特別受益の対象はどのような財産が挙げられるのでしょうか。遺産相続の手続きを行う場合は、特別受益者や財産範囲についても考える必要があります。詳しく見ていきましょう。

特別受益について

特別受益とは

特別受益とは、一部の相続人が、被相続人から遺贈を受けたり、婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与を受けたりした利益のことをいいます。
相続によって相続人が取得する財産は、相続財産に法定相続分をかけて算定するのが原則ですが、相続人の一部が被相続人から生前贈与などの利益を受けている場合には、原則通りの処理では相続人間に不公平が生じてしまいます。そのために設けられた制度が、特別受益です。

特別受益者の範囲

被相続人から生前贈与を受けた相続人

特別受益の対象となるのは、共同相続人の中で、被相続人から遺贈または婚姻・養子縁組・清家氏の資本として生前贈与を受けた者です。
つまり、すべての贈与が対象となるわけではなく、相続人でない者に対する遺贈や生前贈与も対象にはなりません。

被代襲者に対する生前贈与等

被相続人、被相続人の子、被相続人の孫がいる場合に、被相続人より先に子が死亡し、その後に被相続人が死亡した場合、被相続人の子に代わって孫が相続することになります。これを代襲相続といいます。また、上の例でいえば、子を被代襲者、孫を代襲者といいます。
被相続人が、被相続人の子(被代襲者)に生前贈与をしていた場合、その時点では被代襲者は推定相続人であり、もし被相続人のほうが先に死亡すれば、特別受益の対象となったはずです。被相続人の孫(代襲者)は、被相続人の子(被代襲者)に代わって相続人の地位を取得するにすぎませんので、被代襲者が相続する場合よりも有利な地位を得ることはできません。
したがって、被代襲者に対する生前贈与等は、代襲者の特別受益となります。

代襲者に対する生前贈与

被代襲者の死亡前に代襲者に対する贈与等がなされた場合、代襲者はその時点では推定相続人ではないので、特別受益の対象にはなりません。
他方、被代襲者の死亡後に代襲者に対する贈与等がなされた場合、代襲者はその時点で推定相続人であるため、特別受益の対象になります。

推定相続人となる前の生前贈与等

生前贈与をした後に、贈与を受けた者と婚姻や養子縁組をした場合、贈与の時点では推定相続人ではないため、特別受益には当たらないのが原則です。もっとも、贈与の時点で婚姻や養子縁組が決まっており、そのために贈与がなされたような場合には、婚姻後または養子縁組後の贈与に準じて扱ってもよいと考えられ、特別受益の対象になります。

相続人の配偶者その他の親族に対する生前贈与等

相続人の配偶者その他親族に対して贈与等がなされた場合、配偶者その他親族は推定相続人ではないため、原則として特別受益に当たりません。
しかしながら、贈与の経緯や贈与された物の価値、性質などからして、名義上は配偶者に対する贈与となっていても、実質的には相続人への贈与であると評価できるような場合には、相続人に対する贈与とみなされ、特別受益の対象となりこともあります。

特別受益財産の範囲

婚資

婚資とは、持参金、支度金など、婚姻のために支出してもらった費用のことで、原則として特別受益に当たります。
他方、結納金や挙式費用は、遺産の前渡しという性質はないこと、また挙式については親の世間に対する社交上の出資という性質が強いことなどから、特別受益には当たらないと考えられます。

高等教育のための学資

教育費の援助は、一定の範囲で「生計の資本」としての贈与に該当し、特別受益の対象になります。
ただし、親には扶養義務があり、義務教育を受けさせることはその範囲にありますから、義務教育に要する費用は含まれません。また、現在の高校進学率にかんがみれば、高等学校教育も特別な支出とは考えられないでしょう。
ですから、特別受益の対象となるのは、大学以上の教育や留学などの高等教育の費用に限られることになります。
また、大学以上であっても、被相続人の収入、職業、社会的地位などから、子どもにその程度の教育を受けさせるのは特別なことではないと考えられるような場合には、特別受益には該当しないと判断されることもあります。

