兄弟姉妹は、法定相続人ですが、遺留分権者ではないので、兄弟姉妹が「遺留分をよこせ」と請求して来たとしても、応じる必要はありません。

遺留分権者が相続欠格者のケース

相続欠格とは、相続人の資格がない人のことをいい、具体的には、被相続人を殺害したり、殺害の事実を知りながら隠していた場合、被相続人をだましたり強迫して遺言書を書かせたり、遺言することを妨害した場合、遺言書を破棄したり、偽造したり、隠すなどしたケースが欠格事由にあたります。
また、相続欠格にはあたらなくても、相続人が被相続人を虐待したり侮辱したりしていた場合は、裁判所に相続人廃除の申立をすることができます。

相続放棄をしたケース

相続人がそもそも相続放棄をした場合は、遺留分の権利も失うので、相続放棄をした相続人が遺留分だけよこせと請求することは認められないので、払う必要はありません。

寄与分と遺留分はどちらが優先されるの?

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特に貢献した相続人がいる場合に、その貢献度合をその人の相続分に反映することで、相続人同士の公平を保とうとする制度です。
他方、遺留分が発生するのは、被相続人が、法定相続分とは異なる遺産の分け方を遺言書などで指定していたために、最低限の取り分ももらえない相続人がいた場合です。

寄与分を主張する相続人と、遺留分を主張する相続人がいる場合に、どちらが優先されるかという問題は、相続で生じやすいトラブルの一つです。法律では、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかは決まっておらず、それぞれのケースで、被相続人にどれだけ貢献したかと、被相続人との関係の深さが考慮されます。

遺留分と寄与分が問題になる具体例としては、夫が亡くなり、相続人として妻と2人の子どもAとBがいた場合に「すべての財産をAに相続させる」という遺言書を残していたケースが考えられます。
とすると、妻とBは財産を全然もらえないことになるので、遺留分が侵害されているとして遺留分減殺請求をすれば、遺留分は認められるのが基本です。

このとき、妻とBが遺留分減殺請求をしたことに対して、Aが父の介護を一手に引き受けていたり、生前に財産を管理していたことを主張して、寄与分があるから遺留分は認めないと主張できるのかというと、これは難しいケースが大半です。というのも、遺留分減殺請求を起こされる時点で被相続人から多くの贈与を受けているので、それに加えて寄与分を主張するのはやりすぎと考えられるからです。
例外的に、被相続人とほとんど接点がなかった相続人が現れて遺留分だけを請求してきたようなケースでは、裁判で寄与分の優先が認められる可能性もあります。

反対に、遺留分を侵害する寄与分が認められるかどうかについては、過去の裁判でこれを認めたものもあります。
実務では、寄与分の割合を決める際には他の相続人の遺留分を侵害するかどうかを考慮する必要があり、遺留分を侵害する寄与分が認められるのは、相続人が被相続人に貢献した度合が特別に大きい場合に限られると考えられています。

遺留分は身内で揉めやすい?

遺留分は、相続の際に身内でもめやすい問題です。
というのも、前述のように、遺留分は、被相続人が法定相続分とは違う割合で遺産を残したいと考えて遺贈したり、特定の人に生前贈与をしていたような場合に、財産をもらえない相続人が出てくるために発生します。

他人に生前贈与をしたり、遺贈するケースもなくはないですが、多くの場合、被相続人が子どもの一人にだけマンションを買っていたり、同居して介護してくれていた身内に全財産を残す遺言書を残していたなど、身内で財産の取り分の不公平が生じているとして問題になりがちです。

遺留分は、法律で定められた権利なので、自分の遺留分が侵害されていると考えた相続人(遺留分権者)が遺留分減殺請求をすれば、基本的には認めてもらえるのが実務です。
しかし、身内で請求しても話し合いが紛糾してもめごとが大きくなり、調停や裁判になるケースも少なくありません。特に、先ほどお話したように遺留分と寄与分の主張が身内でぶつかり合う場合には、身内だけで解決するのが難しい場合もあります。

遺留分について弁護士に相談するメリット・デメリットとは?

遺留分で悩んだりもめたりした場合に、専門家に相談するかどうか悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、法律の専門家である弁護士に相談するメリットとデメリットをご紹介します。

遺留分を弁護士に相談するメリット

①遺留分の計算から相談することができる

遺留分がどれだけあるかは、被相続人の財産を把握したうえで、生前贈与や遺贈があったかどうかを調べ、さらに借金などのマイナスの財産を引いて考えなければいけません。弁護士に相談すると、どういう財産が遺留分を計算する際の対象になるか、遺留分がいくらになるかも調べてアドバイスをもらうことができます。

②代理人として交渉してもらえる

弁護士に頼めば、ご本人の代理人として代わりに交渉してもらうことができます。遺留分でもめると、相続人同士で顔も見たくないというほどトラブルが大きくなったり、感情的になって話し合いが進まないこともあります。弁護士に代理人として交渉してもらうことで、確実に話し合いを進めてもらうことができます。

③裁判になった場合も任せることができる

遺留分をめぐる話し合いが当事者間で解決できなかった場合には、調停や裁判に移行することになります。
裁判になると、決められた日に出廷しなければならあいので、特に会社勤めをしている人には大きな負担となりますが、弁護士に頼めば代わりに裁判に出て手続きや主張を任せることができます。
なお、法律の専門家には、司法書士や行政書士もいますが、裁判に関する手続きを扱えるのは弁護士だけです。

遺留分を弁護士に相談するデメリット

遺留分の問題を弁護士に相談するデメリットとしては、費用がかかる点です。法律相談については、無料で対応しているところもありますが、有料の場合は30分5,000円、1時間1万円というのが相場です。

実際に依頼する場合の弁護士費用の目安は法律事務所によってさまざまで、一律の金額のところもあれば、財産の20%というように金額によって異なるところもあります。遺留分は、遺産の算定など複雑な計算が必要になることも多いので、相続問題に詳しい弁護士や法律事務所を探して、まずは相談してみましょう。

まとめ

遺留分は、相続をめぐる問題の一つですが、相続は多くの人が関わる問題です。遺留分の問題では、相続人同士が納得していないと、身内の不仲の原因になる等、後々までトラブルが続くこともあります。
また、実際に遺留分について話し合う際には、遺留分の計算という専門的な考慮が必要になりますし、時効の期間内に減殺請求をしなければならない等時間的な制約もあります。被相続人の意思を尊重しつつ、相続人同士の公平を図って、納得のいく解決をするために、遺留分をはじめとする相続の問題でお悩みの際は、お気軽に弁護士にご相談ください。