遺言書の普通方式と特別方式について

生前成しえなかったことや子孫の繁栄を願い、故人の意思を尊重するために遺言を残す方がいます。遺言は、民法の「相続法」に則り、遺言書によって残されますが、遺言書の残し方にはいくつか種類があります。それは、遺言書の「普通方式」と「特別方式」です。ここでは、遺言書の普通方式と特別方式について、それぞれ解説していきます。

遺言書の普通方式とは

遺言書の普通方式は、用途に応じて3種類あります。遺言者が自筆で日付や氏名を記載し、押印して遺言者が保管する「自筆証書遺言書」と、遺言者が公証人へ口述することで承認してもらい、公証役場にて保管される「公正証書遺言書」、そして、遺言者が証人から承認を得て、遺言書の存在は明らかにするものの、内容は秘密にして遺言者が保管する「秘密証書遺言書」です。

これら3種類は、遺言方式として一般的なものであり、遺言者の意思をそのまま引き継ぐ性質があります。遺言書は、むやみに改ざんされたり公表されたりするものではありません。一般的なこれらの遺言書は、厳格に管理されており、改ざんや偽装を防止する役割があります。

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遺言書の特別方式とは

遺言書の特別方式は、用途に応じて3種類あります。しかし、普通方式のような、一般的な日常生活で起こることを想定して作成される遺言書とは異なり、死に直面する特別な事由が発生したときに作成されます。ここでは、遺言書の特別方式のうち、「死亡危急者遺言書」、「船舶避難者遺言書」、「遠隔地遺言書」のそれぞれの特徴と、役割について解説していきます。

死亡危急者遺言書とは

死亡危急者遺言書とは、病気や事故、その他の事由で死亡の危急に迫られた方が残す遺言書です。別名で危急時遺言書、一般危急時遺言書とも呼ばれますが内容は同じものです。この死亡危急者遺言書は、病院に入院中であったり、施設に入所していたりする方、余命を宣告された自宅療養中の方が主な対象となります。余命を宣告されたことで、残りの寿命を配慮し、すぐに遺言書を作成しなければならない場合に採用されます。このように、特別な事由で余命残り僅かと宣告され、緊急的に遺言を残さなければならない方への対応としてこの方式が存在します。

死亡危急者遺言書の方式を採用する場合は、いくつか注意点があります。死亡危急者遺言書も他の遺言書と同様、民法に則って記述しなければ無効となってしまいます。まずは、身内ではなく利害関係の無い方を3名選ばなければなりません。さらに、死亡危急者にも関わらず、状態が回復し遺言書を書けるようになってから6か月を経過した場合も無効となりますので注意が必要です。

次に、死亡危急者遺言書の手続き方法について解説します。選ばれた3名の証人のうち1名が遺言者からの遺言を口述します。このときに、不正や間違いがないように、他の証人も同席します。そして、口述した遺言書を遺言者に閲覧してもらい、さらに口述で音読して遺言者に確認してもらいます。このときに、遺言書に口述された内容が趣旨と合致しているかどうかを判断するため、遺言者からの同意が必要となります。そして、3名の証人が、それぞれ遺言書に自筆で署名し捺印します。それぞれ確認した後、遺言のあった日から20日以内に家庭裁判所に死亡危急者遺言を申し出て承認を得ます。

船舶遭難者遺言書とは

船舶遭難者遺言書とは、船舶で航行中に、船舶内での死亡や危急に迫られた方が残す遺言書です。別名、難船危急時遺言とも呼ばれますが、内容は同じものです。船舶遭難者遺言書は、証人が2人以上必要であり、遺言者からの遺言を証人が口述します。死亡危急者遺言書よりも必要な証人数が少なく、危急時において対応する場面も少ないことから、比較的安易に作成することができます。船舶遭難者遺言書は、事前に家庭裁判所からの承認を得ておかなければ効力を発揮しません。仮に、遭難時の状態から解放された場合に、遺言者の口述した遺言の記憶を元に、証人が思い出しながら記述して署名捺印しても有効です。また、場合によっては、航空機遭難時にも適用される場合があります。

