相続人が事件を起こして逮捕されてしまった場合、相続財産はどうなってしまうのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。

遺産目当ての殺人!遺産は相続できる?できない?

民法は、一定の事由がある場合には相続人となることはできないと定めています(民法891条)。
この事由を欠格事由といい、被相続人、自分より先順位の推定相続人、自分と同順位の推定相続人を故意に死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられたことは、欠格事由のひとつです(同条1号)。
したがって、上記の者に対する殺人で刑に処せられた者は、相続することはできません。

逮捕された人以外に相続人がいなかった場合、財産はどうなるの?

まず、相続人がいないという点について注意が必要です。

例えば、父はすでに亡くなっており、母と子1人というケースを想定してください。
母の推定相続人は子1人ですが、この場合に子が母を殺して刑に処せられたとすると、子は相続人になることはできません。
そうなると、一見相続人がいないようにみえますが、欠格事由に該当する場合であっても、子に直系卑属(子、孫など)がいる場合、直系卑属は代襲相続することができます。

代襲相続する者もおらず、相続人がいない場合には、相続財産は法人となり、利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所が選任する相続財産管理人が清算手続を行うことになります。

清算後に残った財産は、特別縁故者がいればその者に全部または一部が分与され、特別縁故者がいない場合、または特別縁故者に分与しても財産が残った場合には、国庫に帰属することになります。

他にも相続人はいるけれど、殺されたのを知っていて黙っていたらどうなるの?

被相続人が殺害されたことを知って告発、告訴をしなかったことも、相続欠格事由とされています(891条2項)。
ただし、幼児のように是非弁別の能力がない者や、犯人が自己の配偶者、直系血族であった場合は例外とされています。
したがって、このような例外に当たらない限り、相続をすることはできません。

相続を済ませた後に遺産目当ての殺人だと判明!財産は没収されるの?

遺産分割がなされた後に相続人の一人に欠格事由があったことが判明した場合、他の相続人は、相続権を侵害されたとして相続回復請求をすることができます(民法884条)。
ただし、この権利は相続権が侵害されたことを知ったときから5年または相続の開始があったときから20年の経過によって消滅します。

なお、遺産分割から相当期間が経過した後に欠格事由が判明し、すでに財産がなくなってしまっているような場合、相続回復請求には物権的返還請求権の規定が類推適用され、表見相続人(相続人のように見えるが欠格事由があるため相続人ではない者)は、損害の全てを賠償する義務を負うと考えられます。

遺産目当ての殺人以外で逮捕された場合、遺産は相続できる?できない?

これまで紹介したものも含めて相続欠格事由を整理すると、次のようになります。

  • ・故意に被相続人または、先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたため刑に処せられた者
  • ・被相続人が殺害されたことを知って、告発、告訴しなかった者
  • ・詐欺または強迫によって、被相続人が遺言をすること、遺言を撤回、取消し、変更することを妨げた者
  • ・詐欺または強迫によって、被相続人に遺言をさせ、または遺言の撤回、取消し、変更をさせた者
  • ・遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者

たとえば、被相続人にけがをさせようと考えて暴行を加えたところ、打ちどころが悪かったため結果的に被相続人が亡くなってしまった場合(傷害致死の場合)、故意に人を死亡させたわけではないので、欠格事由には該当しません。不注意で被相続人を死亡させてしまった場合(過失致死罪)の場合も同様です。

他方、殺すつもりがあったが、被相続人が一命をとりとめた場合(殺人未遂の場合)、故意に人を死亡に至らせようとしたわけですから、この罪で刑に処せられた場合には、欠格事由に該当することになるため、相続することはできません。

また、相続人の一人が、自分の取り分を増やすため、他の相続人を脅迫して自分に有利な遺産分割をさせようとしたり、相続放棄をさせようとしたりした場合、脅迫罪が成立しますが、被相続人に対し遺言に関して脅迫したわけではないので、欠格事由には該当しません。

なお、強迫による意思表示は瑕疵ある意思表示であり、取り消すことができます(相続放棄の取消について民法919条2項)。

ただし、欠格事由にあたらなければどんな罪を犯しても相続できるというわけではありません。
この点については以下で解説します。

無期懲役、または○○年の禁固刑の場合、遺産は相続できる?できない?

相続欠格と同様、推定相続人が相続できないようにする制度として、相続人の廃除があります。
推定相続人に次のいずれかの事情があるとき、被相続人は家庭裁判所に対し、相続人の廃除を請求することができます(民法892条)。

  • ・被相続人を虐待したとき
  • ・被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • ・その他著しい非行があったとき

相続欠格が、欠格事由がある場合には当然に相続人になれないのに対し、廃除の場合、被相続人の請求が必要とされている点に違いがあります。

なにをもって「著しい非行」とするかは一概には言えませんが、相続人の廃除は被相続人との信頼関係を破壊させたことに対する制裁と理解されていることからすれば、推定相続人が無期懲役あるいは長期の懲役・禁錮に処せられた場合、このような重い刑罰を科せられるほどの重大犯罪をおこなったことにより被相続人との信頼関係が破壊されたとして「著しい非行」と評価される可能性は十分にあります。
したがって、被相続人が廃除の請求をした場合、相続できない可能性が高いといえるでしょう。

まとめ

相続欠格と相続人の廃除を中心に、相続人が罪を犯した場合の相続問題について解説しましたが、欠格事由・廃除事由に該当するかといったことや、相続回復請求はどのようにすればいいかといったことなど、複雑な問題を多く含んでいますので、相続についてお悩みの方は早めに弁護士に相談する方がいいでしょう。