遺留分減殺請求とは

旧法のもとでは、相続は、身分的地位の継承を意味するものでした。いわゆる家督相続です。しかし、現代日本の民法は、私有財産を認めて、その人がなくなればその私有財産は、その亡くなった人と一定の親族関係があったものに譲られることとしています。また、その亡くなった人(被相続人)は、継承される人(相続人)を、遺言によって選ぶことができます。

被相続人が遺言を残さなかった場合、民法では、相続人を決めてその割合が決められています。この民法上相続人となる人を法定相続人といいます。

もし、被相続人が遺言書に「自分の財産は、すべて、○○さんにあげる」と書いていたら、そのとおりになるでしょうか? 民法においては、遺族である法定相続人にあたる人が、全く財産をもらえず生活に困窮してしまうことがないように、残された遺族に、最低限の相続分を認めています。これが「遺留分」と呼ばれるものです。

遺留分の割合は、以下のとおりです。
・ 直系尊属(例えば両親)のみが相続人の場合は、相続財産の3分の1
・ それ以外の場合は相続財産の2分の1
・ 兄弟姉妹はなし

遺留分についてくわしく

遺留分は、法定相続人が認められている正当な権利ですが、請求しなければ、遺留分の支払いを受けられることはありません。つまり、遺留分権利者が実際に遺留分の返還を受けるには、遺留分の請求をする必要があるのです。この請求を「遺留分減殺請求」といいます。

遺留分減殺請求をする方法には、特に法律上の制限はありません。口頭でも有効です。しかし、遺留分減殺請求には、次に述べるように期限(時効)がありますから、確実に証拠を残しておく必要があります。そこで、内容証明郵便など書面による通知を行います。 遺留分は、法で定められた権利ですから、正当な事由がないかぎり、退けることはできません。

遺留分減殺請求には時効がある

前述のように、遺留分滅殺請求には時効があります。

民法 第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

つまり、遺留分減殺請求権については、2つの期間の制限があります。

1つ目の期間の制限

1つめは、民法第1042条前段の時効による消滅です。つまり、「贈与または遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅」します。

ただし、あくまで、相続の開始等のいずれかを「知った時」からカウントしますから、相続が開始されていたことも、減殺すべき贈与があることも、遺贈があったことも知らなければ、消滅時効期間は進行しません。

判例では、このうち減殺すべき贈与または遺贈を「知った時」とは、単にその贈与や遺贈がなされた事実を知ったというだけではなく、その贈与等によって自分の遺留分額が侵害され、さらに、減殺請求の対象となるということまで認識している必要があると解されています。被相続人が亡くなったということを知ったというだけでは時効は開始されません(最判昭57.11.12.民集 36・11・2193)。

相続開始等から1年以上が経過していようとも、相続開始等を知らないままであれば、時効によって消滅することはないということです。

2つ目の期間の制限

2つめの期限の制限は、同条後段の部分です。後段に、相続開始時から10年を経過した場合も、遺留分減殺請求権が消滅としています。ただし、これは消滅時効ではなく、除斥期間であると解されています。

除斥期間とは、「法律上認められている存続期間であり、その期間が経過すると権利は消滅する」というものです。つまり、遺留分減殺請求権は、以下の期間内にしか行使できないということです。

相続開始の時から10年を経過すると、遺留分滅殺請求ができなくなります。また、除斥期間には中断がありません。つまり、いったん相続が開始されると、中断がなく、請求できなくなります。

時効を中断させる方法はあるの?

前記のとおり、遺留分減殺請求権は、1年で消滅してしまいます。逆に言えば、一度でも遺留分を請求しておけば、消滅時効を防ぐことはできるのです。時効を中断させる必要はありません。

なぜなら、この1年という制限は消滅時効ですから、時効中断が可能なように思われますが、遺留分減殺請求権は形成権ですから、請求や催告などをすれば当然に減殺の効果が生ずるものと解されているからです。

つまり、時効中断という形をとらなくても、上記期間内に、1回でも、遺留分減殺請求権を行使(催告や請求など)しておけば、それ以降、遺留分減殺請求の消滅時効は問題となりません。

これは、あくまでも「遺留分滅殺請求権」についての消滅時効や除斥期間のことであって、遺留分滅殺請求によって生じた金銭債権等は、その債権に関しては消滅時効の対象となります。たとえば、遺留分滅殺請求をして、金銭を遺留分としてもらえることになった場合、遺言によって相続した相続人から、遺留分のある相続人が、金銭債権を取得したことになります。そのため、この金銭債権についての消滅時効が開始されるのです。要するに、遺留分滅殺請求権を行使したことによりあらたにできた金銭債権等の権利についてはそれぞれ、時効中断の措置を取る必要性がでてきます。

遺留分滅殺請求の行使

前述のように、口頭による請求も有効ですが、もし、法的手続きをとることになった場合、いついつ意思表示を誰に対して行ったかという、書面による証拠が必要になります。

一番簡単な方法は、内容証明郵便を送る方法です。送付した相手方ごとに効力がありますので、遺留分が請求できる可能性のある人全員にそれぞれ、郵便局と差出人の手元に送ったものと同じ内容の控えが残る内容証明郵便で請求の書面を送付することが望ましいといえます。

内容証明郵便の費用は、1000円から2000円程度です。内容証明郵便の取り扱いがない郵便局もあるので、事前に確認する必要があります。インターネットで手続き可能な電子内容証明郵便サービスもあります。内容証明郵便の書面作成を、弁護士に依頼した場合、弁護士報酬は3万円から5万円ぐらいです。

遺留分減殺請求をすると、マイナスの遺産(借金)も負うことになるの?