遠隔地遺言書とは

遠隔地遺言書とは、遺言者が一般社会と隔離されている状態により、普通方式による遺言の手続きが不可能と判断された場合に適応される遺言の方式です。遠隔地遺言書は、大きく分けて2種類あります。1つ目は、伝染病により病院や刑務所などを含む施設に隔離されている方が残す遺言書です。そして、2つ目は、船舶中における陸部から隔離された場所で遺言を残す遺言書です。

伝染病での隔離者が残す遺言書は、立会人として、1人の証人と1人の警察官が必要です。また、船舶中における遺言書は、立会人として、船長または、1人の事務員および2人以上の証人が必要です。

遠隔地遺言書は、伝染病と船舶ともに、遺言者が自ら作成しますが、家庭裁判所の承認は不要です。さらに、自筆である必要はありません。遺言者や証人、立会人のそれぞれの署名捺印があれば効力を発揮します。

遺言でできること

遺言によってできる範囲が民法によって定められています。いくつかありますが、その中でも代表的なものが、子孫に関する認知、未成年後見制度に関することや未成年後見による監督人の決定、相続分の指定や指定委託、推定相続人の排除と取消、祭祀承継者の指定、特別受益者の相続分に関する事柄、遺産分割の禁止、相続人相互の担保分の指定、遺贈、遺贈減殺分の指定、遺産分割方法の指定と委託に関する事柄、遺言執行者の指定と委託や遺言執行者の報酬についての事柄、遺言の撤回、信託、承継、一般財団法人設立のための寄付行為の設定が挙げられます。

ここでは、これらの代表的な事柄のうち、分かりにくいものに関して詳しく解説していきます。

相続分の指定や指定委託

複数の相続人が存在する場合は、原則として遺産分割行儀によって、財産を相続する割合や分け方などを決定しなければなりません。基本的には、遺言に記載があればその意思に従って行わなければなりません。ほとんどの遺言は、内容に遺産分割方法や相続分の指定について双方に効力を持たせています。例えば、土地不動産に関しては配偶者、証券などの取り扱いに関しては長男、銀行に預け入れてある定期預金は長女などの記載がされている場合があります。このように記載されていれば、相続分の指定を行ったことになります。

遺産分割の禁止

遺産分割行儀によって、相続分の指定や委託方法が決定します。遺産分割協議は、遺言に従って執り行われますが、遺言によって、遺産を分割する時期を指定することができます。仮に、遺言に遺産分割の禁止事項の内容記載があった場合、最長5年間は据え置くことができます。

相続人相互の担保分の指定

相続人相互の担保分の指定とは、遺産分割協議において財産を分割した後に、相続した財産の価値が、他の相続人と比べて明らかに劣っていた場合に、どのような対応をしていくのかを定める形式のことです。例えば、相続した不動産に欠陥箇所が発覚し、財産の価値が想定よりも低く設定されてしまった場合です。このような場合は、相続人同士の協議において再度決定しなければなりませんが、その多くは、他の相続人に対してその欠陥箇所の補修を請求するケースが多くみられます。

遺贈減殺分の指定

遺言書の内容に、遺留分を侵害する記載があった場合は、遺留分の権利者が家庭裁判所に対して遺留減殺分の請求をすることができます。遺贈減殺分の指定を行う場合は、相続するどの財産を対象にするのか、また、遺贈減殺方法についても定めておく必要があります。

遺贈

遺贈とは、相続する方が亡くなった場合に、特定の方に財産を相続するための遺言のことです。遺贈の特徴は、原則として法定相続人でなくても財産相続することができます。遺贈には、財産の全てや一部を相続するための包括遺贈と、特定分の財産を相続するための特定遺贈があります。

また、膨大な財産を相続することができる場合に、法人を設立する内容の遺言を残すことも可能であり、法定相続人に対して遺贈する場合は特殊なケースが多くあります。

遺贈の種類と効力がなくなるケース

信託

信託とは、生前に信託銀行を指定しておき、亡くなった場合に遺言によって遺言執行人と信託銀行によって、遺産分割がスムーズに行えるようにするための形式です。相続人同士の遺産分割協議の多くは、スムーズに執り行われるケースはあまりありません。信託の手続きに関しては、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。

