相続では、寄与分で問題となるケースもあります。そこで今回は相続の寄与分について詳しく見ていきましょう。

そもそも寄与分って何?

相続が起こったとき、特定の相続人に寄与分が認められるケースがあります。

寄与分とは、相続人が相続財産の増加や維持に特別に貢献した場合、その寄与度に応じて相続人の相続分を増やすことです。

相続の場面では、法定相続人が法定相続分に従って遺産を分けることが基本です。しかし、相続人の中に、被相続人の家業を無給で手伝ってきた人や、被相続人を献身的に介護してきた人などがいる場合、その貢献を評価しないで単純に法定相続分で遺産を分けてしまうと、かえって不公平になってしまいます。

そこで法律は、このように遺産の維持や形成に貢献した人には寄与分を認めてその相続分を増やし、相続人間の公平をはかっています。

寄与分が適用されると、寄与者の相続分が増える分、他の相続人の相続分が減ってしまうので、寄与分の適用や評価を巡って相続人間でトラブルが起こることが多いです。

以下では、どのような場合に寄与分が認められて、寄与分の評価がどのように行われ、どのようにして遺産分割をしていくのかなどをご説明します。

寄与分は誰にでも認められるのか?

まずは、誰に寄与分が認められるのかという問題があります。

寄与分は、共同相続人に認められるものです。よって、共同相続人以外の第三者には認められません。

たとえば、被相続人を献身的に介護していた職業介護人や被相続人と仲の良かった友人知人、被相続人に親切にしていた他人などには寄与分は認められませんし、無給で被相続人の会社を手伝っていた会社の部下にも寄与分はありません。

そうではなく、相続人である娘が介護していた場合や、息子が無給で会社を手伝っていた場合には寄与分が認められます。

ここでよく問題になるのが、相続人の配偶者です。相続人の配偶者は相続人ではないので、基本的には寄与分が認められません。

ただ、長男の嫁などが、長年献身的に被相続人を介護してきたケースなども多いです。このような場合長男の嫁による寄与を長男自身の寄与と同視して、長男に寄与分を認めて長男の遺産取得分を増加させることでバランスをとっています。

次に、寄与分はどのような行為に認められるのかが問題になります。

寄与分には、いくつかの類型があり、具体的には以下のとおりとなります。

家事従事型

家業従事型の場合とは、被相続人の家業を相続人が手伝っていた場合です。たとえば、被相続人が経営していた店などを、相続人である息子が無給または著しく少ない給料で長年手伝ってきたようなケースです。家業を手伝っていても、普通通りに給料を受け取っていたら寄与分は認められません。

家事従事型の寄与分が認められるには

金銭出資型

金銭出資型とは、相続人が被相続人のためにお金を出した場合です。たとえば、被相続人が事業を始める際にまとまった援助をしたり家を買ってあげたりした場合などです。

金銭出資型の寄与分を評価する方法

療養介護型

療養看護型は、相続人が被相続人を介護療養した場合です。この場合、相続人と被相続人との身分関係から通常期待される程度以上の看護をする必要があります。

たとえば、娘が結婚もせず、仕事に出ることもなく母親の介護に専念してきたようなケースでは療養介護型の寄与分が認められます。反対に、通常の日常生活を送りながら手が空いたときにちょこちょこ介護をしており、ほとんどはデイサービスなどを利用していたようなケースでは寄与分が認められません。

療養看護型の寄与分とは

扶養型

扶養型の寄与分が認められるケースは、相続人が被相続人の生活の面倒を見ていたケースです。生活費のお金を渡すケースもありますし、実際に生活全般の面倒を見ていたケースもあります。

どちらにしても、相続人と被相続人の身分関係から当然期待される程度をこえる寄与があることが求められます。

扶養型の寄与分とは

財産管理型

財産管理型の寄与分とは、相続人が被相続人の財産を管理することによって、財産の増加や維持に貢献した場合です。

たとえば相続人が不動産の管理をしていたために管理会社に支払う費用が浮いた場合や、家の売却の際に相続人が買い主を探したり売却交渉をしたり、賃借人の立ち退き交渉をしたりして、業者に依頼する費用が浮いたケースなどがあてはまります。

財産管理型の寄与分に必要な要件

寄与分には基準や相場などがあるのか?