不動産の贈与

子どもが結婚して独立する際に、居住用の土地建物などを贈与したような場合、「生計の資本」としての贈与に該当します。不動産は一般に高額な財産ですから、不動産の贈与は、原則として生計の資本としての贈与にあたり、特別受益に含まれるでしょう。

動産、金銭、社員権、有価証券、金銭債権の贈与

これに対し、動産、金銭、有価証券などの贈与が特別受益に当たるかは、一概には言えません。特別受益と認められるためには、被相続人の職業、収入、社会的地位などに照らし、その額が遺産の前渡しと評価できる程度の額であることが必要になります。

借地権の承認

被相続人の借地権を、同居する相続人の名義に書き換えたような場合、相続人は、借地権の価値に相当する贈与を受けたものと評価できます。借地権の価値は、土地の価値の何割かに相当する高額なものですから、特別受益の対象となります。ただし、借地権を譲り受ける際に、相続人が借地権相当の対価を支払っていたような場合には、通常の取引と同視できるので、特別受益の問題は生じません。 これに対し、借家の場合には、借家権の設定、承認は原則として特別受益には当たらないとされています。

借地権の設定

被相続人の所有する土地の上に、相続人の一人に借地権を設定した場合、借地権相当額の贈与を受けたものと評価できますから、原則として特別受益に当たります。ただし、借地権設定の際、相場並みの対価を支払っている場合には、通常の取引と同視でき、贈与とは言えないので、特別受益にはあたりません。

遺産を無償で使用できることによる利益

  1. 遺産である土地の上に相続人の一人が建物を建て、土地を無償で使用している場合

    被相続人と相続人との間で土地を無償で利用する使用貸借契約が結ばれたものと評価できます。土地をただで利用できる権利の設定を受けたわけですから、一般に特別受益に該当するといわれています。
    使用貸借権の設定により、土地の価値は1割~3割程度下落するといわれていますので、相続人はその程度の利益を得たと評価されることが多いようです。

  2. 遺産である建物に相続人の一人が居住している場合

    被相続人と相続人の一人が同居していた場合、相続人は家賃の負担なく無償で済むことができたという利益を得たように見えますが、これによって被相続人の遺産が減少するわけではありませんから、特別受益の問題は生じません。 これに対し、被相続人と同居していない場合には、被相続人は自分で済んだり、有料で貸したりすることができる財産を無償で相続人の一人に使用させたことになりますから、特別受益の問題が生じます。

生命保険金

被相続人が、相続人の一人を受取人として生命保険に加入していた場合、受取人は被相続人の死亡により、保険会社に対し、保険金の支払いを請求する権利を取得します。支払いをするのは保険会社であり、被相続人ではありませんから、保険金は遺産には含まれず、受取人の固有の財産とされています。
したがって、生命保険金は原則として特別受益には当たりません。
ただし、受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が到底是認できないと評価できるほどの特別な事情があれば、特別受益に準じて持ち戻しの対象となります。ですから、遺産がほとんどないのに相続人の一人が高額な生命保険金を受け取ったような場合には、持ち戻しの対象とされる可能性があります。

死亡退職金、遺族扶助料

死亡保険金には、給与の後払いという性質のものや、遺族の生活保障という性質者のものがあり、一概には言えません。退職金の支給の根拠となる規定(就業規則など。公務員の場合は法律、条例)で受取人を指定することができるか、指定がない(できない)場合の受取人の順序が決められているか、決められている場合には相続人の範囲、順位と一致するかなどの事情から退職金の性質を判断し、死亡退職金が遺産か遺族の固有の権利かを確定する必要があります。たとえば、国家公務員の場合、相続人ではない内縁の妻が死亡退職金を受け取ることができることもあることからすれば、死亡退職金は遺族の生活保障のための固有の権利であり、遺産ではないと考えられ、遺産でない以上は特別受益には該当しないということになります。

特別受益の評価

評価の基準時

特別受益の対象となる贈与には期間の制限がないので、贈与の後に財産の価値が大きく変動していたり、場合によってはすでに滅失していたりすることもあります。そのため、特別受益にあたり持ち戻しが必要だとして、いつの時点で財産を評価するのかが問題となります。この点については、相続開始時を基準時とすることになっています。

