生前贈与では注意すべきことがあります。生前贈与が成立するためには、どのような条件が必要か詳しく見ていきましょう。

二種類ある生前贈与

生前贈与をすると、相続税を節約できることがあります。生前贈与とは、贈与契約によって、贈与者が受贈者に対し、生前(生きている間)に贈与をすることです。贈与契約とは、贈与者が、自分の財産の一部や全部を、受贈者に譲ることを内容とする契約のことです。

生前贈与をする場合、配偶者や子ども、孫などを相手にすることが多いですが、まったくの他人に対して生前贈与することも可能です。
生前贈与をする場合、対象にできる財産の種類は、贈与者のあらゆる財産です。たとえば現金預金、車、生命保険、家や土地などの不動産、株式などの有価証券など、どのようなものでも贈与の対象になります。

不動産も生前贈与できる?生前贈与の方法とメリット・デメリット

生前贈与を行う場合、基本的に贈与税がかかってきますが、贈与税には控除や特例があるので、贈与税をかけずに生前贈与する方法があります。
具体的には、暦年贈与と相続時精算課税制度があるので、以下でご紹介します。

暦年贈与

生前贈与を行う場合、暦年贈与という方法を利用すると、贈与税の支払いをせずに済みます。贈与税には基礎控除があり、1年に110万円までの贈与分には贈与税がかかりません。そこで、毎年110万円までの生前贈与を行っていれば、贈与税はかからないのです。
このように、1年に110万円以内の贈与をし続けることを暦年贈与と言います。
暦年贈与は1年を通算して計算されるので、110万円分の贈与は一括して行われるものである必要はありません。

相続時精算課税

生前贈与を行う場合に贈与税を支払わずに済む方法の2つ目として、相続時精算課税制度があります。これは、親や祖父母が子どもや孫に対して生前贈与する場合に利用できる制度です。
相続時精算課税制度を利用すると、2500万円までの贈与分に対する贈与税がかからなくなり、2500万円を超えた分については、一律に20%の贈与税が課税されます。
相続時精算課税制度を利用した場合、完全に非課税になるわけではありません。贈与者が死亡して実際に相続が起こった場合には、贈与分を相続財産に足してその全体の価格に対して相続税が課税されることとなります。

暦年贈与課税と相続時精算課税のどちらがいいのか

生前贈与の方法として、暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを利用すべきかについての判断は、ケースによって異なります。
暦年贈与を行う場合には、毎年110万円ずつしか贈与ができないので、まとめて多額の贈与をしたい場合などには向きませんが、積み立て感覚で少しずつ贈与をしたい場合などには向いています。
相続時精算課税制度を利用すると、贈与税はかかりませんが後に相続税が課税されることになるので、相続財産がたくさんあって、多額の相続税が課税されそうなケースなどではあまりメリットを得られない可能性もあります。
反対に、生前贈与分以外の相続財産があまりないケースでは、これを利用する事によって贈与税も相続税も支払いが不要になる可能性が高いです。

生前贈与が成立する条件

贈与する側と贈与される側の両方の合意が必要

生前贈与は贈与の1種ですが、贈与は贈与契約という契約行為です。よって、生前贈与をする場合には、贈与者と受贈者が贈与の合意をする必要があります。
贈与者が受贈者の同意を得ないまま、一方的に相手に財産を贈与することはできません。
たとえば、税務署は、親が子ども名義で秘密の預金をしていたようなケースでは、子どもによる同意がないので贈与契約とはみなさず、親からの相続財産として相続税を課税してくることもあります。

贈与された側が財産を所有・管理し、自由に使える状態であること

税務上において贈与であると認められるためには、贈与を受けた側が、贈与財産を管理して、自由に処分できる状態であることも必要です。
たとえば、父親が子ども名義で預金をしたとしても、実際にその預金を管理しているのは父親であって、父親が亡くなるまで子どもはその預金に手をつけることができないというケースでは、生前贈与と認められない可能性があります。

贈与契約書を両者で交わしておく

生前贈与であることを税務署に認めてもらうためには、贈与契約書をきちんと交わしておくことが重要です。
一般的に、親子間や配偶者間ではわざわざ契約書など作らなくてもよいのではないかという考えもありますが、税務調査の際などには、本当に贈与が行われたのかを厳しくチェックされます。
とくに、親のお金を単に子ども名義にしているだけという「名義預金」だとみなされると、贈与とは認められず、相続税が課税されることになってしまいますので注意が必要です。

贈与される側が黙って生前贈与しようとする

贈与は贈与契約という契約なので、当事者双方の合意が必要です。贈与者の意思に反して無理矢理贈与させることはできませんし、贈与者の知らない間に他人や受贈者が勝手にその財産を贈与することはできません。
たとえば、子どもや第三者が父親や祖父を脅して無理矢理自分に贈与させたり、父親が気づかない間に勝手にその財産の贈与を受けようとして、贈与契約書を作成してお金を移動させたりしたケースです。
このような贈与契約は当然無効ですし、不法行為も成立します。
生前贈与を行う場合には、必ず贈与者の承諾を得て、その意思にもとづいて行う必要があります。

税務署は銀行などに情報開示を求めることができる

相続が起こった場合、本当に生前贈与が行われていたのかについては、税務署は非常に厳しく審査します。このとき、税務署は銀行などの金融機関に対して取引履歴などの開示を求めることができるので、そこで不審なお金の動きがあったり、贈与とみられるお金の動きがなかったりすると、生前贈与は認められません。
たとえば、暦年贈与をしようとしたケースで、1年に110万円ずつ移動するのが面倒なので、2年に1回220万円ずつの移動をしていたケースでは、結局2年に1回110万円分の暦年贈与しか認められないことになります。(毎年きちんと110万円を移動していれば1年に110万円分の暦年贈与ができたはずです)
このように、税金は、銀行預金の客観的な取引履歴をもととして課税されます。それが有効な行為か無効な行為かについて、当事者が知らなかったとしても、その善意悪意とは無関係に課税が行われるので、注意が必要です。

まとめ

以上のとおり、生前贈与を行う場合には、いろいろな注意点があります。贈与をする場合には、贈与する人と贈与を受ける人の双方による合意が必須となります。また、暦年贈与を利用すべきか、相続時精算課税制度を利用すべきかという手続き方法の選択の問題がありますし、どちらの方法をとるとしても、確実に税務署に贈与と認められてもらうために、しっかり証拠を残しておく必要があります。
相続時には厳しい税務調査が入ることもあるので、どのような調査をされても対応ができるように、適切な方法で生前贈与をすすめる必要があります。