相続したくても、相続人がいないケースもあるでしょう。そこで今回は、相続人がいない場合の相続について詳しく見ていきましょう。

相続人がいない場合、相続財産は誰に渡るの?

民法では、人が亡くなったときに残された相続財産については、法定相続人が相続することと定められています。法定相続人は、被相続人(亡くなった人)の配偶者や子ども、親や兄弟姉妹など、被相続人と一定の関係にあった人です。

これらの法定相続人がまったくいない天涯孤独な人などの場合には、相続財産が誰のものになるのかが問題です。このように、相続人がまったくいないケースのことを「相続人不存在」といいます。

相続人不存在の場合には、利害関係人や検察官によって「相続財産管理人」が選任される必要があります。そうでないと、相続財産の処分ができません。

相続財産管理人を選任する場合には、被相続人の最終の住所地の家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立をします。相続財産管理人が選任されたら、その旨が公告されて、相続債権者(被相続人に対する債権者)や受遺者(遺贈を受けた人)に対して相続財産管理人が選任されたことを知らせます。また、同時に、相続財産管理人は戸籍などを取り寄せて相続人を捜索します。

さらに、相続財産管理人は、相続財産の換価をすすめて、相続債権者に対して必要な支払をして、受遺者に対しては遺贈を受けるかどうかの意思確認をします。遺贈を受けるということであれば、受遺者に必要な分与を行います。

その後、相続財産管理人は、相続人捜索の公告を出しますが、期間内に相続人からの届出がなかった場合、特別縁故者が遺産の分与の申立をすることができます。

家庭裁判所によって特別縁故者への相続財産分与が認められたら、相続財産管理人は、特別縁故者に対して裁判所が定めた分の遺産の分与を行います。

このようにして、すべての必要な支払いを終えた後、残りがあったらその相続財産は国庫に帰属します。以上のように、相続人がいないケースでは、遺産は最終的には国のものとなります。

相続人がいない場合、第三者が相続財産をもらうことはできるの?

相続人がいない場合、第三者が相続財産をもらうことができるケースがあります。

まず1つ目は、特別縁故者が遺産を受け取るケースです。

相続人がいない場合、相続財産管理人が選任されて、債権者に対して必要な支払いをしたり、受遺者に対して必要な分与を行ったりしますが、その後相続人捜索の公告をします。相続人からの届出がない場合には、特別縁故者の申立によって特別縁故者に遺産の分与を行うことができます。この場合の特別縁故者は、相続人ではない第三者です。

特別縁故者として認められる可能性があるのは、被相続人と生計をともにしていた人や、被相続人の療養看護をしていた人、その他被相続人と特別の縁故があった人です。

たとえば、被相続人の内縁の配偶者や事実上の養子養親関係にあった人などは、特別縁故者になります。

また、相続人ではない親族や友人知人などの中に、献身的に被相続人の看護や介護をしていた人がいる場合にも、特別縁故者として認められる可能性があります。

そのほか、被相続人と非常に親密な付き合いがあった人(法人を含む)がいる場合にも、特別縁故者として認められる可能性があります。

特別縁故者として認められるためには、相続人捜索の公告によって相続人の不在が確定してから3ヶ月以内に家庭裁判所に対して相続財産分与の申立を行う必要があります。

これによって、家庭裁判所から特別縁故者であることが認められて、受けるべき相続財産の額が決まったら、その内容に応じて遺産を受け取ることができます。

相続人ではない第三者が遺産を受け取ることができる2つ目のケースは、被相続人が遺言を残している場合です。このケースについては、次項で詳しくご説明します。

相続人がいなくても、被相続人が第三者に相続財産を渡すことはできるの?

相続人がいなくても、被相続人自身が第三者に相続財産を渡すことができる方法があります。それは、遺言を残す方法です。この方法によっても、相続人ではない第三者が相続財産を受け取ることができます。

遺言とは、被相続人の最終の意思内容を明らかにする書面のことですが、遺言によって、遺言者は自分の財産の処分方法を決めることができます。

そこで、遺言によって、第三者宛に自分の遺産を分与することを定めておけば、その第三者に対して遺産を与えることができます。

たとえば、内縁の妻がいる場合、内縁の妻は相続人ではないので、放っておくと内縁の妻自身が特別縁故者として相続財産分与の申立をして認めてもらうしかありません。また、申立をしても、特別縁故者として認められるという保証はありませんし、どこまでの財産(遺産)分与が認められるかも分かりません。

ここで、遺言によって内縁の妻に全部の遺産を残すことを定めておけば、その遺言内容通りに内縁の妻にすべての遺産を確実に残すことができて安心です。

遺言をすると、血縁関係はないけれども、生活の面倒を見てもらったなどでお世話になった人に対して遺産を分与することもできます。

また、遺言によって相続財産を分け与えることができる相手は、個人だけではないので、

法人に対して財産を遺贈することもできます。遺言による寄付行為も可能なので、各種の団体などに対して財産を寄付することも可能です。

内縁の配偶者や特にお世話になった人などもまったくいない天涯孤独な人の場合には、遺言によって財産を公共団体や任意の団体に寄付することによって、自分の財産を有用に使ってもらうことが可能です。このように、遺言は、相続人がいない人の場合にも大変役に立つので、是非とも上手に活用しましょう。

まとめ

相続人がいない人の場合、自分の死後の相続トラブルの心配がないので、相続財産の行方についてあまり心配しないかもしれません。しかし、内縁の配偶者がいて、婚姻届を提出していない場合には、内縁の配偶者には相続権がないので、原則的に遺産を受け取ることができません。この場合、相続人不存在事案となるので、家庭裁判所で相続財産管理人が選任されて特別縁故者の申立が必要になり、大変面倒な手続きを経ないと内縁の配偶者は遺産を受け取ることができません。

また、本当に天涯孤独で自分の遺産を分与すべき人がいないケースであっても、遺言によって自分の財産を有用に使ってもらう方法を検討しておく価値が充分にあります。

このように、相続人がいない場合の相続財産処分については、いろいろと検討すべき問題が多いです。自分では、どのような方法がベストかについて判断できないことがあるので、迷ったときには弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士であれば、ケースに応じたもっとも適切な解決方法をアドバイスしてくれますし、自分の希望に応じた相続財産処分方法を提案してくれることでしょう。