評価の方法

  1. 贈与の目的物が受贈者の行為によって減失したり、その価額の増減があった場合

    贈与を受けた者の行為によって贈与の目的物が滅失したり、価値の増減があった場合には、相続開始時に元の状態のままであるものとみなして評価します。特別受益は相続人間の公平を図るものですから、相続人の行為による滅失、価値の増減は評価に含めないことになっているのです。

  2. 贈与の目的物が受贈者の行為によらないで減失したり、その価額の増減があった場合

    これに対し、贈与の目的物が天災など贈与を受けた者の行為によらずに滅失した場合、評価を0とすることになります。また、贈与を受けた者の行為によらずに目的物の価値が増減した場合、相続開始時の価値で評価します。

  3. 特別受益財産の具体的な評価方法

    金銭は、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算して評価することになっています。また、金銭以外の財産は、相続開始時のその物の取引価格が特別受益の額となります。
    ただし、建物のように時間の経過によって当然に価値が下がるものについては、相続開始時の価格では不公平だという異論もあります。

特別受益がある場合の相続分の算定方法

共同相続人中に特別受益者が存在する場合には、次の方法で相続分を算定することになります

  1. 相続開始時の相続財産価額 + 贈与価額 = みなし相続財産額
    なお、遺贈の場合には、遺贈財産の価額は相続財産の価額中に含まれていますから、加算する必要はありません。
  2. みなし相続財産 × 法定または指定の相続分率 = 本来の相続分
  3. 本来の相続分 – 贈与または遺贈価額 = 具体的相続分

算定の具体例

会社を営むAが死亡して、その遺産が6,000万円ありました。相続人は妻Bと長男Cと次男Dの三人で、妻Bは200万円の遺贈を、長男Cは住宅資金として1,000万円の贈与を受けていました。この場合の具体的な相続額は次の通りです。

  • ・妻B :(6,000+1,000)× 1/2 – 200 = 3,300万円(ほかに200万円の遺贈)
  • ・長男C:(6,000+1,000)× 1/2 × 1/2 -1,000 = 750万円
  • ・次男D:(6,000+1,000)× 1/2 × 1/2 = 1,750万円

特別受益額が相続分を超えているときは、超過分を返す必要があるのか

特別受益者が相続分よりも多くの生前贈与・遺贈を受ける場合を、超過特別受益者といいます。
超過特別受益者は、相続分として新たに何も取得することはできませんが、相続分を超えた部分を返還する必要はありません。遺留分の侵害がない限り、被相続人の意思が尊重されるべきであること、返還が必要とすると(特に生前贈与の場合)特別受益者が思わぬ損害を被るおそれがあることなどが理由とされています。

特別受益の評価

被相続人が自らの意思で持戻しを免除

被相続人が持ち戻しを要しないという意思表示をしたときは、遺留分を侵害しない限り、持ち戻しは免除されます。遺留分に反しない限り被相続人は自己の財産を自由に処分できるので、相続人間の公平よりも被相続人の意思が尊重されるのです。

意思表示の方法

  1. 贈与に関する持戻免除の意思表示

    生前贈与に関する持戻免除の意思表示には特別な方式はなく、贈与と同時になされる必要もありません。

  2. 遺贈に関する持戻免除の意思表示

    これに対し、遺贈に関する持戻免除の意思表示は、遺贈が遺言によってなされる以上、遺言で行う必要があります。

黙示の意思表示

持戻免除の意思表示は、明示であると黙示であるとを問わないとされていますが、実際には明示の意思表示がなされることは少なく、黙示の意思表示があったといえるかが相続人間で争いになることが多いといえます。
黙示の意思表示が認められるには、一般に、その贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させる合理的事情があることが必要になります。 過去の事例で黙示の意思表示が認められたものとしては、

  • ・相続人が家業の後継者であったり、被相続人と同居して老後の面倒を見ている場合
  • ・相続人が心身の障害により、独自に生計を立てることが難しい場合

などがあります。

まとめ

このように、特別受益の制度は複雑で、何が特別受益に当たるか、特別受益に当たる場合には具体的相続分はどうなるのかなどといったことについては、簡単には判断できません。ですから、特別受益が問題になるような事案では、相続に詳しい弁護士に早めに相談するといいでしょう。