会社経営者が亡くなった場合の相続は、通常の相続と違うところはあるでしょうか?
配偶者がすでに亡くなっており、3兄弟がいるが、その中で、長男は父の会社の跡を継ぎ、二男、三男は後を継がないという事例で考えてみます。

長男は後を継ぎ、三男の私は後を継ぎませんが遺産はもらえますか?

会社の後を継ぐか継がないかに関わらず、相続は平等ですから、原則として子はそれぞれ3分の1の相続があります。ですから、三男も遺産をもらうことはできます。

但し、長男が長年父親と一緒に働いていて、会社の発展に貢献し、これによって株式の価値が上がって、結果的に父親の財産が増加していたというような場合には、長男に寄与分が認められる可能性があります。

寄与分とは

寄与分とは、被相続人の財産の維持・増加に寄与しながら、その生前中に対価・補償を受けていなかった場合に、公平の観点から、相続のときにその寄与に応じた特別の持分を与えることを言います。

民法904条の2では、「事業に関する労務の提供、財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」によって、「被相続人の財産の維持又は増加」のために「特別の寄与」をした相続人に寄与分が認められるとされています。

寄与分を主張したい | 証拠や主張するための流れ

寄与分が認められる場合、遺産の分け方はどうなるの?

寄与分が認められる場合には、遺産から、その寄与分を差し引きます。例えば、遺産が2,000万円あって、長男にそのうちの500万円の寄与分がみとめられた場合、三兄弟は、遺産2,000万円から寄与分500万円を差し引いた1500万円を平等に分割します。その結果、長男は寄与分を含めて1,000万円を受け取り、次男、三男は、500万円ずつを受け取ることになります。

なお、長男に寄与分が認められる場合でも、父親の財産のすべてを長男が作ったということはありえないことですから、他の兄弟の持ち分が0になることはありません。

また、長男が、その働きに対して、すでに十分な対価(給与・役員報酬)を受けていたような場合には、寄与分は認められません。

株式は現物をもらえますか?もしくはお金を請求できますか

最高裁判所昭和45年1月22日判決により、株式は、相続人の準共有となります。

準共有とは、数人が共同して、所有権以外の財産権を共有している状態を言います。準共有になっている財産は、遺産分割でその分け方を決めます。

例えば、自宅不動産を相続した場合、3兄弟がそれぞれ共有持ち分3分の1を持っている共有状態になります(この場合は、自宅不動産の「所有権」なので、「共有」です)。その後、3人で話し合って、その分け方を決めることになります。不動産を売却してその売却代金を分けることもできるし、兄弟のうちの1人が、不動産を取得し、残りの2人が自分の持ち分に相当する金銭を受け取ることも考えられます。この場合に受け取る金銭のことを「代償金」といいます。

株式も不動産と同じように考えられます。違うのは、不動産は、実物を分割することは困難ですが、株式は、何株ずつと実際の分割も可能であるという点でしょう。

そこで、選択肢としては、①株式を3人で、何株ずつと決めて分けるか、②長男がすべての株式を取得して、次男と三男には代償金を払うかということになります。

会社法174条では、「株式会社は、相続その他一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる」とされていますから、株式を受け取っても、会社から、株式を売り渡してほしいと請求されることもあるので、相続で株式を受けとる場合には、あらかじめ会社の定款をチェックしておきましょう。

なお、株式を持つということは、その会社の株主になるということですから、会社の経営権が関わることになります。株式には、大きく分けて、議決権と配当という権利がついています。しかし、親族経営の会社では、長男が会社の過半数の株式を持っていれば、次男や三男は、経営に影響力を持てる機会がほとんどありません。さらに、親族経営の会社だと、株式を所持していても、配当が出ないことが多いので、次男や三男が、株式をもらうことにメリットがないことも多いものです。

そこで、後を継がない三男は、代償金をもらった方が得だというこということが多くなります。

代償金は、どうやって計算するのですか?

株価は日々、変動するものです。上場会社であれば、公開された株価があります。しかし、上場していない会社の株式は、税理士に、株式の議決権割合や、利益・配当・純資産などから、その価格を算定してもらう必要があります。

そして、その価格の算定で争いが生じる場合もあります。

長男や会社の顧問税理士が出してきた株式の価格をそのまま信じることなく、他の弁護士や税理士にも相談してみることが必要になる場合もあるでしょう。

自宅や車などは会社名義で父名義の財産はあまりありませんが、株式以外に請求できるものはありますか?

会社名義の財産は、会社のものですから、お父さんの遺産ではありません。会社の株式の評価の中に含まれてしまっています。

相続の対象になるのは、あくまでもお父さん名義の財産だけです。

貸付金

お父さんが、会社に貸付をしていた場合には、その貸付金は、相続財産になります(会社に返済能力があるかどうかはきちんと見極めましょう)。

連帯保証債務

一方、会社の代表者は、会社の債務を連帯保証している場合もあります。その場合には、負債も相続財産ですから、その3分の1を相続してしまうことになります。

そこで、遺産分割のときに、新しい会社代表者となる長男にすべて引き継いでもらうとか、長男が新たな連帯保証人として銀行と契約するなどしてもらって、債務を引き継がないように注意しましょう。

まとめ

相続に、会社が絡む場合、財産が誰の名義かという問題、跡継ぎの寄与分の問題、会社の株式の価値の算定の問題などがあります。しかも、会社の承継には、税金も大きく関わってきます。

このような相続の場合は、自己判断せずに、法律相談及び税務の相談を受けた方がいいでしょう。