寄与分が認められる場合、その金額はどのくらいになるのかが問題です。寄与分をどのように評価するかということです。

寄与分の評価方法については、寄与分の類型によって異なります。

まず、家事従事型の場合、本来受け取ることができたはずの給料が基準になります。ただし、被相続人と同居していた場合には、生活費を控除する必要があります。

次に、金銭出資型の場合には、実際に支出した金額が基準になります。

療養看護型の場合には、職業介護人を雇った場合にかかった費用が基準になりますし、扶養型は、実際に支出した実費の費用や毎月支払ってきた扶養料の合計などが基準になります。生活保護基準が適用されることもあります。

財産管理型の場合には、専門の管理業者に依頼した場合にかかった費用を基準にします。

これらの金額については、全額が寄与分として認められるとは限らず、裁判所が事案に応じて裁量的な割合を用いて減額することも多いです。

このように、寄与分の金額は、ケースによって異なってくることもあるので、一概に「いくら」と決定することは難しい面もあります。

寄与分に優先順位はあるのか?

寄与分のことを考える際、複数の人に寄与分が認められる場合にどのように取り扱うのかと疑問に思うことがあるかもしれません。

この場合、誰の寄与分が優先されるのかが問題になりそうです。寄与分に優先順位はあるのでしょうか?

確かに理屈ではこのような問題がありそうですが、実際には寄与分の優先順位を考える必要はありません。寄与分は、遺産の金額を超えて適用されることがないからです。

たとえば、遺産が3000万円あって、AさんとBさんの2人に寄与分が認められるとします。このとき、Aさんの寄与分とBさんの寄与分の合計は必ず3000万円以下になります。よって、AさんとBさんは、全額寄与分の満足を受けることができるのであり、どちらかの優先順位を決める必要はないのです。

当事者が自分達で話し合う場合にも、相続財産を超えた寄与分は設定出来ませんし、裁判所が遺産分割方法を指定する場合にも相続財産を超えた寄与分を認定することはありません。

よって、複数の人に寄与分がある場合、どちらが優先すべきかということは考える必要がありません。また、誰の寄与分を優先すべきと言う法律の規定もないので、遺産分割の際に寄与分がある人がいる場合には、話し合いによって、お互いの寄与度に応じて遺産分割をしていくことになります。

寄与分があると相続の算定方法に影響があるのか?

寄与分がある場合、遺産分割の際の計算方法に影響があります。

寄与分がある場合、その寄与分については寄与者が多く受け取るように計算しなければなりません。具体的には、以下のようになります。

この場合、まずは遺産総額から寄与分の評価を引いた金額を計算します。これをみなし相続財産と言います。

そして、みなし相続財産を法定相続分に応じて分割します。そして、法定相続人がその計算されたとおりの金額を受け取り、寄与者はさらにそれに足して、寄与分の評価額を受け取ることができます。

わかりやすいように、具体例を見てみましょう。

相続人が子ども4人の場合で遺産総額が3000万円、長男が1000万円の寄与をしていたケースを考えてみます。

このとき、遺産総額である3000万円から長男の寄与分1000万円を引きます。すると、みなし相続財産は2000万円です。これを兄弟4人で分けるので、それぞれ500万円ずつを取得します。

ただ、長男は1000万円の寄与分があるので、それを足して1500万円受け取ります。

結果として、長男が1500万円、次男・三男・四男がそれぞれ500万円ずつ受け取ることになり、長男の寄与が正当に評価されていることがわかります。

もし寄与分を考慮しなかった場合、単純に3000万円を4等分するので、兄弟はそれぞれ750万円ずつ相続することになります。この結果と比べると、寄与分を考慮したことにより、遺産分割方法が大きく変わっていることがわかるでしょう。

寄与分は自分で主張することができるのか?

寄与分は、誰がどのようにして主張するのかという問題があります。

そもそも、誰も主張しなかった場合、寄与分を評価してもらうことはできるのでしょうか?この点、誰も主張しないと、寄与分の評価は行われません。実際には生前に大きな寄与をしていたとしても、寄与分が無視されたまま相続が進んでしまいます。

そこで、寄与分があると考えられる場合、自分が主張しなければなりません。自分の寄与分が認められたら他の相続人の遺産取得分が減るので、寄与分について、通常他の相続人が主張してくれることは期待できないからです。

寄与分について自分が主張しても他の相続人がこれを認めずにトラブルになることも多いです。

まずは遺産分割協議の際に、自分に寄与分があることと、その評価額を主張する必要があります。ここで他の相続人が納得してくれて協議ができればその内容で解決することができますが、他の相続人との意見が合わなければ、家庭裁判所で遺産分割調停をする必要があります。

遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入ってくれて、寄与分を含めた遺産分割の話し合いをすすめてくれます。話し合いができたら調停が成立してその内容で寄与分を考慮した遺産分割ができます。

しかし、調停では当事者に結論を強制できないので、調停によっても遺産分割が整わないことがあります。その場合には、遺産分割調停が遺産分割審判に移行して、裁判所が遺産分割の方法を決定することになります。

このとき寄与者が自分の寄与分を認めてほしい場合には、寄与分の申立も同時に行って、裁判所に寄与分の認定をしてもらう必要があります。

このようにして審判で適切に寄与分を主張して寄与の事実を立証することができたら、裁判官が寄与分を認定してくれるのでその内容で寄与分を考慮した遺産分割ができます。

このように、寄与分を認めてほしい場合、寄与分があると考える人が自分で主張して手続をすすめていく必要があるので、注意しましょう。

寄与者と特別受益者が同一人物だった場合

遺産分割の場面では、特別受益が問題になる事も多いです。

特別受益とは、相続人の中に被相続人から特別に利益を得ていた人がいる場合の利益のことです。特別受益がある場合、受益者の相続分から特別受益分を減額することができます。

たとえば、遺言や生前贈与などによって高額な財産を譲り受けた相続人がいる場合などに特別受益があるとみなされます。

特別受益がある場合でも、同時に寄与分が認められるケースがあります。

被相続人から生前贈与を受けていた特別受益者が、同時に被相続人の財産の増加に貢献した寄与者であった場合、どのような取扱になるのでしょうか?

この場合、特別受益者であっても寄与分を主張できるのかが問題です。

この点、特別受益者も寄与分も、両方とも相続を公平に行うための制度です。

そこで、ひとりの相続人が寄与者であり、かつ特別受益を受けている場合には、すでに寄与分については生前贈与などによって評価されているとして、寄与分の評価も特別受益の評価もしないことになります。

つまり、特別受益の持ち戻し計算もせず、寄与分による調整もせず、もともとの法定相続分に従って相続手続をすすめることとなります。

なお、寄与者と特別受益者が異なる場合で、受益者が受けた特別受益によって遺産が減少してしまっている場合、寄与者が寄与分を取得するために特別受益者に遺産の返還を求めることはできません。寄与分は、あくまで残っている遺産に対する取得分であり、すでに贈与された財産に対してまでの取得分は認められないからです。

遺言で寄与分を定めることはできるのか?

寄与分は、遺産分割協議の際に相続人同士が話し合って決定する必要があります。このとき、相続人らの意見が合わずにトラブルになることも多いです。そうであれば、遺言によって寄与分を指定しておき、相続のトラブルを避けることができないかが問題です。

ここで遺言がどのようなものかを考えていればわかることですが、遺言によって寄与分を指定することには、あまり意味がありません。

遺言によって特定の相続人や受遺者に財産を残したいなら、直接的にその人に「いくらの遺産を遺贈する」、と書けば良いからです。わざわざ「寄与分を認める」などと書く必要はありません。また、寄与分という制度は、実際にどのような寄与をどの程度行ったかが問題になるものなので、寄与分を遺言者が自由に指定できるというものでもありません。

そこで、遺言によって寄与分を指定することはできません。

ただ、遺言者が特定の相続人の遺産取得分を増やしたい場合には、その相続人に対して多めに遺産を相続させる内容で遺言を残しておけば、目的を達成することができるので、問題はありません。

まとめ

今回は、遺産分割の場面で問題になることの多い寄与分について解説しました。

遺産分割の際、被相続人の生前に遺産の増加や維持に特別に貢献した相続人がいる場合には、寄与分を認めてその相続人の遺産取得分を増やすことができます。

寄与分は共同相続人のみに認められるものであり、寄与分が認定されるためには、通常期待される程度を超える特別の寄与である必要があります。家事従事型、療養看護型、金銭出資型、扶養型、財産管理型などの類型があります。

寄与分がある場合、寄与者の遺産取得分が増えるので、遺産分割の計算に影響を及ぼします。

また、寄与分と特別受益や遺言との関係についても正しく理解しておくべきです。

寄与分が主張されると、他の相続人がそれを認めず相続トラブルが起こってしまうことが多いので、相続問題が起こったら、相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

今回の記事を参考にして、寄与分が問題になるケースでも、トラブルを避けながらスムーズに相続手続をすすめましょう。