遺産が債務超過(プラスの遺産と特別受益の合計よりもマイナスの遺産が多い状態)の場合は、遺留分算定の基礎となる財産が存在しないので、遺留分減殺請求ができません。また、被相続人が債務超過であった場合、遺留分権者は遺留分を取得できませんが、負債については自己の法定相続分に応じた支払をしなければならなくなります。

ただし、相続財産の評価方法を変更したり、実体のない債務を除外するなどの方法により、一見債務超過となっている相続であっても、遺留分減殺請求が認められることがあります。

遺言書に「遺留分を争うな」と書いてあったら請求できなくなるの?

遺贈または贈与の減殺請求は、法律で定められている権利です。たとえ、遺言書に書いてあっても、請求は可能です(民法 第1031条)。法定相続人が最低限の遺産取得分である遺留分の侵害を受けた場合には、遺留分減殺請求ができます。

遺留分減殺請求されたらどうしたらいいの?拒否はできるの?

遺留分は相続人に認められた権利ですから、請求されたら拒否することはできません。遺留分が正当と認められれば、その分を相続人に渡さなければならないのです。遺留分として現金や不動産を現金に換えて支払うこともできますし、もちろんそのまま返還しても構いません。

ただし、請求権者の請求が不当に高いもの、不動産など、方法により評価がわかれる財産が含まれるような場合は、相手方の請求に根拠がないことを証明して、減額や、請求を拒むことも可能です。そのためには、しかるべき査定が必要になってきます。

ただし、仮に時効が成立しているにも関わらず、いったん相手方の請求を認めてしまうと、遺留分を請求された相続人は、時効の成立を主張できなくなり、請求を認めなければならなくなるので注意が必要です。

遺留分減殺請求の方法

法定相続人は、内容証明郵便によって相続人に遺留分滅殺通知を送り、返還についての交渉を開始します。お互いが合意をして話し合いの決着がついたら、合意書を作成します。その内容に従って遺留分の返還を受けることができます。相手が話し合いに応じない場合や、話し合いをしても合意ができなかった場合、それ以上交渉をしても解決することができないため、別の手段で請求する必要があります。

話し合いをする場合、専門家を入れず、相手方と直接交渉が可能です。しかしながら、遠方に住んでいて、直接交渉ができない、あるいは、直接交渉したくない場合は、弁護士などの代理人をたてて話し合ってもらうという方法があります。

話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所へ調停の申し立てを行います。調停では、当事者双方が、調停委員を通じて話し合いを行います。遺留分減殺調停をする場合には、相手の住所地の管轄の家庭裁判所で、遺留分減殺調停を申し立てる必要があります。必要な書類は以下の通りです。

  • ・ 申立書及びその写し(家庭裁判所に書式があります)
  • ・ 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
  • ・ 相続人全員の戸籍謄本
  • ・ 被相続人の子どもや代襲者で死亡している人がいる場合、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
  • ・ 不動産登記事項証明書(遺産や贈与財産に不動産が含まれている場合)
  • ・ 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • ・ 相続人が父母であり、父母の一方が死亡している場合には、その死亡の記載のある戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本

これらの書類を揃えたら、家庭裁判所に調停の申立をします。費用としては、収入印紙1200円分と予納郵便切手が数千円程度かかります。

話し合いが合意に至れば調停が成立ということになり調停調書が作成されます。それをもとに、遺留分の手続きが行われます。調停の場合、合意することは強制されませんので、お互いが合意に達しない場合、不成立となります。

訴訟を行う場合、請求する遺留分の額が140万円以下は簡易裁判所、140万円以上になれば地方裁判所へ訴訟を起こします。弁護士などの代理人を立てて、手続きをする場合がほとんどです。これらの手続きを弁護士に依頼した場合、弁護士報酬が必要です。弁護士報酬(着手金、報酬金など)は、遺留分滅殺請求を行う金額によります。

裁判所の手続きの手数料の収入印紙の額も請求金額によります。別途、郵便切手代の5000円から6000円の郵便切手も必要です。

まとめ

遺留分滅殺請求をするには、遺留分を正確に計算する必要がありますし、有効な遺留分通知書を作成しなければなりません。交渉については、感情的な対立が起こることが多く、自分たちだけでは解決にならない場合が多くあります。

相続人も、遺留分をもつ法定相続人も、手続きを冷静かつ迅速にするためには、遺産相続に強い弁護士に委任するほうがよいのです。期限の問題もありますから、早めに弁護士に相談し、手続きをしてもらいましょう。