承継

承継とは、遺言により祭祀に関する継承者を指定することです。祭祀に関する事項は、地域の環境や習慣によって異なる場合がありますが、原則として地域習慣や個人の意思を尊重した遺言によって定められることがあります。

遺言書をめぐるトラブルについて

遺言書をめぐるトラブルには、故人の財産が直接関係する場合が多いことから、大きなものから些細なものまで大小さまざまなトラブルが発生します。ここでは、遺言書のトラブルの中でも、よく耳にする「遺言書を勝手に開封してしまった」、「遺言書が後になって出てきた」などのほかにも、発生する頻度の高いトラブルについてご紹介していきます。

発生頻度の高い遺言書をめぐるトラブル

遺言書は勝手に開封してはなりません。仮に、遺言書を勝手に開封した場合は、直ちに家庭裁判所に報告し承認を得なければなりません。場合によっては、過料の処罰対象となるため、細心の注意を払わなければなりません。

また、遺言書が後になって出てきた場合は、発覚した時点で遺言書の内容に沿って対応しなければなりません。遺言書は、故人の意思を尊重しなければならないため、仮に、遺産分割行儀を行っていたとしても、その内容は遺言書が優先されます。

しかし、そのほかにも発生する頻度の高いトラブルはあります。ここでは、他の事例についてもご紹介していきます。

隠し子が発覚した場合

遺言書による財産の後継で、突然隠し子がいたという事実によるトラブルが発生することも多く実在します。例えば、生前遺言者に隠し子が存在し、秘密証書遺言書によって事実が発覚した場合です。遺言者の遺族にとっては、許しがたい事実でありなかなか受け入れられず、大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。しかし、隠し子でも民法上、故人の財産相続の権利が発生します。

仮に、隠し子を除外して遺産分割協議を行ったとしても、隠し子の遺留分に関する権利が発生しているため、隠し子が遺族に対して請求してきた場合には、分割し直さなければなりません。

そのため、財産相続に関する手続きをスムーズに行うためには、隠し子が発覚した時点で遺産分割行儀においてしっかり話し合う必要があります。しかし実際は、故人の遺族と隠し子が、遺産分割協議においてスムーズな財産相続ができるケースはほとんどありません。そこで、まずは、隠し子が発覚した場合の遺産分割におけるご相談は、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

遺言書に記載されている財産が無い場合

遺言書に、財産相続に関する内容の記載があるにも関わらず、実際にはその財産が存在しなかったケースがあります。例えば、銀行に預け入れている財産を相続させる旨、遺言書に記載があったにも関わらず、実際に預け入れてある財産がなかった場合です。

本来存在するはずの財産がないことで、大きなトラブルとなるケースも少なくありませんが、遺言者が自分で財産を使ってしまっていた場合は無効となります。しかし、遺言書の内容がすべて無効になることはなく、民法1023条の第2項に定められているとおり、銀行に預け入れている財産相続に関する内容のみ無効となります。

本来、相続されるはずの財産が使われていた場合

遺言書に記載されている財産相続において、生前故人が使用したのではなく、遺族や相続人が、本来相続されるはずの財産を使ってしまっていた場合は、使用した相続人に対して、使用した分の遺留分を請求することができます。場合によっては、損害賠償問題に発展することもあり、大きなトラブルとなる原因となります。この場合、多くは裁判での争いになるため弁護士に相談するとよいでしょう。

まとめ

最後に、遺言書の種類や方式は、用途や状況に応じてさまざまな形式が存在します。故人の意思を正確に遺族に受け継ぎ、財産をスムーズに相続できるようにしなければなりません。遺言書の取り扱い方や対応については、まだまだ一般社会では認知されておらず、弁護士などの専門家でなければ対応が難しい場合があります。

遺言書を発見した場合や遺言書を作成したい場合など、遺言に関する問い合わせは、是非、専門家である弁護士にご相談ください。